鈴木志郎康
ドブチャク、
ドブチャク、
トップチャックならまだしも、
ドブチャクはいけません。
でも、
ドブチャク、
ドブチャクが続いてるんですね。
困ったもんだ。
ほら、
また、
ドブチャク、
ドブチャク。
ドブチャク、
ドブチャク、
トップチャックならまだしも、
ドブチャクはいけません。
でも、
ドブチャク、
ドブチャクが続いてるんですね。
困ったもんだ。
ほら、
また、
ドブチャク、
ドブチャク。
ヘラ、
ヘラ、
ヘラ、
ヘラっちょ。
万力って、
知ってるかい。
大きい横万力、
鉄の塊で挟んで、
太いネジで締め付けて、
挟んだ木片なんかに、
ヤスリを掛けるって道具。
その横万力に、
頭が挟まれちまって、
動かない。
もっと締め付けられたら、
頭蓋骨が砕けちゃうよおって、
感じでざんす。
いや、
いや、
頭が痛いってんじゃない。
首が回らないってじゃない。
空想、
空想ざんす。
万力の空想ざんす。
ヘラ、
ヘラ、
ヘラ、
ヘラァ、ア、ア、ア。
30年前に、
横万力を買ってきて、
木材を挟んで、
切ったり、ヤスリを掛けたり、
三角の小テーブルを作ったでざんす。
あの万力は何処に行っちゃたかなあ。
ヘラ、
ヘラァ、ア、ア、ア。
ブオーッ、
ブオーッ、
ブオーッ。
まっ、麻理、
そんな長い剣をどこに、
隠してたの。
それで、
わたしを刺し殺すの、
わたしは麻理に刺し殺されるの、
悔しいけど、嬉しいような。
これがわたしの愛なんだ、
これがわたしの愛なんだ。
麻理は、
わたしを刺し殺して、
猫のママニを抱いて、
黒い馬に乗って行ってしまったっす。
ブオーッ、
ブオーッ。
ロマンチックざんす。
いいざんす。
志郎康さんが、
眠り際に見た深あーい、
思いざんすね。
でもね、
麻理さんは、
剣で刺し殺すなんて
いやーねえって言ってるざんす。
のろけ話でごめんなさい。
ブオーッ、
ブオーッ、
ウッフー。
プーッ、
プーツ、
ブリッ。
志郎康さん、
よくおならするねえ。
連れ合いの
麻理さんが、
プーッはいいいけど、
ブリッは嫌って言ってるよ。
プーッは、
自然だからいいの。
でも、
ブリッは、
一瞬止めるでしょう。
その次はわざとって感じちゃう。
それが嫌なの。
志郎康さん、
おなら意識とおなら無意識、
そこでけじめをつけなくっちゃ。
そんなこと言われても、
困っちゃうねえ。
どうやって、
プーッで止めるのよ。
お腹が活発でいいじゃん。
でもね、
わたしの前ではやめてね、
夫婦の中にも礼儀あり、
でしょう。
プーッ、
プーツ、
ブリッ。
あら、
また。
我がおなら、
青春の日々の、
春の日が差す
部屋の中にまで、
届け。
何ちゃってね。
はーい、
どうも、
どうも、
ありがとざんす。
お彼岸には実家に行ったでざんす。
俺っち、
概ねベッド生活。
電動車椅子と二本杖では、
行く機会がなく、
三年振りかな、
いや、
五年振りかな。
マトリ介護タクシーに一人で乗って、
蔵前通りから亀戸に行ったっす。
二本杖で身体を支えて、
降りたら、
その道端に、
俺っちの身体を心配して、
車杖の義姉が待っててくれたっす。
日曜日の歩行者天国になってる十三間通りを、
義姉の車杖と、
俺っちの二本杖とで渡って、
焼け跡からの鈴木セトモノ店は、
今や、マツモトキヨシとなった店の、
その二階の
亀戸の実家の兄の家に行ったんでざんすよ。
はーい、
どうも。
