アタミ

 

廿楽順治

 
 

町の
左はんぶんは死んでいた

あたらしいパン屋があり
となりに葬儀屋がある

人影は 建物のさかい目で
足が切れていた

(寝返った将軍のように)

髭をはやした花屋の主人が
店員と仕入れのことを熱くはなしていた

その顔のはんぶんは
もう なくなっていて

くらすことが
どこか遠くでたたかうことのようだ

(けっして思い出されない空)

わたしたち家族は
その左側の川をわたろうとして

まだわたれない

 

 

 

haven’t yet passed away

 

工藤冬里

 
 

小さい男だった
小さい男だったが
ぼくはさらに小さかったので
包むこともできなかった
今年も梅は受粉せず
梅干屋は潰れるだろう
こうして時事を取り上げるのは大切なことだ
ラリったときの愛のように
表情は人種を跨いで
タッパー毎に曜日を書いて
ドネツクで爆発に遭う
それでも立っていられるか
麺が口に上っていくように靱帯も内部をスルスルと飛行するが
蝋燭で澱んだ夢と同じで
最後の言葉はない
この忍従が
うれしさと結びつくなんて知らなかった
まだ過ぎ去っていない〈以前のもの〉の中で

 

 

 

#poetry #rock musician