家族の肖像~親子の対話 その71

 

佐々木 眞

 
 

 

2024年5月

モノレール、ジエットコースターみたいですよ。
そうですか。
そうですよ。

お父さん、黒柳徹子と石原さとみの番組、録ってくれた?
撮りましたよ。帰ってきたら一緒に観ようね。

ボク、クレソン大好きですお。
お母さんもよ。こんど買いましょうね。

感謝って、ありがとうのことでしょう?
そうだよ。

コウ君、来週図書館お休みだってよ。
なんでお休み?
特別整理期間だって。
なんでお休み?

ボク、ペヤングのソースヤキソバ、大好きですよ。
そうなんだ。

ハイハイ、お父さんですよ。
お母さん、出してください。
お父さんじゃダメ? お母さんは今忙しいからお父さんが出たの。
お母さんがいいよ。

感じるって、思うこと?
そうだね。

お父さん、ショードクって、英語でなんていうの?
ショードクねえ。分かりません。今度調べとくわ。
お母さん、ホケンのタカギ先生、「手をショードクしときなさい」ていったお。
いつ?
小学2年生のとき。

戦うラーメンマン、おもしろかったですおお。
そうなんだ。

一度きりって、なに?
一回だけ、よ。

生糸、オカイコのこと?
まあそうだね。

お母さん、あした東急行きます。
はい、分かりました。
お母さん、あした図書館とたらば書房、行きます。
はい、分かりました。

 

2024年6月

ぼく、ヨシタカユリコとお父さん、好きですお。
そうなんだ。コウ君、ありがとう。

ボク、オマツリ好きですお。
そうなんだ。

 

2024年7月

お父さん、田中みな実が出る「ギークス」録画してくれた?
しましたよ。
した?
したよ。

さまざまな、ってなに?
いろいろな、よ。

吉高さんに子どもが出来たんでしょ?
そうね、でもドラマの中でよ。

お父さん、田中みな実が出る「ネプリーグ」みますお。
いつ?
今ですお。
そう、みてね。

 

 

 

静かなる休火山

――目黒実氏に
 

佐々木 眞

 
 

小学生の頃、火山には、活火山と休火山と死火山がある、と聞かされていた。

それで僕は、山を人世に譬えて、山頂から激しく火をふいいて地下からのマグマを天に向かって吹き上げる活火山は、青少年期。

その勢いがだんだん収まって、
時々爆発するオヤジのように丸くなる休火山が成熟期。

そして思い出だけを懐かしむ老人期が、
死火山に似ていると思ったものだ。

それから半世紀の歳月が流れ流れて、
僕は今まで見たこともない秀麗な休火山と巡りあった。

花と嵐のこの世を渡り、酸いも甘いもかみ分けたお洒落な伯父さん、目黒実。
それはいつも静かなる頬笑みを湛えた休火山。

その山頂には、来る朝毎に昇る太陽にキラキラと輝く透明なカルデラ湖を湛え、その下にはいつでも爆発せんばかりの、ふつふつと情熱をみなぎらせたマグマが赤黒く滾っている。

この山は、もしかすると、この国でいちばん美しい休火山かも知れない。

しかしある朝、それが静かなる休火山であることをやめ、
その端正な面立ちを崩して、天空に向かって地下から激しくマグマをまき散らすだろう。

その時こそこの山は、世界でいちばん美しい山になるだろうことを、僕は確信している。

 

 

 

川岸で女たちは見つかる

 

工藤冬里

 
 

うっすらとはみ出してゆく
盤の外へ雪崩れて
水平の斜面を氷河のように

ガス抜きを見抜けても
本体に属していない党派性など
ボンベごと爆破された方がよい

不安は和らがない
サメに喰われるので街路は進めない
薬剤では治せない

はみ出た貝の中身のように絶望し
どこから始めてよいのか信号待ちして
探りながら
閉店だらけの街道の
雨に濡れた舗道をゆき
川岸で女たちは見つかる

晴れた日も雨の日も
はみ出たまま
碁盤の街を潰してゆく

 

 

 

#poetry #rock musician