仏壇の両親の位牌に、
俺っち、連れ合い、息子らの、
合わせて八本の線香に、
火点けて、
手を合わせたんでざんす。
どうも、
どうも、
ありがとざんす。
今年米寿の兄は腰が曲がって、膝が痛い、
義姉も腰が痛い。
お寿司を取ってくれて、
会社で活躍する甥のこと、
それぞれの甥たちが会うこともない家族関係、
なんてこと、
さらっと熱心に、
話したんでざんす。
どうも、
どうも、
従兄弟たちも亡くなって、
もう、会うことないざんす。
なんか寂しいざんす。
血縁ってもんが、
遠くなっちまったで。
はーい、
どうも、
どうも。
いいや、
寂しがっちゃ、
いかん、
いかん、
政治家さんや
大企業の社長会長なんたら、
血縁で固めてるじゃん。
どっこい、
ほっこい、
俺っち、
なんとかかんとか、
まあ細ぼそっと、
敗戦後七十年七ヶ月を、
血縁から遠く、
個人で生きてきたんでざんすよ。
血縁は懐かしい思い出。
はーい、
どうも、
どうも。
昭和十七年か、
七歳のころか、
夏休みに、
本八幡の叔父さんの家に、
従兄弟同士で、
揃って遊びに行って、
昼は家の前の境川で泳いで、
夕方、
もの凄い雷鳴と稲光に、
みんな、
叔母さんにしがみついたって、
懐かしい思い出でざんす。
はーい、
どうも、
どうも。
ブリュッセルでISのテロがあったす。
トプザリンコ、
2016年3月22日現地午前8時ごろ、
日本時間午後4時ごろ、
トプザリンコ、
22日7時58分ブリュッセル空港の出発ロビーカウンター付近で、
最初の爆発、
自爆。
人々は逃げ惑う。
続いて9秒後、
隣り合うカウンターで、
爆発、
自爆。
人々は逃げ惑う。
更に約1時間後、
EU本部のすぐ近くの、
地下鉄マルベーク駅での
車内で、
爆発、
自爆。
人々は逃げ惑う。
日本人2名が巻き込まれ、
重症と軽傷。
トブザリンコ、
自爆したテロリストたちは、
ベルギー育ちでも、
ベルギー人として、
生きれなかったっすか。
トブザリンコ、
ベルギー人を敵にしたっすか。
トブザリンコ、
めめへあか、
ベルギーのブリュッセル、
行ったことないっす。
トブザリンコ、
めめへあか、
俺っち、
3月22日の午後4時ごろ、
家のベッドで、
相撲のテレビ中継を見てたっす。
さあ、これからお米研いで、
電気釜のスイッチ入れるっかって、
思ってたっす。
トプザアアアリンコ、
ゴンブロビッチャンコ、
ビッチャンコ。
この時、
ヨーロッパから日本まで、
怒りと恐怖の風が吹いて来たっす、
時代の流れが大きく右に変わって行くっすね。
ビッチャンコ。
二日後の朝日新聞3月24日朝刊に、
「ベルギーテロの衝撃」っちゅうタイトルの一面で、
北海道大学教授 吉田徹さんが語っているっす。
「すでにフランスでは、憲法改正の議論が進んでいます。
国家非常事態を条文に盛り込み、
テロに関わった重国籍者から国籍を剥奪できるようにするのが主な内容です。」
「安倍晋三首相は、憲法に緊急事態条項を盛り込む必要性を強調しています。」
ゴンブロビッチャンコ、
ビッチャンコ。
トプザリンコ、
ヨーロッパからの風に晒されても、
とにかく、俺っちは生きてるっすね。
前立腺癌になってるっす。
クスリ呑んで詩を書いてるっす。
麻理は難病だけど、
友人地域交流の場の
「うえはらんど」をやってるっす。
ゴンブロビッチャンコ、
ビッチャンコ。
議員の数合わせの
