michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

走る姿

 

長谷川哲士

 
 

お前が走る姿
横向きでしか
見た事ない様な気がするけどな
凄く変な走り方だな
男みたいだよ

そんなの嘘だ
あたしの事よく見てないから
そんな事言えるんだ
あんたに向かって正面から
走ってぶつかってるじゃんか
そしてあたしの事お前なんて
呼び方すんな
男みたいなとか古臭え事
言ってんじゃねえぞ馬鹿

そう言えば
この間職場まで迎えに
行った時
遅くなっちゃって
って言いながら鬼の形相で
前から走って来たの見て
思い出したよ

鬼だと馬鹿野郎
てめえが車ん中で
イライラしてるんじゃねえかと
推測して速度上げてんだ

最初のデートの待ち合わせ
お前遅れて来て
ラガーマンみたいに
前方から走って来て爆笑したよ
冷めるなあなんて

ラガーマンだと
てめえラグビーの事なんか
何も知らないだろ
このガリガリ野郎馬鹿野郎
お前って言うのやめろってんだろが

しいいいんと静寂
アナログ時計の秒針は
電池が切れそうカチカチカチの
間が抜けてしづくが
ぽたりぽたりと落ちるよう

あったなあったな
記憶の地層穿り返して
切なくなって
涙出そうになっちゃったよ

あったなあったなだと
何全部終わった気になってんだ
涙出てるのはこっちだ馬鹿
鼻水もだよ花に水やる時間だよもう

もう大丈夫だからよ
そんなに力走するなよ
何処にも行かないからよ

何処にも行かない競争だな
負けないよお馬鹿さん

 

 

 

花と会う

 

さとう三千魚

 
 

今朝も
早く

目覚めて
河口まで

歩いていった

川沿いの桃畑の
桃の木にはピンクの花が咲いていた

菜の花も
まだ咲いている

茎の下のほうは
尖ったさやとなっている

ヘラオオバコかな
ほそい茎の先に白い花穂が風に揺れている

ヒメツルソバとも会った
ピンクの星雲が路傍に群れ咲いている

大病院の下の小道では木のベンチに座った
縦に割られた波の文様の木のベンチだった

このところクルマで黄色の花と擦れ違うことが何度かあった
レンギョウの花だろう

レンギョウの黄色の花と街中で出会った
一瞬だが黄色の花がこの世を貫いていた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

岸のない川

 

工藤冬里

 
 

家族を創ろうと思って造ったのに死に別れるのはなぜか
テザリングのために俺たちは斜めに向き合い
英数字を読み上げた
晴れやかなものを犠牲にして
銃のように空洞はすぐに腐敗して
見分けが付かなくなる
どんな武器も役に立たない
光の残影が赤い線となっている
詩を終わらせようとしてこの店に来た
昔の学校のようだ

 

 

 

#poetry #rock musician

また旅だより 68

 

尾仲浩二

 
 

中学の同級生数人の集まりの翌日に久留里を散歩
小さな城下町で名水が湧き、酒蔵がいくつもある
試飲コーナーもあちこちあるが、昨夜の酒の余韻がまだあるし
あの頃の可愛かった女子や、早死してしまった奴の顔を思い出しながら
暖かな日差しの中、桜吹雪の小道をのんびり歩けば酒はいらない

2024年4月13日 千葉県久留里にて

 

 

 

 

かもめかもめ春濤の青に

 

加藤 閑

 
 

かもめかもめ春濤の青に呼ばれ来よ

末黒野に背中冷たくして泣けり

黒薔薇をくぐりて一つ魔を祓ふ

漂流記春服の裏に書いてある

行く春や描いてない絵の隅にゐる

洲蛤空海の舌と教へられ

白骨になるには骨のない青虫

うぐひすの奥義は知れり系図消す

たまご抱けば獣の腕となる朧

虎杖に並びて立てど吾一人

 

 

 

人間の屑(Star Dust,)

2023©Cloudberry corporation
 

今井義行

 
 

僕は、人間の屑を見た、そこで。
葛飾区に唯一という、その場所。
精神病院というのは、いつも星屑の瞬く夜だ。

僕の、閉鎖病棟の、病室には
2人、拘束されている患者が居る。
大暴れして、叫ぶので、彼らには手枷足枷、口には猿ぐつわ…。
食事の時だけ、それは、解かれる。

僕は、と言えば、彼らのことを言うことはできない。
両腿の筋肉が恐らく強い抗鬱剤の影響で断裂し全く歩けなくなり、ストレッチャーで
ここに運ばれてきた。

臀部には、ぐるぐると分厚いおむつ。寝返りを打つ時くらいしか動けない。うんちが漏れる、おしっこが漏れる。定期的に看護師が巡ってきて僕のおむつを交換する。
「ああ、一杯出てるなあ!」

僕もまた、窓辺の、星屑に照らされている、人間の屑、なのだろうと、嘆息する。

人間の屑、と断罪してはいけないのかもしれないが、この場所よりも酷い場所って
日本にあるのだろうか…?収監されたことは無いけれど、刑務所の中よりも酷いんじゃないか…?

…と、夜明けまで悩んだ挙げ句には薄紫色の朝が来る。時が進んで、朝8時、朝食の時間になる。配膳係が、部屋に入ってきて、朝食のお盆を配る。

「田中さん、朝ごはんですよ!」
配膳係が、隣で拘束されている患者に声を掛ける。隣で拘束されている人は、「田中さん」というのだ。田中さんは、手枷足枷と猿ぐつわを解かれて、電動ベッドを食事できる角度まで起こされる。田中さんの食事内容は、窒息しないように、とろみのついたお粥とおかずの刻み食だ。

僕はと言えば、丼に盛られた普通食の白ごはんと深海魚か何か知らないが、魚の切身の照り焼きときゅうりのお新香とワカメの味噌汁。ほぐした魚の身で温かい白ごはんを食べると、僕の中には、少しだけ力が湧いてくるのだった。

2人並んで、飯を食っている2つの星屑たちは、そんな時、例えば、一緒に思いを浮かべることだろうか?

…………青春は、短かった、な。

「田中さん?」と、僕は、田中さんに語りかけてみた。田中さんは、スプーンを休め僕の方を振り返り、何か喋ったが、何を言っているのか、さっぱり解らない。栄養が脳まで届いていない、という感じなのだ。

恐らく田中さんは、生活保護受給者で、この病院に1年居ても2年居ても医療費は無料という立場だろう。その一方で僕は精神障害者年金受給者なので厳格に3割負担。
高額医療費還付制度があるにしても、1年居たら、何十万もの負債を抱え込むことになるだろう。

飯を食いながら、僕は、「何とか、ここを、脱出しなければならない」と思った。

飯は、まだ、湯気を立てている。

きゅうりのお新香をパリパリ噛りながら、僕は、単なる、人間の屑かもしれないが「まだまだ、希望のようなものは、持てるぞ」と考えたのである。

 

(2024/04/07 グループホームにて。)