たたたんたんた

 

辻 和人

 

 

「私、なんとなくですが、結婚式を挙げるなら神社がいいかなあ。
従弟が神社で式を挙げて、ああ、いいなあ、と。
派手なのは嫌なので、家族と親戚だけの式で…。
神前式で良ければ試しに何か所か行ってみませんか?」

どうですか、神前式の結婚式?
うーん、うーん
いやー、いやー
とゆーか、とゆーか
昔から「式」と名がつくものは全般的に苦手なんだよね
袴履いたりタキシード着たり
うわ、想像するだけで震えが走る

でもでも
こういうのも通り抜けなきゃいけない関門の一つだろう
彼女が望むことは何でもやろうとぼくは決めていたし
今までの人生で避けに避けてきた
うーん、うーん
いやー、いやー
とゆーか、とゆーか、に
向き合う時が遂に来た
そう考えてみよう

で、はい、今御茶の水駅です
10月の風が涼しく光る神田川を渡って
ミヤコさんの従弟さんが結婚式を挙げたという神田明神へ
ほほーっ、いい感じじゃない
ちょっと中華風(?)な真っ赤な社殿に、でっかいお茶目な大黒様の石像
ん、あの斬新なデザインの緑のお守りは?
はぁ? 「IT情報安全守護」
アキバが近いしねえ
歴史は古いししっかりした伝統を感じさせるけれど
素直な商売っ気が茶目っ気も生んでる
「気取りのない雰囲気がいいね。」
「従弟の結婚式の時、いい感じだなって思っていたんですよ。」

お昼をはさみ午後は飯田橋に移動して、東京大神宮を見学
社殿は落ち着いた色調で全体に荘重な感じ
花を植えた鉢と木の椅子が並べてあって
きれいな公園のよう
参拝してふと横を見ると
女性参拝者の多いこと多いこと
どうも東京大神宮は縁結びの神社として有名らしい
売店では縁結びのお守りがいっぱい
吊るされている絵馬は恋愛成就祈願がいっぱい
静かな境内は、実は熱気でいっぱい
「人気のある神社ですね。」
「落ち着いた雰囲気の中に活気があって、なかなかいいですね。」

翌週はまず信濃町の明治記念館へ
駅からテクテク歩いていると敷地がいかに広大かよくわかる
到着したら豪華なウェディングドレスの展示が目に飛び込んできて
会館はブライダルの見学や相談でごった返している
何組ものカップルと一緒にしばし待機
ようやく名前を呼ばれて係の人に案内してもらう
儀式の場所、披露宴の間、それに庭園
庭園はホントすごい
広いし手入れが行き届いているし、親族一同の記念撮影には最高だろう
でも
「賑やかすぎて落ち着かないかなあ。」
「そうですね。私たちはもっとこじんまりとやりたいですね。」

いよいよ最後、赤坂の日枝神社
ここはビルの谷間に位置していて
境内に辿り着くまでにながーい階段を昇らなくてはいけない
おや、途中からエスカレーターがついている
昇って昇って
ほい、いい眺め
昇りきった広い場所が神社の敷地で、何と宝物殿なんかもある
神門の横には奉納された酒樽がぎっしり
境内も広い
おりゃ、あれは
涎かけをかけたお猿さん夫婦の像
涎かけを真っ赤なマントのようにお洒落に着こなして
すっごく偉そう
偉そうで、そして、かわいい
荘重な雰囲気の中に癒しの要素
良く考えてるなあ
「祭神がお猿さんとはユニークだね。」
「そうですね。でも格式がある感じもしました。」

神社って今までお正月くらいしか来たことなかったけど
(子供の頃、自分勝手な願かけのためにのみ行っていた伊勢原の八幡様を除く)
じっくり見学してみるとどこも個性的で面白い
まさに「ぼくの知らなかった世界」
それにしてもミヤコさん、熱心だった
よく調べているし、よく見てるよな
ブライダルの係の人にも細かい質問してメモ取って
きりっきりりっ、仕事してる顔
勤務先でもきっとこうなんだろう
こういう姿も
「ぼくの知らなかった世界」だ

「ところで、今まで周った中で、和人さんはどこが良かったですか?」
「そうですねえ。
みんな良かったけど、やっぱり神田明神かな。
うまく言えないですけど、伝統あるけど庶民的っていう感じが、ね。」
「そうですよね。私たちには一番合っている感じがしました。
広さはぴったりだし、交通の便もいいですし。
長い石段なんかないから高齢の方でも安心して歩けると思います。
私たち、やっぱり感覚が似てるんですかね。」
ありゃま?
そんなトコまでチェックしてなかった
見ているポイントが違う気がするんですけど
でも結果オーライ
「そうだねえ、同じ神奈川出身だからかな。」
何となく調子を合わせてみました(笑)
ミヤコさん、上機嫌
「それじゃ明日にでも仮予約取っちゃいましょう。」

帰りにもう一回神田明神に寄ってみた
夕闇の中、ライトに照らし出された社殿は
三角形の屋根が赤く映えて美しい
賽銭箱に百円玉を投げて「無事に良い式ができますように」
同じタイミングで顔をあげて
ミヤコさんとにっこり
おや、どこからか
チープなお囃子の音がする
たたたんたんた、たたたんたんた、ひゅーぅ
お金を入れると動く、獅子舞おみくじかぁ
昔、こういうの大っ嫌いだったんだが
「和人さん、面白いですよ、獅子舞の動きうまく真似てますよ。」
2人組の女の子は獅子が運んできたおみくじ見て大喜び
うーん、うーん
いやー、いやー
とゆーか、とゆーか
で避けてきた「ぼくの知らなかった世界」が
どんどん近くなってくる
それどころか、どーっと押し寄せてくることだろう
大丈夫、受けて立ちますぞ
たたたんたんた、たたたんたんた、ひゅーぅ
うん、うん、うん!

 

 

 

籍の話

 

辻 和人

 

 

港の見える丘公園の見晴らし台でプロポーズなんかしちゃって
その後は
あれよあれよ
ぼくの両親は「良かった良かった。嬉しいことだねえ。」
あれよ
ミヤコさんのご両親は「そうですか。おめでとうございます。頑張って下さい。」
あれよ
式は来年の3月にしよう
それじゃ引っ越しは2月か
あれよあれよ
婚活で結ばれたカップルはとにかく決断が早い
結婚は何てったって共同生活だからね
仲良く暮らすための形を決めるってことは
恋愛そのものと同じくらい大切
「やらなきゃいけないこと、おおまかなスケジュール作ってみます。」
ミヤコさんはこういう作業は得意だ
喜々として項目を書き出して
「もう10月だからまずは式場探し。荷物の整理も頑張りましょう。」
あれよあれよあれよ

今日は週末だからミヤコさんのマンションにお泊まり
パスタ作って、一緒にお皿洗って片づけて
さあ後は手つないで寝るだけ
あれよあれよ、だ
ここで
気になるあのこと、聞いてみよう

「あのー、ミヤコさん。
籍のことだけど、ぼく、鈴木の姓に入ってもいいんだけど。」
そしたらミヤコさん
仰向けだった姿勢をこっちに傾けて
「わたし、弟いるから、辻の姓に入りますよ。
カズトさん長男なんだし、その方がいいですよ。」
ふーん、長男かあ
あれよ、とはいかないね

