書かなかった

 

さとう三千魚

 
 

昨日
詩を書かなかった

先週か

子どもたちの
豆撒きの

応援に来てほしいと連絡があった

豆撒きから帰って
詩を書けばいいのに

書かなかった

最近
夜は書かない

朝か
昼に

ひかりはある

それが
詩になるかわからない

今朝も
女にサラダを作って持たせた

野菜は大切だよ
腸が喜ぶよ

いつもそう言っている

女がクルマで出かけるのを見送って
今朝も

小川の傍を歩いた
小川の中の

白鷺を見てこちらも佇む
そこにいた

小川の中に佇っていた
いつまでも佇っていた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

立姿

 

工藤冬里

 
 

できる限りのことをした後に
立っているならばそれは
ゆうれいではなくそれは
照らされた型紙ではなくそれは
情に絆されたフォーク野郎ではなくそれは
痛い思いをするかもしれないがそれは
足りないものを買い揃え
ほねを組み立てりったいを作る
まひするほど動けなくても
組み上げるちからは良いもので
曇ったメガネで手を伸ばす
変色するすべてを拒否して立つ
骨にはヘビの毒が流れている
唇の裏からそれは迸る
鼓膜の裏までその気は繋がっている
住み続けることの困難を打ち明け
鼓膜の外の圧を感じながら
立つ
目を瞑ると立姿は切り抜かれる

 
蝕まれた立姿をオンコロジストが収集して
浮世絵のグラデーションのクリアファイルに挟んでいる
一週間寝ていたのに
助けを求めることができると知れただけで
助けは求めなかった

 

 

 

#poetry #rock musician

楽園 *

 

さとう三千魚

 
 

サヨナラ

風が吹いています
窓は
しめきっているのに レースのカーテンがゆれます
ひかりが
さしています
ひかりは 銀色の窓ワクをあたためています
ふちが
ひかります
サーモンピンクの壁は たいらにひかります
サーモンピンクの壁はとてもたいらにひかります
晴れた日曜日
部屋のなかをゆっくりとさんぽします
キミは タタミのうえをはだしで歩きます
キミは草の模様のイスのうえでひかる指の先に 息をふきかけます
(ぼくは)
サヨナラ いいます
朝、
カーテンの
(      )消えてゆくものばかりが見えます
ぼくは
キミのカタイ唇をすいます
キリキリキリキリ 抱きしめます キリキリキリキリ抱きしめます
部屋のまんなかの
黄色のテーブルがまるくひかります
サーモンピンクの壁が たいらにひかります
とてもたいらにひかります
とてもたいらにひかります
草の模様のイスのなかで キミはサラサラ 崩れてゆきます
サラサラ 崩れてゆきます
カーテンが ゆれます
楽園から
風が吹いています
楽園が カタカタカタカタ鳴っています

 

 

* この詩は、
1988年7月1日発行の「現代詩 La Mer ラ・メール」第21号に掲載された詩です。

2025年1月26日(日) の静岡県詩人会の集いで詩人の橋本由紀子さんから、わたしの参加していた詩誌ゴジラとともコピーを頂戴しました。

失念していました。

わたしのどの詩集にも載っていない詩でした。
いまは失った遠い知人にあったような印象をもちました。

La Mer は、海のことですね。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

猫が飛ぶ **

 

さとう三千魚

 
 

猫のいる本屋にいる

冬の夜に
そのひと

ねずみの絵本をもってくる *

猫のいる本屋で

ひとびと
ねずみの歌をうたう

猫は
本棚に飛びのる

ここではねずみの声を聴かない

 

・・・

 

* “ねずみの絵本”とは、レオ・レオニ「フレデリック」(訳 谷川俊太郎)のこと。

** この詩は、
2025年1月24日 金曜日に、書肆「猫に縁側」にて開催された「やさしい詩のつどい」第13回で、参加された皆さんと一緒にさとうが即興で書いた詩です。

「やさしい詩のつどい」一周年の日でした。

この日はK山さん、猫ままさん、O崎さん、O村さん、O村さん奥さまという強力なメンバーに集っていただきました。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

frill

 

工藤冬里

 
 

キックしても噴かせないのは分かっていた
春になってもまだ遅すぎるフリルの
摘まれた内気

内容も色も羽根にして
焦がす
子供たちは縁(へり)が好きだ
内実よりもパリパリしたひろがり
死んだ娘の翻るフリルがもう一度キックを願い求める
掛かるかもしれない予感にガソリンが漣を立てる
無謀な未来が音を立てる

