イーロン・マスク、騒ぎ立つ

 

佐々木 眞

 
 

風が立つ、風が立つ
いざ生きめやもと、風が立つ
いざいざ生きよと、風が立つ

家が建つ、家が建つ
赤、青、白の家が建つ
あっという間に、家が建つ

八雲たつ、八雲たつ
八岐大蛇がそそり立つ
須佐之男命、奮い立つ

色めき立つ、色めき立つ
政権交代できるかと
他力本願、勇み立つ

腹が立つ、腹が立つ
毎日100万ドルを配るやつ
イーロン・マスク、騒ぎ立つ

面影に立つ、面影に立つ
亡き父母が、ぞぞ髪立つ
夢枕獏、夢枕に立つ

弁が立つ、弁が立つ
口から先に生まれたる
論破小僧、浮かれ立つ

上に立つ、上に立つ
腕は全然立たないが
悪運強く、白羽の矢が立つ

倉が立つ、倉が立つ
黄金虫が、蔵立てた
息子に水飴舐めさせた

角が立つ、角が立つ
目立ちすぎると、文句言う
消息絶っても、ぶつくさ、ぶつくさ

俵屋宗達、筆が立つ
フリーマンは、役に立つ
乱麻を断った、逆転サヨナラ満塁ホーマー

門松が立つ、門松が立つ
日本全国、正月だあ
今年はめでたい、甲辰(きのえたつ)

 

 

 

三十年寝太郎

 

佐々木 眞

 
 

おらっち、三年寝太郎、改め三十年寝太郎。
ついこないだまで暑くて、暑くて堪らなかったのに、いまはもう寒くて、寒くて堪らない。
人間なんて、おらっちなんて、勝手なものだ。

「そうだ、ペルルに行こう!」
と龍宝部長が叫ぶので、みんな仕方なく西武新宿線の鷺宮にある井口君がやっている小さなバアへ行った。

アルコールなんぞ一滴も飲めないおらっちは、なぜだか寒くて、寒くて仕方ないので、井口君の奥さんが出してくれた2枚の布団を上からかけて、まるでヤドカリみたくソファーに横たわっていると、

「おらおら寝太郎、そんなとこでなに寝てる。今度は銀座の太牙へ行くぞ。荷風散人がやって来る頃だ」と、今や酒呑童子になっちまった龍宝部長が、ジャック・ダニエルをラップ飲みしながら叫ぶのだ。

荷風散人なら仕方がない。
もしかすると、30も年下の、花も恥じらう美人妾のお歌さんの、花のかんばせを拝めるかも知れん。

と思うと、可笑しなもので、おらっち、げんなり困憊した皆の衆の先頭に立ち、帝都タクシーを呼び止め、意気揚々と乗り込んだが、お目当ての太牙には、お歌嬢どころか散人の姿さえ欠片もなかった。

おらっち、しょうがないから、太牙の支配人から借りた2枚の布団を頭からかぶって、まるでヤドカリみたくソファーに寝そべっていると、そのまま3年どころか、30余年も眠りこけてしまったらしい。

んで、突出する陰茎が宝石箱を蹴飛ばしたようなある朝、いと爽やかに目を覚まし、あたりを注意深く見まわしてみると、今井専務も、龍宝部長も橋本&今中両次長も、前&若林両課長も、前田夫妻も、青木夫妻も、永原さんも、柿崎さんも、金原さんも、矢島さんも、

善太郎君も、安永さんも、酒井君も、毛塚君も、その他大勢のリー(ウー)マン諸君も、みんなみんな姿を消して、もちろんあの憎々しい金髪大統領も、軍事オタクの裏金党首さえも、全国各地の原発や米軍基地と共に、姿を消していたのよ。

 

 

 

ファとラは羽虫の囁き

 

一条美由紀

 
 


<ある殺人者のポエム>
小さな箱の中から覗き見てるような
自分と無関係に感じる世間
他人ごとのような僕の身体は
冷えた炎を放っていた
君の見開いた目に熱く流れる血の映像が浮かぶ
ピクピク動くデコネイルがとても愛おしい
甘ったるい歌詞を切り刻み
ナイフを舐めた時に走る絶頂感を
今君に教えたい

 


すべてを話せど足らず
すべてを聞けどわからず
捨てたものを思い出して
また捨てる
複雑さはいつまでも簡易にならない

 


昨日の北の空は
波立っていた
私は彼方までは泳げなかった
ただ恨めしく仰ぎ見て嫉妬するだけだった
人は叶えられないものほど
より強く望み
死してさらに肉体に求める

 

 

 

標野(open field)

 

工藤冬里

 
 

息を吸うのとシャッターを切るのが同時であるような
顔と半身を透かす文字群が配されている瓶
全く別の国に入ったみたいだ
標識も違うし

虎色は溶けて頽れ
愛想尽かした黄色と薔薇色
水色に紺の運河
大砲が火を噴きそこだけ白く剥がれる擦れ方の
発信源を探ると虫瘤のイスノキ
守ることも破ることも簡単な空洞だった
置手神
鱗から落ちて開くのか覚醒して食べるのか
祈れと言う三人称に属さない終止符
殴らず撃退する点猫法の算数
地上に望むものは何もない

 

 

 

#poetry #rock musician