街角ピアノ

 

南 椌椌

 
 


© kuukuu

 

街角ピアノの夢を見た
たまたまテレビで何回か見たことがある

駅の構内や公園 それこそ街角に
どなたでもご自由にと置いてあるピアノ
見始めると そこにある小さなドラマ
なかなかいいのです

今日、夢に見た街角ピアノ
違う場所にいくつか 置かれていたが
どれも普通のピアノとは違っていた

だれかの手作りピアノ
工作で作ったような木造りの
黒く塗られた 小さなピアノ
見た目はピアノの形をしていたが
細部はまるでピアノではなく
合板をカットして貼り合わせたようなもの

だれがなんのためにおいたのか
近寄って蓋の部分をあけてみると
なかは空っぽで ただの函
外形は ピアノの形だが なんだろう
蓋に小さく aという文字
サインなのか 商品記号なのか

夢は続いていた
二番目のピアノはもう少し大きめで
細工も丁寧 細部もピアノに近づいているが
やはり工作で作ったような 合板貼り合わせ
都会では珍しい 長い生け垣の曲がり角
そっと置かれていた

蓋をあけると やはりがらんどう
ぽっかり黒い穴
蓋には小さく rai とアルファベット
だれがなんのために 
街角ピアノ なぞめいている

三台目は早朝の井の頭公園の野外ステージ
さらに精巧につくられていたが
やはり工作室の作者苦心の作品だろう
不審そうにステージに上って
ピアノにさわる おんなの子とお母さん
鍵盤もなければペダルもない
首をかしげて 去っていった おんなの子とお母さん
蓋には小さく shin とアルファベット

四台目は わりと瀟洒な住宅街
煉瓦と白壁の欧風の家の玄関脇に
一段とクオリティをました
黒い光沢もピアノらしいものが鎮座している
御婦人が玄関をあけて外に出る
「あらこんなところにピアノが!」と
嬉しそうな声をあげ 蓋をあけた
見た目はほぼほぼピアノに近かったが
やはり なかは黒い空洞であり
御婦人は 「あらまっ」とつぶやいて蓋をしめ
なにごともないかのように
ユーミンの「春よ、来い」を歌いながら
出かけてしまった
蓋には ichiとイニシャルのような
アルファベットが 金文字で書かれてあった

夢のなかで 振り返ってみた
ローマ字で置かれた イニシャルを
つなげてみると
a rai shin ichi となった
ア ライ シン イチ って
知り合いにひとり同じ名前の男がいる
彼が?

僕は彼の住んでる浅草の家を
はじめて訪ねてみた
すぐに見つかったarai shinichiの家
思った以上に広いアトリエに住んでいて
床には木の切れ端や 木工の工具や塗料
酒瓶やグラスが 乱雑に広がり
作りかけの 木工のピアノ型のものが
まさにピアノとしか見えない形状に仕上がっていた

僕に気づいたのか 気づかなかったのか
arai shinichiは ピアノの蓋をあけると
そこには鍵盤までついていて
いきなりショパンのワルツを弾き出した
彼のテナーサックスは聴いたことがあるが
ピアノは初めてだった
あまりうまいとは言えないし
音色もホンキートンクだったが
なかなか愛らしいピアノだった
蓋を見ると arashin と金文字のイニシャル

部屋を見渡すと 画集のような書物と
好みで蒐めたような フィギュアのなかに
僕のつくったテラコッタの可愛いのが置かれてあり
一枚、見慣れた写真が貼ってあった
それは 有名なバンクシーのグラフィティ
花を投げる少年のポスターだった
なぜか赤いバッテンがつけられていた

そのあとの委細はわからない
arashin とイニシャルされたピアノは
どこにどうやって運ぶのか
夢から覚めてしまっちゃ わからない
というより ここまで書いて
テレビをつけたら
街角ピアノ京都編がはじまったところ
ピアノを学ぶイケメン青年が
ショパンのノクターンを弾いていた
やってくれるなあ、arashin!