皆フリルの未来を知りたがる
手が打てるからだ
交換後残された者でやっていくパーティー
ボクから離れよ(2tem3:5)
潰れた店で在位のケーキセットが出てくる
年代計算を闘う土偶と埴輪にとりどりの蛍光管が巻き付く

上り切った三階の踊り場に灯り代わりのストーブが
一行の三十万を湿らせ
裸にして食い尽くし火で焼き尽くし
反転自制も燃え尽き
ボクの攻撃は非常に激しい怒りを惹き起こすことになり
ほんのもう少しすればボクはいなくなり
温厚みかんは喜ぶがもう届かず
半分まで満たされるべき理由がI want to!
写真並べたりするフリル

 

 

 

#poetry #rock musician

ホワイトボードの青い文字

 

辻 和人

 
 

ホワイトボードの上を
カシャクシャ
走り回った
ミヤミヤの指だ
「赤ちゃんたち夜まとめて寝るようになってきたし
1回分を増やして夜中のミルクやめましょう。
ミルクの量の目安変えておくね」
書かれたばかりの青い文字
最後のミルクは午前1時で次は朝の6時か
こちらもやっとまともに寝られるようになるな
ホワイトボードに記された一日のスケジュール表
かずとん村開設とともに
ミルク一日8回、1回60gで始まった
沐浴は午後3時
夜のシフトは早番20時-1時半と遅番1時半-7時
午前4時に目覚ましかける
手足突っ張らせて
ぎゃおぎゃお泣くコミヤミヤとこかずとんに
抱っこ抱っこオムツオムツミルクミルク
哺乳瓶洗って熱消毒
真っ暗な中ぼんやり光る深夜の電子レンジぼんやり眺める
こんなスケジュール表を
カシャクシャ
書いては消し消しては書いたのは
いつもミヤミヤの指だった
ミルクの量と回数に沐浴、大人の食事に入浴、遅番早番の入れ替え
ねむいねむいミヤミヤの指が
カシャクシャ
カシャクシャ
ミヤミヤは管理者なんだ
管理者は責任おもいおもい
体重の成長線と育児書を見比べて
ミルクの量を足っし足っし
ねむいねむい
カシャクシャ
ああ、それに比べりゃぼくなんかお気楽なもんだ
ミヤミヤが書いた青い文字の言う通りにしてればいいんだから
今日、午前1時半にあがれるミヤミヤが
暑い夕陽を浴びながら
振り向きざまに大きなあくびを一つ
それから夜中のミルクの中止を伝えてきたんだ
一日6回・1回160g前後が目安
すうすう夕寝してるコミヤミヤとこかずとんは
かずとん村開設時から体重3倍以上
沐浴が7時半に変更ってことは
ぼくが入浴してそのまま沐浴させるってことね
夕ご飯作るからさ
少し横になって仮眠でも取ったら?

足引きずるみたいに2階に上がるミヤミヤ見送って
ホワイトボード改めて見る
夕陽てかてか跳ね返して
おりょおりょ
青い文字が
走って
回ったよ
ねむいねむいを跳ね返して
カシャクシャ
走り回ったよ

 

 

 

アタミ

 

廿楽順治

 
 

町の
左はんぶんは死んでいた

あたらしいパン屋があり
となりに葬儀屋がある

人影は 建物のさかい目で
足が切れていた

(寝返った将軍のように)

髭をはやした花屋の主人が
店員と仕入れのことを熱くはなしていた

その顔のはんぶんは
もう なくなっていて

くらすことが
どこか遠くでたたかうことのようだ

(けっして思い出されない空)

わたしたち家族は
その左側の川をわたろうとして

まだわたれない

 

 

 

河口まで歩いた

 

さとう三千魚

 
 

今朝
玄関の

自転車の
サドルの留具が壊れていた

河口まで
歩いた

小川の傍を歩いた

オオバンたちが水面に浮かんでいた
クチバシが白い

水面が
光ってた

キラキラ
光ってた

富士が青空に浮かんでいた

半島が青く見えた
海原にタンカーが浮かんでいた

海浜公園では
デイゴの木の枝葉が切り払われて

立っていた
デイゴの花の下には逢瀬もあったろう

椰子の葉が風に揺れていた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

午後、ジョギングした

 

さとう三千魚

 
 

女はエアロビに行かなかった
誕生日だから

水曜文庫の近くの松柏堂で買ってきた
どら焼きと胡桃饅頭を

女に渡した

映画にも
温泉にも

行かないと言う

海へジョギングしようか
女に言った

すぐに
引き離され

遠く小川の傍を女が走って行くのが見えた

河口に
女はいなかった

白い富士が青空に浮かんでいた

海浜公園までゆっくり歩いた
公園では親子があげる凧が高い空で風に震えていた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life