小関千恵
柿の葉のすきま 柿の木のすきま
天からやってきた あかるいね
みんな どこへいくの きみは どこへいくの
色鉛筆 なにを選んで
色鉛筆 なにか掴んだ
彷徨うゆうれいだった
家を無くしたのか
またはそれを予てから持たないのか、
小さな止まり木を渡っている
そこで会う
この穴とは違う、未知の穴
この空洞とは別の象をした空洞
その空間こそ、きみの家と呼んでしまえるのかもしれない
故郷ように何度でも帰ってしまうその洞からの景色を
ほんの少し覗きあう
触れずに潜る途中で、そこから水が湧き出したなら
わたしは
その痛みを羨ましくも感じるのだった
暮らした家や故郷よりも、
郷愁を感じる絵や風景に出会ったりする
筆の動きが見えることが懐かしい
埋もれたいくらいに愛おしい
きっとただの運動だったところに生まれていた
「稀人たち」
わたしというゆうれいはいま、
過剰に伸びすぎた不毛な髪を天に掴まれぶら下がっているみたいだ
天だと感じているのは、雲かもしれない
ただ流動する小さな雲の何処かに引っかかっているだけかもしれない
宙吊りの脳を切り落とせないまま
地上から浮いた軀が揺れている
揺らしているのは
風か 心か
わたしを吊るした雲なのか
川、
きみから湧き出たあの水が川となって
足先に触れている日
捕物は追いつくから それまでの間だけ
許して遊んだ
いつか追いつく
そんなふうに、限りがあることに
安心していたね
つまらない平安でいっぱいにして
滑稽に踊りつづけて、
いつの間にか滅んでゆくこの身を、呑み込んでいたね
いつ、生まれるの
永遠に飛び込むのは
身投げと同じ
脆弱な魂が恐怖を抜けて死ぬことと同じ
私が今 あなたの胸に飛び込むのは
身投げと同じ
死と同じ
永遠と同じ
同じです
海を見つめることも
空を見上げることも
この存在をくりぬいて
鳥じゃないけどわたしだって
そこでやっとひとつになって
ねえねえ、ねえねえねえ ねえねえ …
声が漏れてきて
何かを消そうと出てるやつだって
いつもそうして
何かを消そうとして出てるやつだったって
わたし生まれてない波だけど
わたし生まれて消した波だった
わたし生まれていたのにいないことにして溢れでた波だった
消そうとして叫ぶ!
消そうとして叫ぶ!
はね はね ゆめ
ハネはね 跳ねて うね きえる
空中に
透明に
光に もっと光に
切る 切る 空を切る
起きていたい 眩しくて
伸びていたい 風の中
寒くない
消していたい
次へ行きたい
次へ行きたい
どこにも無い そのまま
このまま 発ってゆく
なみのね 止まらない
じっとしても 動いてる
叫ばなくても 溢れてる
色違う
風変わる
明けてゆく
いつのなみだ
いまのなみだ
波はいつでも立っている
消してみせるさ そんな海
呑まれてみよう あんな波
出会うだけ
命が波をすり抜けて
ごろんと海辺に転がって
心は天の岸を打つ タイコ!
海のまんまの明日になる
ひとつもおんなじのがない
ぶつかり合う 消えてゆく
産んで産んで 産みまくる
消して消して 消しまくる
あしたまた 揺れてる
揺れ合う
触れ合う
ねえ
ねえねえ、ねえねえねえ …
ねえねえ
どうして
ひとは
身体中を
「ことば」のなかへ
飛び込ませるの
溢れてるよ
溢れてるよ
わたしをおぶった母が身を投げまいと立ちすくんでいた駅のホームに
何度目だろうか
立っている
目の前の、レールを這う川の溝色
死にすぎた人々の、血かもしれない
眩しい
反射光
・
離れていくこと
追わない決意で
歩いていた
身体の隅々の夢は
いつの間にか色の違う水に溶け
行き場を失ったのでは無く
探すものも無く
ただ足下を拾い上げていた
適当に拾った貝殻が美しかったから
わたしはそのまま歩いてゆく
「 何も知らない
知れない
それを咎めない 」
貝
土に埋まって
声を出す
潜る
土の底から返す
まだ滅ばない、にんげんの赤い根
歌う
この世界を初めから、この生肌で改めるため
・
産まれる
産まれる
子
産まれる
間に
母の天地 裏返る
ように
子宮の内から 月を見る
ように
泥の涙 塞き止めぬ
ように
さあ
継ごう
(探したって 見つけられない 命)
・
あの夜
眠りを震わせるものが
なにも見つからず
自ら踊りながら帰った
闇
一秒毎に新しかった
生きていて
それでよかった
それでよかった
.
心が重心に反発していた
引き寄せるものの前で
どのようにしたら、全宇宙に全生命を委ねたまま
この世と接することができるのか
朝
耳という受動に、山鳩の声がする
「わたし」は、自然
死も生も
地上に立つ
いつだって
真新しく、立っている
マスト
.
揺らす
命を揺らす
くらげたちの水
観念を忘れる
今 明日 泡
吐き出しながら、分離してゆく
流されても
残っていた
いま
掬い出すもの
それは離れていたようで
ただ閉じていた
泡立つ底で
きっと
鳴り続けていた
.
無感情に照らすお日さま
.
分裂
目の前に
わたしのような人がいる
分裂
離れた
私に
空と重力だけが残っている