実を言えば
婚活してたくせにぼくは「籍を入れる」のが
ちょっとイヤなんだよ
お互い姓があるのにそれを1つにまとめるっていうのが
どうも、ね
2人の人間の暮らしを1つの籍で管理する
それもどっちか一方の姓で管理する
どうも、ね
少し前に用事があって母親に電話した時
それとなーく
「籍入れないで結婚するっていう選択したらどうかなー。」と言ってみた
「そんなのダメよ。ちゃんとしなくちゃ。」と当然のように言われて
なるほどねえ
世間一般ではそういう理解が主流だよねえ
もう少したつと変わってくると思うんだけどねえ
事実婚で「ちゃんと」している人なんかいくらでもいる
事実婚についてざっと調べて感じでは
相続の点で多少難があるだけで籍入れ婚と比べてさほどデメリットがあるわけじゃない
だから、まあ
姓を同じくすることへのイメージの問題
こいつが一番大きいんだろう

籍入れ婚については
同性のカップルを排除しているのが気に入らない
それと、家系に支配されてる感じが気に入らない
でもって、それを主に男が負うというのが気に入らない
気に入らないけれど
籍や家父長制をラディカルに批判するまでの気力はないんだよね
結婚制度は行政サービスとしてちゃっかり利用したいし
世間体というのもちゃっかり取り繕いたいというのが本音なんだ
ぼくたちの名前がいわゆる「下の名前」だけで
最初から姓なんてものがなければ
あれよあれよ
なんだけどねえ

でもでも
こんなことがあった
ノラ猫だったファミを避妊手術のために動物病院に連れていった時のこと
初めての入院にファミは随分暴れて鳴いたけど
その割には看護師さんたちに結構懐いて食欲もあったらしい
手術の傷も塞がって引き取りに行った時
ぼくの顔を見たファミは喜んで顔を擦り寄せてきてくれた
猫の健康手帳みたいなものを貰い、開いてみたら

「辻ファミ」

血がカァーッと熱くなるのを感じましたよ
ファミちゃん、ぼくのものなのか?
うっへぇー
猫は犬と違って役所に届ける義務はないし
籍に準ずるような類のものでも何でもないんだけど
それでも
ぼくが守らなきゃ、という意識が生まれて
困ったな、という感情と
嬉しい、という感情が同時に湧き起ってきた
今思えば、姓の力ってすごい、と感じさせられた瞬間だったってこと
面倒をみていた他の猫ちゃんたちも
その後みんな「辻」の姓を持つようになった

ふと横を見ると
ミヤコさんはスースー寝息を立てている
ぼくはつないでいた手をゆっくりほどいて
天井を見つめた
それから薄明かりのもとで辺りを見回す
何事に対してもきちんとしているミヤコさんの部屋は
清潔でよく整理されている
アジアンテイストの織物が架けてあったりもして
散らかりっぱなしのぼくの部屋とは大違いだ
かわいいけれど秩序に対する強い意志に貫かれた部屋
こりゃ、守ってあげるじゃなくて、こっちが守ってもらう方だな
ミヤコさん
それでは「辻」の姓をぼくたちの暮らしのために役立てさせてください
ミヤコさんの持ち物って感覚でいいですよ
ファミちゃんの役にも立ったモノです
ファミはあれからあれよあれよと言う間に家猫になりましたが
ぼくたちも
あれよあれよと
夫婦になりましょう

 

 

 

いつもよりちょっとみっともない顔

 

辻和人

 

 

ファミちゃん
レドちゃん
先日はありがとうございました
久しぶりに実家に帰って君たちの元気そうな顔を見て
安心しましたよ
もうぼくより両親の方に懐いているようで
少しさみしい気もしましたが
ぼくにもいっぱい頭を撫で撫でさせてくれてありがとう
えーっと
今日はぼくにとって特別な日になるだろうから
応援してくれると嬉しいです
そんじゃ行ってきます

ミヤコさんと横浜美術館前で待ち合わせて
奈良美智展を見る
入ってすぐのところに展示されている
女の子の頭のでっかいブロンズ像にいきなり度肝抜かれちゃった
「いやあ、ド迫力だね。」
「こういうこと思いつくのが奈良さんのすごいトコなんでしょうね。」
細いライトに照らされて
暗い展示室にぽっかり浮かんだ数体の巨大なおかっぱ
かわいいというより
深沈とした悟りきった表情
まるで大仏の首のよう
眺めながら心をうろうろさせたら
怖いかも
押し潰されるかも
でも気持ちをぴたっと岩のように静めていたら
守ってくれるかも

「面白かったですね。」
「たくさん作品見ましたけど、最初の彫刻のインパクトはすごかったです。」
美術館を出て、さてどこ行きましょう?
じゃ、赤レンガ倉庫に寄りましょうか?
ってことで
9月も後半なのでもう暑くもなく寒くもなし、時間もあるしで
ぶらぶら
「あれ、大道芸人さんかしら?」
「無料の野外ライブかな? ちょっと見ていきましょうか。」

鼻を赤く塗った若い男女2人が軽快な音楽に合わせて
器用にピンをジャグリング
3本ずつ持ったピンを空中でコロッと回転させながら交換
背中で受け止めたりして
うまいもんだねえ
20程用意された丸椅子は全て小さな子供たちに占められていて
みんな声も出せない程熱心に見入っている
あっ、男性の方が1本落としちゃった
気にしない気にしない
ペロッと舌を出して肩をすくめる仕草をしたかと思うと
以前に倍するスピードで放り始めた
演技がひと段落、盛大なパチパチパチ
「思わず見入っちゃいました。
やっぱり芸人さんとの距離が近いから。生は迫力が違います。」
うんうん、生きている体の量感と躍動感は確かに違う
見入ってる子供たち、それに
ミヤコさんの刻々変わる表情も

ぶらぶら、ぶらぶら
赤レンガ倉庫へ
外見は重々しい感じだけど、中はお店でぎっしり
それも女性が好きそうな店ばかり
アクセサリーにスカーフ、アジアン雑貨……と
「今日は買わないですけど、ちょっとだけ見ていいですか?」
今度は石鹸屋さん
色とりどりの石鹸が何やら高貴な佇まいで鎮座してる
肌にも環境にも優しいしっとりした質感、ですか?
フルーティな香りが誘う甘い眠り、ですか?
100円の石鹸しか買ったことのないぼくにはまさに別世界だな
「私、昔から香り関係が好きで、
良い香りのものには目がないんですよ。
アロマテラピーや香道にも興味があります。」
「うっとり」と現実をクールに両立させながら
ミヤコさん、楽しんでる
周りの女子の方々もみんな真剣に楽しんでる
いいなあ、楽しんでいる生身の姿ってのは
ヒクヒクッ、ピクピクッ
意志が生きて、動いてる、動いてる
いいぞ、ヒクッ、ピクッ
「つきあわせちゃってすいません。満足しました。さ、行きましょうか。」