 

* arashinは、彼が1980年代に「仁王立ち倶楽部」というカルト的ミニコミ誌を編集していた頃からの付き合い。美術家であり、過激なパフォーマンス・アーティストとして国内外で活動する、酒と蕎麦が好きな男。

 

 

 

猫の縁側

 

さとう三千魚

 
 

そこにいた

そこに
いて

しばらく
横に

なっていた

白い脚を伸ばしていた

緑色の
爪が

きれい

一瞬
空の蝶を眼が追っていた

空に雲が流れていた

 

・・・

 

この詩は、
2024年3月27日水曜日に、書肆「猫に縁側」にて開催された「やさしい詩のつどい」第3回で、参加された皆さんと一緒にさとうが即興で書いた詩です。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

intervene

 

工藤冬里

 
 

気絶‼︎ひとり傷
駒を動かす
菌を含めて全俺が
自然を目で追う
そのマグ‼︎
石ころ‼︎土‼︎
黄頁デニム
アプリに抱っこされる
カメムシが車に入っている
カメムシ型ハッシュタグを開けるとメモに未来の自分に対するメッセージが入っていた


写真:スズキヒロアツ

 

 

 

#poetry #rock musician

非日常

 

たいい りょう

 
 

沈黙だけがあった
風の音は わたしに
何も語らなかった

物音ひとつ立てずに
目の前を 通り過ぎていった

妖精が放つ光は
役者を盲目にし
孤独を搔き立てた

汗と涙は 観者を発狂させ
沈黙は沈黙を閉じ込めた

すべてが一瞬のうちに
消えてしまった
残像さえも 影となって

 

 

 

終の棲家(Home,)

2023©Cloudberry corporation
 

今井義行

 
 

僕の、終の棲家は、何処だろう…。
僕は、いま、グループホームで暮らしています。
そこは、ほぼ新築マンションで、25人が、1DKの、個室を与えられています。
此処は、精神疾患者の集合体。光のような部屋で、僕は、いま、とても幸せです。
くるう、とは、くるいきれない、こと。
その日々に、生活支援を受けて、お買い物代行をして頂いたり、入浴支援を受けて、お風呂に入れて、頂いたり。
でも、このグループホームは「通過型」と言って、3年経ったら、出て行かなければならない、の…。
そうしたら、新しくアパートを、探さなければ、ならない、の…。
僕の、終の棲家は、何処だろう…。
グループホームに入居する前の、アパート暮らしは、苦々しかった。太陽が無かったし、畳は、ささくれだっていた…。
そんな中で、僕は、病んで、入退院を繰り返して、しまったのさ。
入院生活は、管理されていて、とても悲しかった、よ。
……生活保護法では、月限度額53,000円の住宅扶助が、支給されることに、なっております。
高いか、安いかは、当事者の感性に
よるのかも、しれない、ね。
でも、グループホームに比べたら、確実に、住環境は、落ちる、の。
僕は、自己破産しているから、審査に通りづらい、ブラックリストに、載ってしまって、いる、の…。
だから、僕は、自分で、住環境を、探し求めて、いかなかれば、ならない、の…。
北向きの部屋にも、光あれ!屋外洗濯機置き場にも、光あれ!そこが、フローリングでなくとも、光あれ!
…………………………。
時には、娼婦や男娼が出入りできるような、清らかな世界を創造できていくと、良いなあ!

 

(2024/03/17 グループホームにて。)

 

 

 

結婚(Life,)

2023©Cloudberry corporation
 

今井義行

 
 

わたしは、大谷翔平さんの、妻に成りました。
そして、わたしは、大谷真美子に成りました。
そして、わたしは、ぼく。ぼくは、明け方まで、翔平さんに、抱かれていたいのだ。
それは、時代錯誤、でなく、
ぼくは、翔平さんに幾度も幾度も射精されて、子どもを孕みたい。
一生を棒に振ったりなどしないで、
わたしは、翔平さんの肉体の為にも、人間のじんせいを終えて、
そうして、ぼくは、仏に、成りたいのだ。

 

(2024/03/16 グループホームにて。)

 

 

 

つぶやきのなかに、説明のなかに

 

ヒヨコブタ

 
 

しんと響く文章を書くひとがいる
それは重さを感じるときもある
このつぶやきの世界は断じて腐ってはならぬと願う
腐ったことばがならぶのは断じて
とひとりで熱くなりもする

