原田淳子
そのひとは
五月の風に葉を揺らして
仔犬のような足音で
あの部屋に来た
混ざりあう時間
ことばの波
わたしたちは泳いだ
殻のなかには
いのちが萌えていた
うた/詩 が溢れていた
脆い夢が
熱く
孵化する
そのとき、
わたしたちは
世界に
はみ出して
よれて
もたれて
沁みて
笑い
弾けて
生きる
卵のひと
.
編集者 小林英治さんを偲んで
どっどど
と風が唸るとき
ふあんふあん
発作のように胸が疼く
きみと丸くなり
嵐が過ぎ去るのを待つ
ふあんふあん
あれは葉が揺れているだけ
ふあんふあん
かなしみが泣いてるように聴こえるのは
ふあんふあん
わたしの哀しみのファンが回っているのだろう
わたしのふあんが漏れたのか、
きみはさいきん、遠吠えをするようになった
あおーんあおーん
猫であることを忘れたように
あおーんあおーん
わたしがみえなくなると
難破船のように部屋を彷徨う
あおーんあおーん
あいごうあいごう
애호애호
猫の認知症があるという
きみをひとり哀号の船に乗せないように
わたしはいつもきみといよう
嵐のあと
窓をあける
風を残した
隣の畑にアラセイトウが揺れている
春だよ
18かいめの春だね
もうすこしで
地めんもあたたかくなる
きみはいつまでも
陽ざしのなかにいて