島影 14

 

白石ちえこ

 
 

千葉県 鋸南

房総半島へ行くたびに挨拶していた、国道沿いの大きなサボテン。
ズズ、ズ、と夜中に散歩していそうに思えた。
昨年、姿が見えなくなった。
とうとう、旅に出たのだ。
誰もいない遠くの夜の海岸で、
月の明かりに照らされて
そっと海を眺めているこのサボテンを
わたしは想像している。

 

 

 

島影 13

 

白石ちえこ

 
 

紀伊長島

車一台が通れるほどの狭い路地の商店街は定休日なのか閉まっているお店が多かった。
半分開いていて、半分閉まっているような洋品店を覗くと店の奥に古いトルソーがあった。
トルソーはまわりのものに埋もれているようにも見えたが、別の次元に存在しているようでもあった。
近づいて行くと、トルソーは棚の上から私をじっと見つめかえした。

 

 

 

島影 12

 

白石ちえこ

 
 

神奈川県 早川

脇幕に隠れて舞台の写真を撮りながら、背後の階段が気になっていた。
ねじれて、暗がりをたっぷり吸い込んだような階段が生き物のようにわたしを見つめている気がした。
舞台が終わったあと、そっとフィルムカメラを取り出して数枚撮影した。

 

 

 

島影 11

 

白石ちえこ

 
 

北海道 帯広

はじめて冬の北海道を訪れたのは2014年の2月だった。
帯広の町。
凍った歩道を滑らないよう、足下を見ながらうつむいてあるいていると、見慣れない影が目に飛びこんできた。
顔をあげると目の前に大きなエゾシカがいた。