そよかぜ ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! Part2 020     nao さんへ

さとう三千魚

 
 

揺れてた

ちいさな
花たち

揺れていた
風が吹いていた

過ぎていった

夏の想いが
ゆれていた

ありがとう
ありがとう

 

***memo.

2025年11月22日(土)、
一箱古本市の日に、
静岡市北街道「水曜文庫」で実施した、
“無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 第44回、第2期 20個めの即詩です.

タイトル ” そよかぜ ”
好きな花 ” ネモフィラ ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;

私について

 

長尾高弘

 
 

小中高と、
場所もメンツもぜんぜん違う学校に行ったのに、
ついたあだ名はいつも「じいさん」だったな。
そう言えば、
幼稚園のお芝居でも、
おむすびころりんのおじいさん役だった。
本人は主役だと喜んでたけど、
受け取り方が間違ってたかもしれないな。

そんなおれも、
六十五歳の誕生日が来ちゃったから、
めでたく前期高齢者、本物のじいさんだぜ。
(同い年のきみたちもおめでとう)
でも鏡を見る限りでは、
そんなにじいさんになった気がしない。
子どもの頃に見た親戚のおじいさん、おばあさんは、
もっと老けてたような気がする。
顔も手足もしわしわだったし、
声の出し方がいかにもおじいさん、おばあさんで、
若いときにどうしゃべってたのかとても想像がつかなかった。
六十五歳ともなれば、
いつお迎えが来ても不思議じゃないって空気を醸し出してて、
実際、それから数年で大半が亡くなってしまった。
(あの人たちは戦中、戦後の食糧難も経験してたし、
 男は兵隊に取られてたわけだしな)。
でも自分はまだ死ぬ気は全然しないし、
声だってあんな感じじゃなくて若いときと同じだし、
顔だってしわだらけってわけでもない。
(鏡を見る限りではね)
頭が禿げてるのは三十の頃からだし、
その代わりと言ってはなんだけど、
白髪なんてあまりない。

ところが最近驚いたことがあってさ。
親戚が集まって旅行に行って、
お互い写真を撮り合って、
それぞれが写ってる写真を渡し合って、
自分が写ってる写真ももらったわけ。
その写真のなかの自分が
鏡で見てた自分よりずっと老けててさ。
なんだかまっすぐ立ってなくて傾いてるし、
目つきも悪いし、
要するにやたらとじじくさい感じがするのよ。
鏡を見たときにそんなに老けてないように思ってたのは、
なんか咄嗟に顔つきを変えてたのか、
悪いところを見ないように、
無意識のうちに見た内容を修正してたのか。
いや、過去形で言ったけどさ、
不思議なことに、
その後も鏡を見るとそんなに老けてないような気がするんだよねえ。
自分のことって自分ではわからないものなのかなあ。

 

 

 

野生 ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! Part2 019     asayoshi さんへ

さとう三千魚

 
 

こうべを垂れて
いた

白く
咲いてた

ちいさな

ぼくの花
鈴蘭

すずを鳴らして
いく

森のなかを
歩いていく

 

***memo.

2025年11月22日(土)、
一箱古本市の日に、
静岡市北街道「水曜文庫」で実施した、
“無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 第44回、第2期 19個めの即詩です.

タイトル ” 野生 ”
好きな花 ” スズラン ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;

線引き ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! Part2 018     airi さんへ

さとう三千魚

 
 

薫ってた
ちいさな

黄色い花

たくさん
たくさん

咲いてた
金木犀の

花と花と花を
線で結ぶ

花たちを結ぶ

 

***memo.

2025年11月22日(土)、
一箱古本市の日に、
静岡市北街道「水曜文庫」で実施した、
“無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 第44回、第2期 18個めの即詩です.

タイトル ” 線引き ”
好きな花 ” キンモクセイ ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;

ぼくは
きみがきらい ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! Part2 017     haruna さんへ

さとう三千魚

 
 

牡丹かと

おもった
はじめは

そう
おもった

まるく咲いてた
大きかった

きみは
わたしだった

うすいピンクの
おおきな

花だった
芍薬

まるい
わたしだった

 

***memo.

2025年11月22日(土)、
一箱古本市の日に、
静岡市北街道「水曜文庫」で実施した、
“無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 第44回、第2期 17個めの即詩です.