ぶらぶら、ぶらぶら
山下公園へ
午後3時半の長閑な海を眺めながら
白い客船がボーッと通り過ぎるのを眺めながら
カモメが悠然と空に浮かんでいるのを眺めながら
しっとり手をつないで
ぶらぶら歩く
9月下旬ってのは本当に穏やかな時季
夏の名残りを感じさせながら、暑くもなく寒くもなく
「のんびりしてていいですね。波もとっても静かで。」
「ええ、山下公園久しぶりに来ましたけどきれいでいいところですね。」
海があってまっすぐな道があって花壇があってところどころベンチがあって
つまりはまあ
平板な眺めなんだけどね
ぶらぶら歩くのには向いている
奈良美智展鑑賞したし赤レンガ倉庫寄ったし
大道芸なんてのも覗いたりして
この後中華街で食事だけど、それまでまだたっぷり時間がある
このたっぷりの時間
ただぶらぶら歩こうと当初から決めている
それはね……
「ねえ、ミヤコさん、港の見える丘公園の方に歩いてみませんか?」

氷川丸を左手に橋を渡れば港の見える丘公園のふもとだ
ここからちょっと急な登り道
ぼくたちは歩くの好きだしそんなのちっとも苦にならない
イギリス館、フランス領事館遺構
「この辺、ハイカラ文化の発祥の地だったんだって改めて思いますね。」
「ヨーロッパ風の噴水多いですしね。ハイカラを意識した造りにしたんでしょう。」
平坦な山下公園と違って
港の見える丘公園は起伏があるのが特長だ
上がったり下がったり
曲がり角も多い
噴水と花壇が点在して
ベンチにはカップルの姿が
定番だなあ
デートの定番
ぼくたちもゆるい潮風に吹かれちゃったりして
定番の姿の一つに収まってるわけだ
いいね、定番
そしてもうすぐ展望台
「わぁ、ベイブリッジですね。写真でも撮りましょうよ。」

夕暮れ近い、と言ってもまだ明るい横浜港をバックに
定番の写真、撮り合っちゃいました
横では、中国人観光客の団体さんが派手にはしゃいでいる
「天気が良くてラッキーでしたね。
あの方たちもはるばる日本まで来て、いい景色見られて、良かったですね。」
「いやあ、本当に天気には恵まれましたよ。
中国の方たちにもいい土産話のネタになるんじゃないかな。
ところでだいぶ歩いたし、ちょっとあそこのベンチで休みませんか?」
さてさて
ここからが今日の本番なんだ
ファミちゃん、レドちゃん、見ててよ!

展望台からちょっと離れたところにポツンとある
さっき密かにチェックしておいたベンチに向かって歩き出す
……おい、不思議だな
思ったより緊張してないよ
花壇に植えられたマリーゴールドがすごくよく見えるし
すれ違う人の表情もよくわかる
時間がぼくのために
ゆったりゆったり流れてくれてるって感じだよ、おい

「ミヤコさん。お付き合いしてきて、ぼくは、
ミヤコさんのことがとても好きになりました。
ぼくと結婚していただけませんか?
ぼくはミヤコさんを幸せにしたいし、ぼくも幸せになりたいんです。」
「……ありがとうございます。お申し出お受けします。」

マジか?
お受けしてもらっちゃったよ?
家庭持っちゃうってことだよ?
奈良美智さんのジャイアントおかっぱ少女が見守ってくれてたのか
深沈とした表情の大きな岩の塊が、まだ明るい青い空に浮かんで
うんうん、と
ぼくの願いにOKを出してくださったのか
やったね!
今更ながら心臓がバクバクしてきた
プロポーズ記念にミヤコさんの写真を1枚撮らせてもらった
スマホに残されたのは
頬を紅潮させた
いつもよりちょっとみっともない表情の顔だった
そのみっともない顔を何よりも大事に思うぼくが
まさに今ここにいるってこと

ファミちゃん
レドちゃん
応援ありがとう
今日の最大のミッションは無事成功
まだ4時すぎ
ぶらぶら歩きをもうちょっと続けてから
中華街でおいしいお店を見つけてご飯を食べることにするよ
来月、御礼と経過報告を兼ねて君たちに会いに行くから
その時はまたいっぱい頭を撫で撫でさせておくれよ、ね?

 

 

 

定番デビュー

 

辻 和人

 

 

全く月並みな話ですよ
全く人並みな話ですよ
夏と言えば花火大会ですよ
カップルで並んで眺めるのが定番ですよ
でも
仲間とワイワイ行ったことはあっても
カップルで、というのは人生史上例がない
ない、ない、ないなあ、ないんですよ
それが本日、人生史上の例、作っちゃうんですよ
このままだと
月並み人並み定番の輪に入っちゃうっていうんですよ
どうしよう!?

西国分寺の駅を降りて
スーパー抜けてガード潜ってパチンコ屋さんの前を通る
勝手知ったる道
最近、毎週末足を運んでるからね
この少々殺風景な道路を越えると
緑豊かな地域が広がっていてミヤコさんのマンションがある
夏の熱い風に煽られた白い蝶々に導かれるように歩いていると
頭の中もひらひらしてきて
「勝手知ったる」関係まで来た
ってことに今更ながら驚いちゃうよ
とか何とか言ってるうちに着いちゃった
「いらっしゃい。お待ちしてましたよ。」
へーっ

ナデシコの花がぽぅっと浮かんだ、紺の地の衣
きりりとコントラストを作る、黄色の帯
髪には白菊の飾り

「わぁ、すごく似合ってますよ。きれいな浴衣だなあ。」
「ありがとうございます。自分で着るのは自信がなかったので、
美容院で着つけてもらったんですよ。」
おしょうゆ顔のミヤコさんに和装は似合う
ンだろうなあと予想はしていたけど
ホント良く似合ってる
「自分で買ったんですか?」
「いいえ、昔、着物好きの友だちからもらったものなんですけど、
なかなか着る機会がなくて。
実は、浴衣で花火大会行くの、これが初めてなんですよ。」
えーっ、そうだったのー?
責任重大じゃん
ぼくで良かったんですか?
おいおい、変なこと自問するな
「記念に写真撮らせてください。」
前、横、後、アップに全身
7枚も撮らせてもらった、ヤッホー!
「わぁ、良く撮れてますね。ちょっと恥ずかしいけど嬉しいです。」
ぼくも嬉しい
ミヤコさんの初めての浴衣着用花火大会
成功させねばっ

立川駅を降りると
まだ5時前だっていうのにすごい混雑ぶり
あちゃー、ちょっと遅かったかな
歩道橋を降りるのにもひと苦労
「ミヤコさん、大丈夫ですか? もっと早く来れば良かったですね。」
「みんなが楽しみにしている花火大会なんですから当たり前ですよ。
それより、今から昭和記念公園の中に入るのは大変なので、
花火が見られる適当な場所を探しましょうよ。」
ごもっとも
のろのろ進みキョロキョロ探す
おっ、あの辺り
公園からちょっと離れてる、まあ道端なんだけど
視界は開けてるし座り心地は良さそうだしトイレも近くにあるし
「ミヤコさん、あそこどうですか?」
「いいですね。シート出します。」
首尾よく陣取り終了
さて、ビールとつまみ、買ってくるか

