今日も火星が大きい

 

工藤冬里

 
 

足りないものは何もない
あるとしたら未来だ
未来に足りなくなることを見越して
今埋葬を準備しているのだ
Hey 僕は眠くないよ
でもいつか眠くなるだろう
眠くなるまで眠っていよう
眠くなった時起きてないといけないから
準備とは友のための準備だ
僕のためではない
僕は眠くないのに寝て
眠いのに起きているだけだ
僕は生まれた時に死に
死んだ思い出を生きているのだ
死は眠りに似ているが
眠りは生に似ている

 

 

 

#poetry #rock musician

破られる契約の中で話語は II

 

工藤冬里

 
 

目の前には元初のパロールが現れて魚を食べているのだった
時間は常に洞門化している
彼というシニフィアンは彼の死後の生の現前によって究極のシニフィエを想定せざるを得なくなる
彼は建国宣言に署名したわけではなく
聴覚イメージとしてのシニフィアンが共有されていたわけでもない
証明は国民の生の肉の心に書かれると約束されていた
国民が国民に約束するという民主主義の矛盾はそこから始まっている
アーレントやパティ・などがそこを分からなかったのは何故だろうか。
行ったことがない場所でも信頼できる地図やナビがあれば安心です
死んだ彼にナビしてもらうのは不安でした
徹底的な変化です
重ね着ではありません
ナビに呼びかける人の近くにいるナビのおねいさん
ライちゃんは最近帰って来るとおねいさんの匂いがする
法の暴力性を批判することは不可能である
死刑囚に対して権利を移譲されているのだ
永山だな
右手人差し指出して
名とは常に死者の名である
名は署名されたとき初めから死後の生を生きる
民主主義においては主権在民にはならない
デリダは婚姻の不可能性に関しても阿らず突き詰めるべきだった
迷っていたら時間が経っていきます
時間は戻らない
知恵を働かせて自分で決定したい
罪人と看做すかもしれない

 

 

 

#poetry #rock musician

破られる契約の中で話語は

 

工藤冬里

 
 

生き返った彼というシニフィエは存在しなかったが
声の調子とかパンの割き方で死ぬ前の彼と結びついた
彼というシニフィアンは差異として眺められてはいたが
システムが時間のことを考慮に入れてなかったので元初のシニフィエ、根源的パロールが現れて目の前で魚を食べてしまったのだ

 

 

 

#poetry #rock musician

渋谷!果報者としての池袋の裏返り

 

工藤冬里

 
 

わたしにはアビチャッポンみたいな名前の付いた台風が来ていて首が痛い
失うものは前もって失くしていたが
内から出ていく吐き気はそれとは別問題だ
それは引き続き腹の中で量産されてゆく
失うと言うより増えていく
その点ではわたしはかなりの財産家だ
負の財産家だ
吐き気は借金のようで
数が多いと安心する
あゝ本当に金持ちになった気分だ
裏返って借金を吐き出す袋たちがその額を競っている
それが渋谷の水位だ
スマホもない頃座っていたあの階段
の水位

 

 

 

#poetry #rock musician

最後のコモンの稲光

 

工藤冬里

 
 

差別的表現が取り沙汰されて久しい▶︎人を物のように見るのは良くないと声を上げる人が増えたお陰で世の中の雰囲気が随分変わってきたように思う▶︎差別的表現は感覚器官に対する暴力であるが▶︎暴力を暴力と感じることができない状態に置かれていることのほうが暴力的である▶︎では暴力防止のために近年アメリカの警察で導入されている「活発な傍観者」としての同僚の介入を促進させる教育プログラムは▶︎自分が暴力を暴力と感じることができない状態に置かれていることをも同僚に気付かせることができるかどうか▶︎ナチ時代の良心的傍観者の▶︎ユダヤ人を匿うという実践の実話から発想されたこの教育プログラムは▶︎暴力を暴力と感じることのできるレベルを対象とするリベラルの感性を超えることはできないとしても▶︎既に備わっている良心に訴えかける最善の試みであり▶︎最後の隙間を縫って善を行き渡らせるための最後のコモンの稲光である▶︎これによって差別は少し緩和されるだろう▶︎しかしそれでも差別の涙は残り▶︎それから▶︎そのまま終わりが来るのである

 

 

 

#poetry #rock musician

 

工藤冬里

 
 

にたい夜は寝たほうが良いと知っているのでなるべくそうーっと帰ってきたが
青物の月は俄然黝(クロズ)んで車を狙い澄ましていた
この透明はミャンマーの溝(ドブ)の上澄みだ
夜汽車が過ぎるとiPhoneはナイトモードになって
ひどい隔たりを連れた定冠詞が欲望を食べる
僕は夕方もうビールを飲んだ
利用されなかった部屋が終の住処と呼ばれ
血管を汚す外の黒が心臓を 圧迫する
チョコレートは男性名詞だ
夢とは反歌として家々が食べられること
眠りとは死を待つ夢を食べること

 

 

 

#poetry #rock musician

暗白色の明るい黒

 

工藤冬里

 
 

黒い屏風 黒い屏風が 窓の代わりに立っている
暗灰色の中で溶けていく
前を向いて話さないからだ
暗黄色の机に黒いディスプレイが立てられて 消える
机の広さとの比率がホックニーだ
遠く 脱穀の重層低音が
立てられている
学習や金メダルといった黄色が
ささいな秋に消える
隙間の明るさが秋だ
首回りの
阿弥陀籤を横向きにしたHの連なりが窓だ
椅子からずり落ちる
鳥の声が滑り落ちる
行き先を知らないまま行く
設計・設立された都市というシニフィエが
定住を止(トド)めてきた
レンブラントはプラスターの街も暗茶色に塗った
彼には猫も獣であった
あ、頭が痛い
陽性かも

 

 

 

#poetry #rock musician

更地

 

工藤冬里

 
 

病院から直接介護施設に送られ、家は処分されるので
大抵自分の家がもう存在せず、更地になっていることを知らない
センチメンタル・ヴァリューを伴う所有物が何の意味も持たない、というのはそういうことである
認知が入るともはや人間とは見做されず、感傷は更地にされるのである
アロマそのものは開かれているが調合の比率に独占が、つまり見えるものではなくバランスそのものに所有権が宣言されている
陰陽ではなく空想と現実のバランスに関するブレンドが介護施設で調合され、帰る帰ると言い続けるちぐはぐが祈りのように焚かれているのだ

 

 

 

#poetry #rock musician

知床

 

工藤冬里

 
 

中洲を避けて下りてくる光に暫し包まれ
てはいたが
それは胃の外側を流れていった

乳搾り上手いですか
どうかな
朝は三時半起きで
零下二十度でした

国後が見えます、と約束のように付け足した

 

 

 

#poetry #rock musician

彼岸花がまだ咲いているうちに書き留めておきたかったこと

 

工藤冬里

 
 

季節のない街に生まれたくせに今日で全てが終わるさとか昨日もそう思ったと頽(クズオ)れてみたりするのが七〇年代の青春であって
それらはせいぜい工場からの帰り道を変えてみたりハイライトをチェリーにしてみたりするくらいの中身と土台を欠いたものだったから
八十年代は空疎な人格のままネタ探しの旅に出るだけで次々に爆発してしまった
三上が辛うじて一廉の者になれたのは恐らくかれの鼻祖が花を飽きるほどに眺めていたからだ

 

 

 

#poetry #rock musician