とあるばしょで外国製の物の説明書きからその国のことやその歴史にひきこまれて夢中になった
その対象そのものももちろんだが、書き手の情熱が伝わってくる喜びがある
他者はさまざまに人生を重ねているのだ
考え方や身につけたものから教わることにわたしはどんどん向かっていく
それが趣味の世界であっても
物について興味深く思うより、さらにことばの世界にひきこまれるというのはわたしにとっては幸せだ
他者から教わるということはとても興味深く面白い
それは本のなかだけではなかったのだ
これからあとどのくらい探しめぐりあえるだろう
楽しみに思っている

 

 

 

また海を見にいく

 

さとう三千魚

 
 

今日も
見ていた

波は打ち寄せていた

小雨のなかを
しらす漁の船が出ていた

ふたつの船に
網を渡してしらすを掬いあげる

しらすは

生きているとき
透明な

鰯の子だ

帰りに
セリアで

空色の食器洗いのスポンジと
ピンクのマイクロファイバーの布巾を買ってきた

部屋では
リュビモフの弾く平均律を聴いている

広瀬さんから
メールが届いていた

今夜も飲むかもしれない

昨日も
駅ナカの店で

詩人たちと芋のお湯わりをのんだのだった

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

二足歩行のブルース

 

工藤冬里

 
 

俺は腹に何かを詰め込んで彷徨っているゆうれいにすぎない
見上げる一様にうすあかい夜空に月は見えず
単発の大喜利で歩を進めているだけだ
祈ればいいんだという声が聞こえ
未来の俺は祈っているが
それは遠い過去のようだ
分断がそこまで来ていて
本は最強決定戦のみとなった
嘘くさいだろ、嘘くさいだろ、という横風を受けながら
踵に集中している

 
シオン

とうとうふたりだけになってしまった
きみどりと茶色だから古生代ぽいのだろう
その木からシオンに線を引いて
心臓を経由させると
いくつかの電波は情を点滅させる
黄みどりと緑と茶の混じった全体は日没に向けて暗くなってゆく
親子の情を基本に据えた世界が今日も暮れようとしている
従順によって今では可能になった
シオン霞ヶ関で働いている
グローバリズムに植え付けた願望?
暮れていった 暮れていった
日本が最初に暮れていった

 

 

 

#poetry #rock musician

ひやっと7月

 

辻 和人

 
 

コミヤミヤの目探す
キュヨロキュヨロ
こかずとんの手伸びる
ゴゥウルゴゥウル
掴めない
でも、いる
通りすぎていく
体全体撫でていく
今は

暑さ真っ盛り7月半ば
赤ちゃんの体温高い
赤ちゃん汗っかき
暑くて暑くて
口歪んでふぃぇーっふぃぇってなっちゃいそう
そうだ、確か戸棚にあったはずの

商店街のお祭りでもらった団扇
あったあった
爆発しそうなコミヤミヤとこかずとんの上空から
ホゥオッホゥオッーーッ、ホゥオッホゥオッーーッ
力いっぱい扇げば

コミヤミヤこかずとん一瞬静止
見えない掴めない
けど汗で濡れた髪の毛
ひやっと蹴散らしていく
真っ赤になった頬っぺ
ひやっと引っぱたいていく
探した目ひやっとなぶられる
伸ばした腕ひやっとはたかれる
捕まえられないのに
圧力がある
ひやっと圧力
お腹からくる
腋からくる
腿からくる
ひやっとくる
何だかわからないけれど圧力ある奴が
コミヤミヤとこかずとんの肌から熱を奪い去っていく
これでもか
ひやっひやっと奪った先に

えふっえふっ
笑ってる
かずとんパパが手にしたうっすいひらひらしたモノが
宙をジグザグに踊る
圧力ある奴がひやっと飛んでくる
そいつ、誰?
探しても伸ばしても確かめられないけど
そいつ、いる
ひやっと遊んでくれる
こかずとんもコミヤミヤも口あんぐり開けて
確かめられないそいつの飛来、喜んでる
かずとんパパ、ちょっと腕が疲れてきたけど頑張るぞ
ホゥオッホゥオッーーッ、ホゥオッホゥオッーーッ
暑さ真っ盛りひやっと7月