タイトル ” ぼくはきみがきらい ”
好きな花 ” シャクヤク ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;

Mr. Pergamon

 

工藤冬里

 
 

安芸は紅葉の国であった
前夜から申し込んでいなかったので朝のブッフェには与れなかった
食事券代わりの白い小石は貰えなかった
知らない自分の名前が書かれてある筈だった
自分の中の残りの人は死にかけていた
ワインの神が崇められていた
前日までに予約していなかったので面会はできなかった
シュトーレンを託けた
牡蠣は九割がた死にかけていた
爆買いの迫害に耐えた後、スラムのバラムにやられた
狂った母親達はプラカードを掲げた
¿ Dónde éstas?
スミルナはエーゲ海の、彼女らは瀬戸内海の真珠であった

 

 

 

#poetry #rock musician

猫ポイント **

 

さとう三千魚

 
 

足が
白い

白い足が過ぎてゆく

たまに
匂いをかいでいる

買物袋の前で
佇ちどまる

幸は
どこにあるのか

わからない

白い
足で

歩いていく

 

・・・

 

** この詩は、
2025年11月28日 金曜日に、書肆「猫に縁側」にて開催された「やさしい詩のつどい」第23回で、参加された皆さんと一緒にさとうが即興で書いた詩です。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

つめたいまくら ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! Part2 016     sino さんへ

さとう三千魚

 
 

山道を

歩いていった
登っていった

わからなかった
なにも

わからなかった

白い
ユリは

いた

おまえは
わたしだ

白い
白い

おまえだ

 

***memo.

2025年11月22日(土)、
一箱古本市の日に、
静岡市北街道「水曜文庫」で実施した、
“無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 第44回、第2期 16個めの即詩です.

タイトル ” つめたいまくら ”
好きな花 ” ユリ(白い) ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;

幸せの ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! Part2 015     tamaki さんへ

さとう三千魚

 
 

いつまでも
見ていた

いつも
見ていた

なんども
押し寄せてきた

白い
波だった

ボレロ
わたしの花

ピンクの花芯を
抱いていた

 

***memo.

2025年11月22日(土)、
一箱古本市の日に、
静岡市北街道「水曜文庫」で実施した、
“無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 第44回、第2期 15個めの即詩です.

タイトル ” 幸せの ”
好きな花 ” バラ(ボレロ、白い) ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;

5カ月

 

辻 和人

 
 

よその子がいた
コミヤミヤ・こかずとんと同じ
生後5ヶ月のよその子だ
これからBCGの注射を打つ
待合室に2人いた
おしゃぶりぶりぶり固く目閉じ瞑想の女の子
壁の白に何か探しもの首上向きキョロキョロの男の子
抱っこ紐に揺すられ揺すられ
到着したばかりのコミヤミヤとこかずとんも加わって
揺すられ揺すられ揺すられ揺すられ
4つの抱っこ紐
コミヤミヤとこかずとん、今日は静かだ
元々抱っこ紐大好きのコミヤミヤは気持ち良さそうだし
抱っこ紐がそれ程好きでないこかずとんも足バタバタしない
お、女の子の名前が呼ばれた
診察室に入って
ウギャーウギャッギャッ
ああ、やっぱ泣いたか
注射は痛いってより怖いもんね
待合室に戻って
女の子一度ウェッと泣く
でもおかあさんがおしゃぶり咥えさせると
ぶりぶりぶり
すぐ落ち着いて
目閉じ瞑想
そこへギャーオウッ、ギャーオウッ
続いて診察室に入った男の子の声だ
やっぱり怖いよねえ
針が迫ってくるんだもんねえ
ところが待合室に戻ってきた途端
ついさっきのように
キョーロキョロ
白い壁に上目遣いで探しもの
何か飛んでるのかな
ぼくには見えないものが壁の白にさまよってるのか
さあ、呼ばれました
コミヤミヤとこかずとん
しずかーに診察室に入る
しっかりした顔になってきましたね、と先生
左腕まくって
ピッ
コミヤミヤ一瞬ギャッと泣いたけど
一瞬で観音様の顔に戻る
大好きな抱っこ紐の中へ
続いてこかずとん
苺状血管腫良くなってきたね、と頭髪かき分けてまず一言
左腕まくって
ピッ
ウヒッて顔一瞬したけど
一瞬でおむすび様の顔に戻る
抱っこ紐に入っても足バタバタさせず
待合室に戻ると
女の子も男の子も既に帰っていて
コミヤミヤとこかずとん
2つの抱っこ紐
揺すられ揺すられ
あ、眠っちゃった

生後5カ月のみんな
注射が一大事じゃなくなってきた
ちょっと泣いたら
もうおしまい、大丈夫
ウチの子
よその子
5カ月の人生経験が
みんなを強くさせた
5カ月
短くない
全然短くないんだよ