ひと息ついて周りを見渡すと
浴衣を自慢げに着て
「彼氏さん」に笑いかけている色とりどりの「彼女さん」たちがいる
落ち着いた色調の浴衣をしっとり着こなした、大人ぁって感じの女性もいるし
ほら、あのコなんか
いかにも付け帯ーって感じの帯を
マンガみたいなキッチュな柄の浴衣につけてケータイ握りしめてるよ
オシャレに甚平着こなしている男性、増えてきたなんだな(ぼくはジーンズだけど)
同性のカップルもいるし
歳の差カップルもいるぞ

パッパパーンッ
始まった

花火が次々にあがる
「わぁ、すごい。よく見えますね。この場所正解ですよ。」
「バッチリですね。それにしても凝った花火が多いなあ。」
シューッとあがってパンッパンッパンッ
3回くらい開く花火やら
真ん中が密で同心円状に薄く大きく広がっていく花火やら
ほわぅん、笑った顔みたいに見える花火やら
面白いアイディアの新作花火がいっぱい
やるねー

花火もすごいけれど
「ウォーッ」「ワァーッ」
周りの歓声もいい感じだ
隣にいる女のコなんか彼氏さんの甚平を掴んで
びゅんびゅん振り回しながら黄色い声張り上げてるよ
ここにはカップルの定番の姿があるんだなあ
そしてぼくたちも今まさに
その一員として行動しているってわけ
叫んだりはしないけどさ
浴衣の似合うミヤコさんの腰に手を回して
ビール片手に微笑み合ったり
40代にして2人して
定番デビューだ
「このソーセージ食べちゃいません?」
「あ、いただきます。」
ケチャップで汚れてしまった指を見てすかさずティッシュを出してくれる
ミヤコさん、こういうことにすぐ気づく人なんだ

昔はどっちかっていうと花火大会なんかバカにしてたんだよね
夏の一番暑い時に人の集まるところでベタベタしちゃって、なんて
確かに確かに
カップルで集まる場所にはそういうトコ、あるのさ
花火大会とかクリスマスイヴとか
儀式みたいに一律な定番の作法ってのがあるのさ
でもでも
俯瞰してみるとそうかもしれないけど
一人一人は結構個性的だぜ
ぼくたちがまさにそうじゃないか
「うわぁ、あのしだれ柳みたいな花火、好きですねえ。
開いてからあんなに長く空中に残るんですねえ。」
うんうん
ぼくとしてはミヤコさんの横顔も目に焼きつけとかなきゃ、だ
初々しい定番デビューの横顔
ビールでちょっと赤くなってるその頬に
隣ではしゃぐハタチくらいの女のコに負けない初々しい気持ちが
しだれ柳を模した光線のように強く、長々と、しなやかに
刻まれているんだ

フィナーレの派手な打上げの後
これで終わります、のアナウンス
ゴミを袋に収めてシートを畳んで
「楽しかったですね。さ、行きましょうか。」
腰をあげて大量の移動の列に加わる
のろのろしか進まないけど
なあに、急ぐことはない
ぼくとミヤコさんの人生史上初の例、無事終了
月並みな話は
月並みじゃなかった
人並みな話は
人並みじゃなかった
これから中央線に乗って少々殺風景な道路を越えて緑豊かな地域に入って
勝手知ったるミヤコさんの部屋で
今日見た花火のことをゆっくりゆっくり話し合おうか

 

 

 

厚くてガッチリ

 

辻 和人

 

 

すぅーっ
はぁーーっ
すーっ
はぁーーっ
深呼吸、深呼吸
はぁーーっ
さすがに緊張してます
滅多に着ないスーツとネクタイが
ぎゅぎゅっと体を締めつけてきます
(職場は自由服だもので)
今日はミヤコさんのご両親にお会いする日
下北沢のドーナツショップでミヤコさんと待ち合わせてるんだけど
アイスコーヒー、味が全くしない
すぅーっ
はぁーーっ
すーっ
はぁーーっ
あ、ミヤコさん、来た

先週、ぼくの両親にミヤコさんを紹介したんだ
それがさ
いきなり和気藹藹なのよ
いきなりバンザイなのよ
食事の前に母が経営している(といっても一人でだけど)陶器の店に連れてったんだけど
「これ、きれいですね。」
「あら、そうでしょう。有田の若い作家さんが焼いたものでね。」てな調子
ホテルの和食レストランに移動した後は
「インドに出張されたんですか?……あははっ、そりゃ愉快ですねえっ。」てな調子
何しろ女性を両親に紹介したことなんか初めてだからなあ
それだけで両親は舞い上がってる
もちろん、ミヤコさんのきちんとした受け答えがあってのことだけどさ

しかし、逆もこういくとはかぎらない
お父様は「頑固者」だそうだし
……はぁ、腹を括るってこういうことか
えーいっ、何のこれしき
ノラ猫だったファミを実家まで運んだ苦労を思えば
「辻さん、お待たせしました。今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそ。緊張してますが、頑張りますのでよろしくお願いします。」
いざいざ
相模大野へ、出発

祐天寺のアパートで面倒をみていたノラ猫ファミを
伊勢原の実家で飼ってもらうことにしたのがかれこれ6年前
猫狩りに遭うんじゃないかと心配してね
アパートじゃ飼えないので両親に頼みこんだというわけ
今では家の主みたいな顔してるけど
連れてくる時は大変だったんだよ
運ばれる最中
ファミは猫キャリーの内側を狂ったように引っ掻いて暴れた
引っ掻く、鳴く
引っ掻く、鳴く
ああ、思い出してきちゃったな
その同じ小田急線の電車に
ぼくは手足を硬くさせたまま揺られてマス
深呼吸が途中でふぅっとため息に変わってしまいマス
こりゃ、元気がある分ファミの方が上だ
ちょっと怖いけど大丈夫、なんて言ってたのにさ
ただの顔合わせ、挨拶しにいくだけなんだって
幾ら自分に言い聞かせてもダメなんだよね

相模大野駅で降りてバスに乗り換えて10分
ラーメン屋さんを過ぎて細い路地に入って
すぅーっ
はぁーーっ
すーっ
はぁーーっ
「ここが私の家です。じゃあ、頑張りましょう。」
はい
植木がいっぱい並んだそのお家のブザーを
意を決して
えいっ
押した
すぅーっ
押しちゃったぞ
はぁーーっ

「お待ちしていました。さ、どうぞおあがり下さい。」

出迎えてくれたのは
頭髪はちょっと薄くなっているけれど
精悍な感じのお父様、それに優しそうなお母様

「今お茶お持ちしますからね。楽になさって下さい。」
「はい、ありがとうございます。」
楽になんかできるわきゃないけど
―どこにお勤めですか?
―お休みの日は何をなさっているんですか?
そんな質問に一つずつ答えていくうち少しずつ落ち着いてきた
サルサのバンドを学生の時からもう30年やっている話をすると
「はははっ、それは結構ですねえ。」
おいおい
フレンドリーな雰囲気じゃないか
お母様は短歌を詠まれているそう
同好の方々と共同で刊行した歌集を見せていただいた
良い歌が幾つもあった
詩集を出したことのあるぼくとしては
「今度単著で歌集を出されてはいかがでしょう?」と
先輩風(?)を吹かせてみた
「いやあ、私なんかがとてもとても。」
謙遜されていたけれどまんざらでもないような……

答えるばかりじゃ会話は成り立たない
余裕も出てきたし、攻勢に転ずるか
「お父様はフィリピンで印刷の仕事をされていたとお聞きしましたが?」
すると
待ってました!

