卵のひと

 

原田淳子

 
 

 

そのひとは
五月の風に葉を揺らして
仔犬のような足音で
あの部屋に来た

混ざりあう時間
ことばの波
わたしたちは泳いだ

殻のなかには
いのちが萌えていた
うた/詩 が溢れていた

脆い夢が
熱く
孵化する
そのとき、
わたしたちは
世界に
はみ出して
よれて
もたれて
沁みて
笑い
弾けて
生きる
卵のひと

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編集者 小林英治さんを偲んで

 

 

 

走る姿

 

長谷川哲士

 
 

お前が走る姿
横向きでしか
見た事ない様な気がするけどな
凄く変な走り方だな
男みたいだよ

そんなの嘘だ
あたしの事よく見てないから
そんな事言えるんだ
あんたに向かって正面から
走ってぶつかってるじゃんか
そしてあたしの事お前なんて
呼び方すんな
男みたいなとか古臭え事
言ってんじゃねえぞ馬鹿

そう言えば
この間職場まで迎えに
行った時
遅くなっちゃって
って言いながら鬼の形相で
前から走って来たの見て
思い出したよ

鬼だと馬鹿野郎
てめえが車ん中で
イライラしてるんじゃねえかと
推測して速度上げてんだ

最初のデートの待ち合わせ
お前遅れて来て
ラガーマンみたいに
前方から走って来て爆笑したよ
冷めるなあなんて

ラガーマンだと
てめえラグビーの事なんか
何も知らないだろ
このガリガリ野郎馬鹿野郎
お前って言うのやめろってんだろが

しいいいんと静寂
アナログ時計の秒針は
電池が切れそうカチカチカチの
間が抜けてしづくが
ぽたりぽたりと落ちるよう

あったなあったな
記憶の地層穿り返して
切なくなって
涙出そうになっちゃったよ

あったなあったなだと
何全部終わった気になってんだ
涙出てるのはこっちだ馬鹿
鼻水もだよ花に水やる時間だよもう

もう大丈夫だからよ
そんなに力走するなよ
何処にも行かないからよ

何処にも行かない競争だな
負けないよお馬鹿さん

 

 

 

岸のない川

 

工藤冬里

 
 

家族を創ろうと思って造ったのに死に別れるのはなぜか
テザリングのために俺たちは斜めに向き合い
英数字を読み上げた
晴れやかなものを犠牲にして
銃のように空洞はすぐに腐敗して
見分けが付かなくなる
どんな武器も役に立たない
光の残影が赤い線となっている
詩を終わらせようとしてこの店に来た
昔の学校のようだ

 

 

 

#poetry #rock musician

また旅だより 68

 

尾仲浩二

 
 

中学の同級生数人の集まりの翌日に久留里を散歩
小さな城下町で名水が湧き、酒蔵がいくつもある
試飲コーナーもあちこちあるが、昨夜の酒の余韻がまだあるし
あの頃の可愛かった女子や、早死してしまった奴の顔を思い出しながら
暖かな日差しの中、桜吹雪の小道をのんびり歩けば酒はいらない

2024年4月13日 千葉県久留里にて