michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

公園

 

塔島ひろみ

 
 

大きいものは大きいものに呑まれたのだ
少しあたたかくて やさしくて
何だがくっついていたかった
ずっとくっついていたかった
安心だった 気持ちよかった
大きいものは調子に乗って 風に乗って
もっと膨らみ大きくなって
ちょっと怖い感じになって
しがみついてついていくけど 精一杯で
手が疲れて 放して
私は落ちた
大きいものは私なんかにおかまいなし
大きくぶわっと広がって
分厚いまま巨大なコンドルのように空をおおった
そして見てたら もっと大きなものが来た
もっと大きいものが来て 大きいものを呑みこんだ
あっという間に呑みこんで
それからそれは空に呑まれた
青空に呑まれた
何もない
手を伸ばしてもさわれない
みんななくなってしまったよ
太陽がまぶしく 肌がかわいて
のどもかわいて
川の方に歩いていく
川の前に公園がある
広い広い公園がある
昔はなかった公園がある
誰もいない公園がある
大きなものがここにあった
今はなくて
ただ 誰もいない公園があった
すべり台とブランコがあった
私は川に向かっている
川に行くと向こう岸が見えるから
私はかつて 
向こう岸に住んでいた
はるか向こう岸に住んでいた
振り落とされてこっちに落ちた
それでこっちに住み もう向こうには戻らない
公園がある
よく見ると 小さな人があちこちにいる
大きなものからこぼれ落ちた 小さなものがあちこちにいて
大きなものをのみこんだ空の下で
大きなすべり台にかけあがって
手をのばして
うわっ 飛び降りたよ 転がって 起き上がって
泥んこまみれで 笑っている
ケタケタ ギタギタ キラキラ クツクツ

 
 

(10月某日、東立石緑地公園付近で)

 

 

 

ノッたもん勝ち

 

辻 和人

 
 

たまーにお願いするんだ
家事育児代行サービス
地域のNPOが運営してて安いお金で引き受けてくれる
コミヤミヤ・こかずとんはかわいいけど
双子育児はどうしても寝不足になるしたまには外でひと息つきたい
今日はミヤミヤが美容院、ぼくはお昼寝
ということで、ピンポーン
やったぁ、Yさんだ
この人何度かお願いしたことあるけどすばらしい
70手前くらいの年齢だけど昔保育園に勤めててね
子供をあやす技術バッチリなんだ
Yさん見ていきなり泣き出すコミヤミヤとこかずとん
「はいはい、元気がいいですね、手を洗わせていただきますよ」
洗面所から出てきたYさんが割烹着型エプロン着ると
ぴたっと泣き止むコミヤミャとこかずとん
この古びたエプロンのぼわぼわ感がいい
太い腕広げて
交互にぼわぼわ包む
包まれた方はほけーっとした顔
「子供たちが落ち着いたらモップで床を掃き掃除していただけますか?
 私、上で休んでますので何かあったら呼びに来て下さい」
目覚ましかけてベッドに倒れ込んだ、さぁ、寝るぞぉ

ふぁー、よく寝た
2時間たって下に降りると
おやおや、2人ともギャン泣きしてる
こいつらもお昼寝から覚めたばっかりで頭が混乱してる
ぼくなら取り乱すところだけどYさんは違う
ガラガラを鳴らしながら太い声で歌いだす
「ぞーおさん、ぞーおさん、おーはながながいのね」
「めーだーかーのがっこうはー、みーずーのーなかー」
「あっめあっめふっれふっれかーさんがー」
大昔の歌ばっか次々と、2人の上で身をかがんで
コミヤミヤが手を振り回して泣いても
こかずとん足バタバタさせて泣いても
動じない、動じない
「そうなのぉ、泣いてるのぉ、泣きたいんだよねぇ。
 じゃあもっと歌ってあげるからねー」
泣いてるから歌ってあげるってどういう論理だ?
しかし、ほれ見よ
コミヤミヤ、泣き止んでYさん見上げてる
こかずとん、泣き止んで微笑んでる
「すごいですね、さっきまであんなに泣いてたのに」
「リズムですよ、幾ら泣いてても騒いでても
 こっちがそれ以上にノッてると子供たちは必ずノッてくるんです。
 こういうのはノッたもん勝ちなんですよ、それにしても2人ともかわいいですねぇ」
皺くちゃの笑顔きらきら

地域の宝だなぁ
このすばらしい仕事に見合うお給料出てるのかなぁ
NPO勤めだもんなぁ
ああ、でももらえるお金少なくても引き受けちゃうんだろうなぁ
子供相手の仕事が
好きで、好きで、好きで
仕方ないんだろうなぁ
ううっ、ぼくはここまで仕事に情熱持てているだろうか
早く休日にならないかとかそんなことばかり考えてた
育休終わったらぼくも
Yさんみたく
ノッて、ノッて、ノッて
仕事して会社の業績に貢献するぞ
ううっ、Yさん、これから暑くなるからとにかく身体に気をつけて下さいね
エプロンみたいな歌声がぼわぼわ2人を包んでいく
「かーらーすー、なぜなくのー、からすはやーまーにー」