「私はね、若い頃は○○印刷に勤めていたのですが、
その後、縁があってフィリピンの印刷会社に入り
経営に携わることになりました。
ミヤコがまだ小学生の頃でしたかねえ。」
そこからの話はマジで面白い
フィリピンの人たちに印刷についての知識を授けて
信頼を勝ち取っていったというのだ
「日本人が評価されるのはですねえ。
現地の人にノウハウを教えて自分たちの手でできるようにさせるところですよ。
他の国の人はそんなことしない。ただこき使うだけ。
日本人は現地の人と一緒にやろうと考える。
だから信頼されてどんどん次の仕事がくる。」
「フィリピンではたくさん友人ができましたよ。
印刷会社の社長の弟さんでカルロスさんという方がいらっしゃるんですけど
今でも大親友ですよ。
フィリピンに来い来いっていつも言われてまして
前に遊びに行った時は一家で大歓迎でした。」
―日本はフィリピンに侵攻したことがあったじゃないですか?
「そう。すごい迷惑をかけた。
でも、日本を恨んでいるフィリピン人はあんまりいない。
××さんという方なんて
日本軍の捕虜にされたんだけど収容所がそれはそれはひどいところ。
海の近くにあるんだけど
潮が満ちてくると収容所に海水が流れ込んでくるっていうんだ。
それでも自分からはそんな話一言もしない。
後で知った時はびっくりしたねえ。
戦後の日本は戦前とは違うってわかっているんだ。」

熱のこもった話がいつもまでも続く
テレビのドキュメンタリー番組を見ているよりもずっと面白い
日本の繁栄を支えてきた人の中にこういう人がいたんだなあ
まあ、こういう草分け的な仕事をする人は
多少頑固なところがないと務まらないよな(笑)
話題の先を仕事から趣味に変えてみた
「お父様は陶芸がご趣味とうかがっているのですが
この棚にあるお皿やカップはお父様の作品ですか?」
こちらの反応もすごい。

「ええ、ええ、だいたい私が作りました。
引退してから陶芸を始めましたけれど、今では出品して販売もしています。
最近あちこちで陶器市が開催されるようになってきてましてね。
月に何度も展示販売することがあるんです。
仲間と一緒に店を出してね、これが楽しくて仕方ない。」
横からお母様が嬉しそうに口をはさむ
「これだけやってて赤字じゃないんですって。」
「そうなんです。多くはないんですけどね。利益が出てるんですよ。
そのためにはちゃんと使えるものを作らなくちゃいけない。
例えばこの急須は取っ手のところが難しい。
ぽきんと折れちゃったらどうしようもないですから。」

棚に収めてある作品は
母の店の有田焼と違い
分厚く、ガッチリ作られている
でも
マグカップはお茶が飲みやすく
皿は料理が並べやすく
使う人のことを一生懸命考えて作った末にできた形だ
しかも遊び心も忘れていない
「これ何だと思います?
瓢箪みたいな形でしょう。
これ、徳利を真っ二つに切ったものなんですよ。
面白い形のおかず入れができるなと思いついて
切ってみたら意外と使いやすくて評判もいい。
飽きがこないようにするには工夫が必要なんですよ。」

それら線の太い造形物は
にょきっと足が生えていて
踏ん張っているように見える
滑らかではない厚手の体は
紛れもなく生きている者の生きている手で
ヨイショヨイショとこねられたもの
土だけど
生身だ
スキを見て
乗せてある料理を
パクッと
食べちゃう
ん? 一つ残しておいた肉だんご、どこ行っちゃたんだ?
なんてことが起こってしまうかも

後半はすっかり聞き役に回ってしまった初顔合わせ
「またぜひおいでください。」の声に送られて
お家を後にする
「お疲れ様でした。」ミヤコさんが笑う
「ふーっ、疲れたけど、何か楽しかったですよ。」
涼しい風が吹いている
夕暮れが近いな
振り返ると
家の前に並べられた山野草の鉢が
来た時よりずっと鮮やかに見えた

 

 

 

サラリ、サラリ

 

辻和人

 

 

「私も、ワンちゃんよりネコちゃんの方に
近しいものを感じているんです。」
「それはなぜなんですか?」
「うまく言えないですけどね。フィリピンにいた頃飼ってたし…。
ネコちゃんかわいいですよね。」
明日は東京に帰るという夜
舞台は
政治家がお忍びで泊るみたいな(ってとこまで行かないけど)豪華な和室の窓の際
浴衣姿で並んで、高価そうな灯籠のある庭を眺めたりしているんだけど
ぼくのファミちゃん・レドちゃん自慢話を受けたその告白は
そのまま、ふっと空中に消え
代わりに
細身の彼女の生身のふっくらした抵抗感が
つい今しがたの
ふっくらした抵抗感が
熱を帯びて、浮かびあがってきた
何てゆったりした時間……

それから互いの家族の話になった
「ぼくの父は引退して長いから穏やかな感じですよ。
ファミちゃん、レドちゃんの世話が一番の仕事って感じかな。」
それを聞いたミヤコさん
ふぅーっと息を吐き出したかと思うと
「うちの父、悪い人じゃないんですが、
頑固者なんですよ。」
えーーーっ
頑固者ですか
いえいえ
ちょっと怖いけど
大丈夫
婚活で知り合った仲では
こうやって「次の段階」が
サラリと立ち現われる
サラリ、サラリ
すごーく自然
ずっと生身を寄り添わせてきたこの丸二日間は
まるで淀みのない時間だった
40越えのぼくらには
焼けつくような、とか、盲目の、といった類のモンじゃなく
よく見て、よく話して
それでいて淀みがないってことの方が重要なんだ
「頑固って、いいことじゃないですか。
それにミヤコさんだって結構頑固でしょ?」
「えーっ、そうですかぁ。そうかもしれないけど…。私はうちの父とは違うと思います!」
そ、そんなムキにならなくても……
ワンちゃんは主人の意向を探ることを優先するけれど
ネコちゃんというのは、そこにある身体を
そこに流れる時間に委ねきる
そこに淀みはあるか?
いいや、ない
サラリ、サラリ
待ってました、待ってました
それじゃ、いつの日か
頑固者相手に
どんな振る舞いをすればいいのかな?
ミヤコさん、一緒に考えて欲しいです

 

 

 

収まるんだぁ

 

辻 和人

 

 

うっへぇー、すごい雨だなぁ
羽田から大分空港へ、それからバスで湯布院へ
そうです、そうです
旅行ですよ
ミヤコさんと旅行ですよ
おさらいすると
1月にメールのやり取り、3月に実物に会い
5月におつき合いスタート
6月にお宅にうかがって
ありゃまあ
今日、7月14日は旅行ですよ
オクテなぼくには考えられないペース
おっとっと
水たまり、水たまり
「思ったより降ってますね、早くどこかのお店に避難しましょう」

