原田淳子
書を焚く煙
燃える東の空の下に
あなたを見ました
あの子が塗った緑色
崩れ落ちた壁のなかに
あなたを見ました
オレンジが沈む河の底に
片足の猫が寄り添う隣に
並べられた白い布のひとつに
花柄のコーヒーカップの脇に
錆びた井戸の底に
引き裂かれたオリーブの枝に
向けられた銃の先に
あなたが愛したその土地から
あなたが去ってゆくのを見ました
*「あなたを見ました」韓龍雲への返詩として
どっどど
と風が唸るとき
ふあんふあん
発作のように胸が疼く
きみと丸くなり
嵐が過ぎ去るのを待つ
ふあんふあん
あれは葉が揺れているだけ
ふあんふあん
かなしみが泣いてるように聴こえるのは
ふあんふあん
わたしの哀しみのファンが回っているのだろう
わたしのふあんが漏れたのか、
きみはさいきん、遠吠えをするようになった
あおーんあおーん
猫であることを忘れたように
あおーんあおーん
わたしがみえなくなると
難破船のように部屋を彷徨う
あおーんあおーん
あいごうあいごう
애호애호
猫の認知症があるという
きみをひとり哀号の船に乗せないように
わたしはいつもきみといよう
嵐のあと
窓をあける
風を残した
隣の畑にアラセイトウが揺れている
春だよ
18かいめの春だね
もうすこしで
地めんもあたたかくなる
きみはいつまでも
陽ざしのなかにいて