 

 

 

無題

 

たいい りょう

 
 

死という名の列車に乗って
はるか はるか彼方 
何億光年の星を旅する

ワインボトルは 
わたしのこころのように
空っぽになってしまったけど
愛する人との思い出が
そこには 詰まっている

黄色い三角錐の形をした流雲が
列車の窓を叩いたとき
これは 亡者たちの記憶の欠片だと感じた

わたしは 欠片に 手を伸ばしたが
ふれると とたんに 水泡のように
消えてしまった

その音は 耳を砕くような烈しい音で
わたしは 一瞬 音を見失った

 

 

 

海浜公園から

 

さとう三千魚

 
 

千曲では
根石さんと

戸倉の温泉に入り
近所の居酒屋の

きのこ鍋で飲んだのだったか

千曲から
帰って

何日か
経った

何日か
経って

何をやったのか
覚えていない

海は見ただろう

今日も
午後に

海浜公園から海を見ていた

モコは
居間のソファーに眠っていた

根石さんは
千曲川の流れを見て

詩は
一瞬だよな

そういった

詩は
一瞬でも

まだ生きてるから
書こうと思います

そう

わたし
いった

海浜公園では風が吹いていた

海の向こうに
半島が青く横たわっていた

半島の上に白い雲がふたつ浮かんでいた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

雲を描く

 

工藤冬里

 
 

縫いぐるみの尻尾のニ線の切り結ぶ哺乳類の目付きに動く大皿小皿
複合的な大小のからくりが組み込まれた洗濯機のような構造を考えていると嘔吐せざるを得ない
歴史を定点で観測する百葉箱的な設え
アレウトAleut

火によって明らかになる
焼いてみたら分かる
土台があるのに焼け落ちた
弱い部分を補強
土は燃えない
雲を描く
土台の上に建てたものが燃えずに残るなら
ひと言の土壁
ひと言の土が塗られて
燃え残れば
雲を描く
雲を描くことを考えた
辛抱してくれていると思うと安心する
鳥の視界に 頭蓋の中を 置き換えて
風が強くて寒い
辛抱強さは過渡的な側面として強調されているのではない
それは元々全体の中に含まれていたのだ
風が少し冷た過ぎる
クラフトフェアで辛抱し
アートフェアには辛抱しない
農家の人はコントロールできないことがある限り辛抱する
待っている間 優先順位を守ると 辛抱が勝ってくることがある
待っている間 畑仕事よりも優先すると 辛抱が優ってくることがある
待っている間待つことよりも辛抱を優先させる

雲を描こうとしている
筆は使えない
ターナーとか絵筆だろうけど
滲ませるといいのかもしれない
白は輪郭がはっきりしている
鳥は相変わらず電線に止まっている
鳥の脳内に置き換えることは忘れていた
鳥は雲を見ている
風が 寒い
漫画のような雲は描きたくない
字体が空に浮いている
柱とポーチはローマを排したことによってさびしくなっている
彫り物のひとつもなくて末世かな
オレンジの酸化焼成の屋根の一帯
この無装飾も辛抱なのか

辛抱されている時間

すぐにキレない
あ、鳥はいない
それぞれが負っている
メタモルフォース
個人的に体験を通して当て嵌めることを待つしかない
待っている間は
チョッキを着て辛抱
疑わなかった
クラフトフェアはもう寒いだろう
試飲の紅茶を一杯貰い
辛抱は冥王星のように遠くて近い
もっと穏やかで幸せな気持ちになれるし、もっと健康になれる
自分では無理

引け目からからくる辛抱と雲との違い

 

 

 

#poetry #rock musician

露寒の指に触れるや小さき花

 

一条美由紀

 
 


ワタシハワタシノナカノ彼女デアル
彼女であるワタシはワタシの全てを知っている
でもワタシは彼女であるワタシを拒否し見ようとしない
彼女であるワタシはワタシの一番の味方であり友人でもある
彼女であるワタシは時に固く小さな実となる
そして待つ
ワタシをワタシが理解してくれる時まで

 


生まれた時から数字で考える機械と育ち、
この世は自分たちとは違う命の形があることを知っている
肉体だけに命が宿るわけではないの
私たちは浮遊する、肉の塊を超えて
私の実存は機械の中にもあり、あらゆる世界と繋がっている
私は我々で、我々は私
個人の肉体を超えて未来を見つめてる

 


言葉遊びの結果は二次元で終わる