山小屋風のレストランにダッシュ
濡れた髪をタオルで拭いて
思わず顔見合わせて
あはっ
名物のだんご汁定食が運ばれてきた
ほうとうみたいなモチモチした舌触りがいいね
湿っぽい髪のまま
写真なんか取り合っちゃってさぁー
旅って感じ、してきたぁー
ひさびさぁーの2人旅なんだぁー

「ツジさん、小降りになってますよ」
ほんとだ、良かった
荷物をロッカーに預けて
探検の始まり始まりぃ
大きな鳥居を潜ってまっすぐな道をまっすぐ歩いていく
まっすぐ、まっすぐ
ぎゅっと握って
そっと抱いて
そういうことがもうぼくたちにはできるんです
だから幾ら歩いても疲れない
「あっ、川に大きな鳥がいる!」
「シラサギじゃないですか。きれいですね。」
シラサギ一羽見かけることがこんなに楽しいなんて
ナイスなタイミングで虫をついばみに来てくれて
シラサギ君、ありがとよ

ノーマン・ロックウェル美術館とステンドグラス美術館を見て
まっすぐな道をまたまっすぐ、まっすぐ
駅に戻って喫茶店でひと休み
湯布岳をイメージしたスイーツがあるっていうから注文してみると
巨大なアイスクリームに綿あめがドバッとかかったものが出てきたよ
山と霞
「湯布院の人は想像力が豊かですねえ。」
「2人がかりでも全部は食べられないですよぉ。」
アイスクリーム山をスプーンでつんつん突っつくミヤコさん
雨後のせいでリアルの山は見えにくかったけれど
2人の間で
これで湯布岳のイメージはバッチリだね

タクシーで宿へ
古民家を改造した素敵な旅館だけど
実は部屋がダブルブッキングされるトラブルがあったんだ
ミヤコさんが抗議してくれたおかげで
同じ料金で上のクラスの部屋に泊れることになった
さあて、どんなお部屋かなー
げげっ
豪華で広々した和室が二間
掛け軸の龍が口からいかにも高価そうな炎を吐いている
「政治家がお忍びで来るって感じだねえ。宿に悪いかな。」
「いいんですよ。間違えたのは宿の方なんですから。」
ミヤコさんは澄ましている
「でも、ちょっと得しちゃいましたよね。」
へへっ、て
たくましいなあ
へへっ、へへっ

一晩明けると雨は止んでいてすっかり観光日和
2人とも歩くの大好きだから
「今日はとことん歩きましょう。」
花の木通りをゆらりゆらり
いろんなお店があるもんだね
水槽に突っ込んだ足の角質を食べる魚にびっくり
かわいいアクセサリーや雑貨をうっとり見ているミヤコさん、にうっとり

金鱗湖では他の観光客から写真を撮ってもらった
湖面を眺めていたら、若い女性が
「写真撮りましょうか。」と声をかけてくれたんだ
カップルに見えたんだな(当たり前だが)
ぼくたちカップルなんだな(当たり前だよ)
日除けの帽子&アジアンテイストの青いワンピース姿のミヤコさん
誕生日にミヤコさんからもらった真っ赤なハートつき黒いTシャツ姿のぼく
ぼくはミヤコさんの腰に手を回して
2人して微笑んでいる
そういうものが
スマホの中に残されることになりました
ああ、こんなことも
生身と生身の触れ合いがなきゃできないことだ

山下清にシャガール、現代彫刻に民芸品
湯布院は美術館が多いね
規模は小さいがどこも個性がキラリとしている
川沿いの道を
ぎゅっと握って
そっと抱いて
緑の熱い息に吹かれながら歩くうち
お洒落なロッジのような洋館を発見
「ドルドーニュ美術館」と書いてある
どれ、入ってみようか

「いらしゃいませ。スリッパにお履き替え下さい。」
感じの良い老婦人が出迎えてくれた
ほう、これは美術館というより個人宅
外からは洋館に見えるけどどうやら元は日本家屋っぽい
高い天井に太い立派な梁が何本も張り巡らされている
「古民家を改造して作った美術館なんですよ。」
所狭しと並べられた絵や彫刻には
まるで統一感というものがない
素朴な風景画からアヴァンギャルドまで
傾向、バラバラ
が、なぜだろう
作品に統一性はないのに
妙に収まりが良いんだ
作品同士が仲良し
作品同士がお友達
いかにも「お部屋」ってところに
長い間架けられたり置かれたりしたよしみって言うのかな?
大きな美術館の冷たい壁に展示されていたら
うっかり見過ごしてしまうかもしれない地味めな作品も
ここではしっかり居場所を主張してる
ミヤコさんも熱心に見入ってるぞ
「あの、よろしければ冷たいお茶、召し上がって下さいな。」

お言葉に甘えてアンティークな感じの椅子に腰をかける
ぬぬっ、足に何か柔らかなものが!
黒猫ちゃんだ
ゆっくり床を横切っていく
「館主のUと言います。ここは九州にゆかりの作家の作品を集めた美術館なんですよ。」
Uさんはこの地域でのアートの普及に長年力を尽くして
縁のできた国内外のアーティストの作品をここに展示しているのだそう
バングラデシュの作家の作品もあった
カビールという名前の画家、日本で学んだそう
抽象画なのだけれど色づかいが繊細で
とても暖かい
あれー、黒猫ちゃん
テーブルの足に一生懸命頬っぺを擦りつけてる
このテーブル、私のものなんだよ
だって
うんうん、わかるよ
そうだろうね、そうだろうね

Uさん自身、彫刻家であり、俳人であるそうだ
Uさん作の座禅をする若い女性の彫刻を見せてもらった
ノースリーブの普段着のまま
ちょっと姿勢にぎこちなさを感じさせるけど
きりりとした表情
初々しい
きっと日頃から親しくされている方なんだろう
そうじゃないとこんなに細かく表情彫れやしない
黒猫ちゃん、今度は椅子の間をくるっくるっとして
背中をしならせて、絨毯で軽く爪とぎ
すっきりしたかい?

「宇治山哲平の作品を集めた部屋があるのですがご覧になりましたか?
大分出身の有名な抽象画家なんですよ。」
Uさんとも親交があったという
名前くらいは聞いたことある
「どうぞ、こちらへ。」
ほうっ

それは
赤と緑とオレンジが
○と□と△が
軽やかにコロコロ遊ぶ世界
コロコロ
コロコロ
あ、ソレ
コロコロ
ソレ、ソレ
コロコロ
コロコロコロ

「色が鮮やかでとっても楽しいです。」ミヤコさんが感嘆すると
「そうでしょう、そうでしょう。
宇治山さんの絵ね、一つ一つの形にみんな意味があるんですよ。
曼荼羅みたいにね。
だから抽象ですけれど他の抽象画とは違うんですよ。」
画面の中で
コロコロ動き回る
○□△
見惚れていると
足元にほわっとしたものが
黒猫ちゃんだ
飼い主さんについてきたのかな?
宇治山哲平の絵を鑑賞するぼくとミヤコさんの間を
するっするっと
抜けていく
そのリズムが
転がり続ける○□△のリズムに
うまく重なってるんだ

