原田淳子
空の鱗、
風に反射して、ひらひら
秋が剥けて
雲が千切れる
金木犀の小片
銀杏の小波
歩くたびに秋が降ってくる
燃え尽きた灰のわたしに
色の服を
薫る食を
与えるように
秋が、空から剥けてゆく
茜にむかって
剥けてゆく
深夜、見切り品を買い物籠に膨らませ
翌日の弁当の惣菜をつくる
なにかの罪ほろぼしのように
なにかの祈りのように
油で揚げれば古くなってもたいてい美味しいのよ
あしたの糧をつくるのよ
腐りかけたそら豆の鞘を剥くと
育ちきれなかった杯がこびりついた
純白の平安があった
やわらかな水の弾力が光る
真綿の繭
このなかに生まれ変わりたい
と、呟いたところで
冷蔵庫のうえに置かれた
砂抜きのアサリが
花柄ボールのなかで
ぷくっと息をした
ぷくっと、息をした
ちぃさな
泡
砂
あぁ きみの息のおおきさと
わたしの呟きはおなじね
生きようと息吹き返したものを
わたしは食べるのだ
砂を被りながら
生きても
生きても
辿りつかない
平安の鞘
わたしは
そこにゆきたいだけなのに
深夜、しがみつく世界
鞘を剥き、
アサリの砂を被る
忘却にはまだ時が足りない