国会議事堂の中と、
今日も、
麻理と二人で
テレビ見て笑ってる
俺っちの家の中と
すげええ開きだっす。
ビッチャンコ、
ビッチャンコ。
注:爆発時のことは朝日新聞による。
ちょ、
ちょ、
ちょ、
ちょっと、
ちょっと、
縄文人が使ってた
縄文語、
それが
原日本語だってさ。
その一音語って、
を緒や矢み箕ゐ井。
二音語
いとひもなはつなあみ。
そして、三音語に加えて、
助辞、助動辞の
三千年、四千年。
その原日本語が
新来の民族の持ち込んだ諸言語と
語りあったってさ、
そうして、
今の日本語が
出来たんだってさ。
藤井貞和さんが書いてるさあ。
頭の中に青空が、
スーッと広がるっす。
ひい、
ちょっと。
陽射しがめっきり春らしくなってきました。
藤井さん、
しばらくお会いしてないけど、
どういう日々を送っていられるか。
ひい、
ちょっと、
ひい、
ひい。
注:この詩は藤井貞和さんの「日本文学源流史」からの引用で出来てる。
トロリン、
トロリン、
トロリン、
ヘッ。
ある男を、
その連れ合いが、
なじった。
ヘッ。
バカ詩人!
そっちじゃなくてこっちを持ってよ。
こっちのことを考えてね。
詩人でしょう、
あんた、
想像力を働かせなさい。
バカ詩人ね。
男は答えた。
仕方ねえんだ。
書かれた言葉はみんな自己中、
言葉を書く人みんな自己中、
詩人は言葉を追ってみんな自己中心。
自己中から出られない。
自己中だから面白い、
朔太郎なんか超自己中だ。
光太郎も超自己中だ。
えらーい、
有名詩人なんぞは、
みんな超自己中なんだぞ。
書かれた詩はみんな超自己中だ。
超自己中だからみんなが読むんだって。
何言ってるのよ。
それとこれとはちがうわよ。
バカ詩人、
バカ詩人、
バカ詩人。
へえ、
詩って超自己中を目指すのね、
バカ詩人さん。
ワッハッハッ、
ハ、
ハ、
ハ。
その男と、
連れ合いは、
揃って笑った。
トロリン、
ヘッ。
ドッ、
ドッ、
ドッ、
ドッ、
ドッ。
頰を強張らせて、
手振りを揃えて、
連中は通り過ぎて、
行ったっす。
嫌だねえ。
テレビ、
テレビ、
ウンチャラ。
ゾロペタゾロ、
ゾロゾロペタペタ、
ゾロ。
アイロンの効いた、
同じ服の女の子たち、
ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、
通り過ぎて、
行ったっす。
気に入らねえっす、
嫌だねえ。
テレビ、
テレビ、
ウンチャラ。
今じゃ、俺っち、
テレビばっかで生きてるっす。
テレビの外のこっちじゃ、
俺っちの、
傍に来て、
饅頭の、
半分をくれた人が、
いいっす。
トッ、
トッ、
トッ、
トッと来たっす。
ヒイ、
ヒイ、
ヒイ、
ピーと鳴らない
口笛吹いて、
土手を歩いていたら、
川面に、
ボロ服着た人が浮かんでいたっす。
女の水死体が浮かんでたっす。
そこいらの草の花を取って、
その上に投げたら、
一つだけ、
当たったっすね。
ヒイ、
ヒイ。
教室で、
国語の時間に、
土左衛門の
お姉ちゃんはなんで死んじゃったんだろうって、
お母ちゃんに聞いたら、
苦しいことがあったからよって、
言ってましたって、
作文に書いたら、
女先生は俺っちの頭に、
手を置いて、
黙って、
顔を左右に、
動かしたっす。
ヒイ、
ヒーチョト、
ヒイ、
ヒイ。
昔々の、
ピーと鳴らない、
口笛だったんだす。
ピー、
ピー。