○□△と黒猫ちゃんと
素朴な風景画とアヴァンギャルドと
梁のある天井とアンティークな椅子と
バングラデシュと座禅と
…………
水たまりとだんご汁定食と
豪華な和室とシラサギと
綿あめと角質食べる魚と
アジアンテイストの青いワンピースと真っ赤なハートつき黒いTシャツと

縁が結ばれれば
コロコロ
コロコロコロ
リズムが生まれて
中身はバラバラでもきれいに収まる
感激して
ぎゅっと握って
そっと抱いて
収まるんだぁ

 

 

 

眉のポチッ

 

辻 和人

 

 

ンルルルン
ンルルルン
この土日は実家に帰る
親の顔を見に
じゃなくて
猫の顔を見に、ね
帰る、帰る、帰る、帰る
ルンルン

祐天寺のオンボロアパートで面倒を見ていた
ノラ猫のファミとレド
ペット禁止なので頭を下げて伊勢原の実家で飼ってもらっているんだけど
年に一度、お正月の時くらいしか帰らないぼくが
ほぼ毎月顔を見せるようになった
引退した父親がトイレの掃除とごはんを担当
母親が寝かしつけを担当
ああ、ホント、ありがとうございます
ぼくがちょくちょく顔を見せるようになったから
両親もちょっと嬉しそうだったりして
というわけで
ファミちゃん、レドちゃんには感謝なのです

ただいまーとドアを開けると
冷蔵庫の上で並んで寝そべっていたファミとレドが
半眼を開け
ぴくっと耳を立て
背中をしならせてノビをしたかと思うと
トトトッと隣の戸棚を器用に利用して降りてきて
タンッと着地
足元にまとわりついてきた
覚えていてくれてるんだなあ
マイペースなファミは挨拶を終えるとすぐに毛づくろいを始めるが
ぼくが荷物を置きに2階に上がるとサーッとついてくる
気の弱いレドはこちらから近づくとビクッと逃げるが
しっぽの付け根を優しく撫でてやるとお尻を高く持ち上げて
撫で続けていると寝そべってコロッとお腹を出す

両親にお土産の和菓子を渡し
じゃあ、家族水入らず、ご飯でも食べましょうか

「和人、婚活はうまくいってるのか?」
鱈の水炊きをつつきながら父親が聞くので
「うん、まあまあ順調だよ」って答えたら(ミヤコさんの話を出すのはまだ早い)
「合唱サークルで知り合った女の人にお前の『真空行動』を貸したら
お嫁さん候補を紹介したいって言ってきたぞ」と
とんでもないことを言う
あ、『真空行動』っていうのはぼくが昨年出した詩集で
ファミやレド他、ノラ猫をかまったことが書いてある
いい歳した男が猫ちゃんに振り回されて
こりゃいかん
こんな人にはしっかりした奥さんがついてなきゃダメだ
その人は思ったんだろうな
すみませんねえ
ご心配おかけして
「お父さん、とりあえず今のままで大丈夫だからさ
その人にはお礼を言っておいてね」
ぐつぐつ煮える鍋の中から豆腐を小皿に取った

ところで、ところで
その鍋を見つめているのは両親とぼくだけじゃないんだよね
レドちゃん
母親の横の空いてる椅子に飛び乗って
真剣にテーブルを眺めている
あーあ、甘やかしたばっかりに
食いしん坊のレドは人間の食べ物に興味を持ってしまった
朝昼夕、人間と一緒に「食卓につく」ことになってしまった
ファミはキャットフードで満足してるってのに
困ったもんだよ

しょっぱいものは猫の体に悪いので
鍋からすくった鱈の身をポン酢にはつけず
ふぅふぅーっ
冷まして掌に載せて口元に持っていってやると
フンフン、匂いを嗅いだかと思うとすごい勢いで
パクッ
満足そうに口を動かした
全く……
おいおい、そう言えば

レドは基本、白猫だが
目の周りと鼻の横としっぽは黒い
特に鼻近くの黒い染みは印象的だ
母親はチャップリンみたい、なんて言ってる
おいしいものを見るとチャップリン風チョビ髭をぴくぴくさせるんだ
そんでもってミヤコさん
左の眉の辺りに
ポチッと
ホクロがある
目立つという程じゃないが
無視することはできない
レドもミヤコさんも
このアクセントの効いた目印に
生まれた時からつきあってきたわけだ

チョビ髭のないレドは考えられない
眉のポチッのないミヤコさんは考えられない

ポチッ
ポチッ
ポチッ
笑ったり
ポチッ
ポチッ
ポチッ
驚いたり

感情が揺れて眉が上下するたびに
ポチッ
小さな自己主張
わがままなレドと折り目正しいミヤコさんは
性格的には一見正反対だけど
隠し持っているものは同じなのかもね

ポチッ
ポチッ
ポチッ
ぴく
ぴく
ぴく
ポチッ
ぴく
ポチッ
ぴく

笑いたい、食べたい、怒りたい、甘えたい

レドは臆病な猫で出会った頃は逃げてばかりいた
ちょっと近づくと
チョビ髭ぴくぴく
でも食いしん坊で甘えん坊で
お皿にミルクを注ぐと
ぴくぴく
しっぽの付け根を撫でてやると
ぴくぴく
今はレドについてはかなりわかってきているけど
ミヤコさんについては
まだまだわからないことが多い
喧嘩したことないから
怒った顔見たことないし
泣いた顔も見たことない
本気で甘えた顔もまだ見たことない

ポチッ
ポチッ
ポチッ
ちょっと覚悟も必要だけどさ
ねえ、レドちゃん
ぼく、ミヤコさんの未知のポチッを
これから幾つも幾つも拝むつもりでいるから
応援しておくれよ、ね?

 

 

 

スパイシー

 

辻 和人

 

 

はい、今、西国分寺の駅の改札前に立っています
ミヤコさんを待ってます
夏に入りかけのだるい風が吹いています
けど背中がキーンと冷えてる感じです
初めて
ミヤコさんのマンションに行きます
ミヤコさん、来ました
ぼくと同じく会社帰りのカッコです
軽く手を振ってます
行ってきます

「こんばんは。」
エレベーターに乗り込む時
すれ違った住民の方に曖昧な笑顔であいさつ
ミヤコさんは平然と、にこやかにあいさつしてるけど
ぼくたちってどう認識されてるのかな?
ぼくたちっていう単位が今、問われてる
それはファミやレドがまだノラの子猫だった頃
ぼくが、単なるエサやりさんの一人か
彼らの保護者かを問われてるのと
ちょっと近いかな?
そうそう
近さだよ、近さ
近さにもいろいろある
これからミヤコさんとどんな近さを得られるか
エレベーターに揺られながら待つ
ドキドキだ

