工藤冬里
一行目を抜かれて
すでに発生していた
わたしはすでに発生し啼きはじめた
蛇腹を震わせ
音図ozと立ち上がった
ozOzと進路がずれていくことはわかっていた
ずれた
ずれたままバスは進んだ
透析の血に脳が追いつかなかった
即ち脳は萎んだ
脳は谷を越えた
谷を越えて脳ははしる
血に追いつけないまま
脳を凋ませている
* *
置き換えられた枕に
良く似た顔のidol
かどみせのグレーヘアー
セブン・シスターズ
現実逃避は大好きなんですけど 銀化するんだよね
その通りですね全くその通りです
羽織り乍ら言う
そのようなことがあったとしてもひとつづつなくして
不義に顔を顰める
南洋の髪型に
緑を流す
水鳥の首
馬場はどうなっちゃったんだろう
あのやもめの子はどうなっただろう
軽天の時は飴玉を皆に分けていた
この体制での居住は一時的なものなのでリフォームしたりはしない
寝間違えたまま例えを使う
カイツブリだ
イボイノシシよ
進歩していない老人が
江戸っ子っぽい不完全さで
おしえをしろめる
山腹に点在するうつ伏せのマンゴー
目を閉じて階段を塗る
そこまで悪くなるのです
クビは簡単
タレ目で頷く良心
思ってもいない時刻
すでに火は点けられた
安全のうちに破棄してください
* *
蟻浴するカラス
大久保の夜空に雲
ルビが逃げていく
赤い蜘蛛の子らのように
赤い 引き潮
百人町の 喜久井の
約束の地に川はなく
知らない耕作法を学ばなければならなかった
4月後半から9月まで雨が降らなかったので
豊作を紐の字の主(バアル)的曖昧に縋った
東京の夏もいちばん長い日を前に天気の子に縋っていた
脳梗塞の前に
弱さとレインボーがタッグを組む
哲学は人の自然な願いに付け込んでいる
* *
さてその頃
一行目では彼が死んでいた
透析の血に脳が追いつかなかったのだ
見舞を仕舞った最期の日(八月六日)
数日前に見覚えのある、三つの棒のような入道雲を彼も描いていた
はんぶんインド人の孫たちが病室でそれに着色していた
りんごはごりんじゅうの祖父の顔を見て失神した
石鎚に雲は立つ
帰ってみれば
「サンダル下駄の感触が秋だった」