カチャ
鍵を回す音をいやにはっきり聞こえる
「どうぞ、お入りください。」
「お邪魔します。」
恐る恐るスリッパに履き替えると
おーっ、きれい
ぼくのオンボロアパートとは大違い
清潔で居心地のいい1DK
「今からご飯作りますから。ちょっと待っててくださいね。」
グリーンのソファーベッドに腰掛ける
ミヤコさんの体温を吸い込んだ場所だ
この材質
ファミとレドを放したら
めちゃくちゃ喜んで引っ掻くだろう
おや、窓の側には、葉っぱを青々と茂らせた
人の背くらいある植物が置いてあるぞ
「この観葉植物、何ですか?」
「パキラっていうんですよ。
10年前、このマンションに住み始めた頃に買ったんですけど
どんどん大きくなって。
時々切ってあげないと茂っちゃって大変なんですよ。」
生命力旺盛なパキラ
10年間ミヤコさんを守っていてくれて
ありがとう
これからはぼくが……おっと、調子に乗るなよ

台所に立つミヤコさんの後姿
エプロンをかけ
懸命に肩を動かして
食べさせようとしているんだな
ぼくという生物に

食べさせる
食べさせる
ぼく、食べさせてもらうんだ
これはただ食事をするってことじゃない
もぐもぐした口の動きを通して
生身の相手の奥の奥につながっていくってことなんだ
ファミもレドも、そしていなくなってしまったソラもシシも
そうやってぼくとつながっていったんだよなあ
それが、いよいよ
いよいよだ

「できましたよ。簡単なものばかりですけど。」
ヤッホー
テーブルに並んでいるのは
かぶのコンソメスープ、トマトとアボカドのサラダ、だし巻き卵に肉じゃが
いただきまーすっ
スープは……いい塩加減
サラダの手作りドレッシングもさっぱりしていて良い感じだ
だし巻き卵はもともと好物だけど
程良い甘みがあって、うん、これはうまい
では肉じゃがを
おいしい、でも、あれ?

「ミヤコさん、ミヤコさんって肉じゃがに玉ねぎ入れないんですか?」
「えっ」

「わぁ、ごめんなさい。
どうしちゃったんだろ。いつも絶対入れるのに。
ちゃんと買ってきてたんですよ。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。
じゃがいも、ほくほくして、とってもおいしいです。」

玉ねぎなしの肉じゃが
全然OKです
肉じゃがなんだからお肉とじゃがいもが入っていればよし
にんじんだって入ってるじゃないですか
うん、うん
玉ねぎが入ってなかったことで
ミヤコさんともっと近くなった気がするぞ
入ってない玉ねぎが
真っ赤な笑顔を呼んで
スパイシーな味を加えてくれた

今日は週の真ん中の日だし
長居は遠慮してこれで失礼しますが
いずれぼくが「食べさせる」方を担当しますよ
玉ねぎの代わりに
何が足りないか
何が余計かは
お楽しみ
食べるんじゃなくって
食べさせる
食べさせてもらう
その先に
どんなスパイシーな近さが現われるか
それが楽しみなんです

 

 

 

ぐるぐるして、ぎゅっ

 

辻 和人

 

 

あれからミヤコさんとは毎日メールするようになってね
「今日はお疲れモード><のため、早めに zzZZ ・_・ことに。
あと1日頑張りましょう (=^・^=)
お休みなさい^^」
だってさ
ケータイの画面の中から
「女の子」が手を振ってるよ
ミヤコさん、意外と顔文字・絵文字いっぱい使う人なんだよなあ
字だけの無粋なメール返しちゃって悪いけど
はい、頑張りますよ
お休みなさい

デートは週一のペースでいろんなトコに行った
中野のタイレストランに行った、渋谷の沖縄料理店に行った
行った、行った
美術館や映画にも行った
ミヤコさんのオススメは世界報道写真展と脱北者の人生を描いた韓国映画
うーむ、お固い
「です」と「ます」を語尾にくっつけて
取引先の人に対するように、にこやかに、丁寧に、話し
そんでもって
ケータイの中ではちゃっかり「女の子」だ
行った、行った、行ってみた
40代「女子」の世界
未知だったこの世界
うん、いい、すごくいい

水曜の夜、会社が退けて吉祥寺に急ぐ
ミヤコさんが以前入ったことのあるお店に案内してくれるという
ぼくも人並みなことしてるなあ
待ち合わせ場所でピンクのカーディガンが目に飛び込んでくる
派手でもなく淡くもないその色調が
40代「女子」としてのミヤコさんの現在地を示している
「ここ、前に職場の人と来たんですけど、感じ良かったですよ。」
公園入り口近くの焼鳥屋さん
なるほど
大衆的な価格設定だが清潔でオシャレ感も少々
会計はここのところワリカンでさ
無理していい店なんかには行かなくなった
毎週アフターファイブに異性の人と会う
特定の趣味をやるとかじゃなくて
ただその人と会いたいから会う、なんて
人並みな、ね
ことをするっていうのが
まーぁー何だかー
不思議ぃーなんだなー
その不思議をひと串つまんで
顔を軽く見合わせて
じゃ、いただきます

「せっかくだから酔い醒ましに公園ちょっと歩きましょうか。」
「あ、いいですね。」

はい、ここは夜の井ノ頭公園です
こんなに広かったっけ?
こんなに暗かったっけ?
木ってこんなにごわごわしてるもんだっけ?
この時間帯でも歩いている人はそこそこいるんだけど
人影は半分食われたみたいに細っこい
ミヤコさんは平然としてカッカッカッと歩いているけど
大丈夫なの?
「いやあ、意外に大きい公園なんですねえ。」
「ええ、一人で歩くときっと怖いと思いますよ。」
え?
ぼくがいるから平気ってことですか?
エヘヘ
頼られちゃった
人並みって奴を随分長い間遠ざけていたけれど
人並みも一つ一つ違うんだね?
そんなことにこの年齢で気がつくってのも
悪くないや
揺れるピンクのカーディガンが闇の中でぽっと目立って
そこだけあったかい感じがするぞ

「また仕事で海外行ったりしないんですか?」
「いいえ、しばらくありません。」
みたいな会話を続けていて
おりゃ?
そろそろ一周なのに駅への出口が見えない
「ツジさん、出口あそこです。私たち、通り過ぎちゃったみたいですね。」
おりゃりゃ
暗くて全然わからなかった
何度も来たことあるのに、井ノ頭公園、昼と夜とじゃ大違いだ
「すいません。気がつかなくて。
引き返しましょうか?」
言いかけて
うん、よし!

「あのー、どうせですからもう一周歩きませんか?」
さあ、どう出るか?
「いいですよ。歩くの気持ちいいですね。歩くのは好きなんです。」
ヤターッ

ミヤコさん、ここぞってトコで決断力がある
一周するのに20分はかかるのにさ
今日は週の真ん中で明日休みじゃないのにさ
じゃ、ぼくももう一つ決断するよ

「あの、手、握っていいですか?」
「いいですよ。」

生身のミヤコさんの生身の手に
生身のぼくの生身の手が近づいて
そしたら生身のミヤコさんの生身の手も近づいてきて
触れて
合わさって
ぎゅっと
一つになった

暖かい
柔らかい
ぼくとミヤコさんが辿り着いた
人並みの感触だ
生身の人並みの感触だ
ぐるぐるして、ぎゅっ
ぐるぐるして、ぎゅっ
ぐるぐるして、ぎゅっ
微かな光を跳ね返してひたひた動く
黒い黒い池の水が、今
大好きだ