喪亂帖的筆意在空雨中顯現

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

《喪亂帖》的筆意在空雨中顯現
雨,落。 奈何!
書頁也落; 羲之頓首
花容失卻病態
舌下的罌粟彌留, 居所!
血液沖刷著熱肺
受驚的魚躍出匿名的時間
與利爪搏鬥
不眠的手機月亮一般靠近頭顱
平靜,從湮沒的海中昇起
空氣中充滿了《喪亂帖》的筆劃
奈何,雨的種籽淌過夜,葉子
深處的歷史意亂情迷,無法注釋
雨水静靜地流向天賦的溪谷
被囚的骨鎖成為輪廓。
一切來臨,一切
             來臨。

2022年8月13日香港西貢

 
    .
 

《喪亂帖》的筆意在空雨中顯現
 『喪乱帖』の趣はきまぐれな雨のなかに現れ出る
雨,落。 奈何!
 雨は、降る。 いかんせん!
書頁也落; 羲之頓首
 本のページも脱け落ちる、 羲之拝啓
花容失卻病態
 花の容色は失われていた病態を現出し
舌下的罌粟彌留, 居所!
 舌下の芥子粒は留まりつづけ、 身を何処に置く!
血液沖刷著熱肺
 血液は熱き肺より激しく押し流し
受驚的魚躍出匿名的時間
 驚いた魚は匿名の時間に躍り出し
與利爪搏鬥
 鋭い爪と闘う
不眠的手機月亮一般靠近頭顱
 眠れぬ携帯電話は月のように頭蓋に近づき
平靜,從湮沒的海中昇起
 平静は、沈み込んだ海中からわき上がり
空氣中充滿了《喪亂帖》的筆劃
 空気の中に『喪乱帖』の筆さばきが満ち溢れた
奈何,雨的種籽淌過夜,葉子
 いかんせん、雨の種は滴って夜を越え、木の葉の
深處的歷史意亂情迷,無法注釋
 奥深くひそむ歴史は思い悩ましくかき乱され、
  注釈を施すすべもない
雨水静靜地流向天賦的溪谷
 雨水は静かに天賦の谷間にむかって流れ行き
被囚的骨鎖成為輪廓。
 囚われた骨の鎖が輪郭となる。
一切來臨,一切
 すべてがやって来る、すべてが
             來臨。
                やって来る。

2022年8月13日香港西貢
 2022年8月13日香港サイクンにて

*『喪乱帖』 中国東晋の書家王羲之 (おうぎし) の書蹟。戦乱の中、先祖の墓が再度北方の異民族によって荒らされたのを悲しんだ手紙を後人が模写したもの。「羲之頓首」はその冒頭と末尾の語。

 

日本語訳:ぐるーぷ・とりつ

 
 

王羲之 喪亂帖

​釋文:
羲之頓首。 喪亂之極。 先墓再離荼毒,追惟酷甚,號慕摧絕,痛貫心肝,痛當奈何奈何。 雖即修復,未獲奔馳,哀毒益深,奈何奈何。 臨紙感哽,不知何言。 羲之頓首。

 

 

 

 

6月9日香港

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

暴雨的六月,坍塌。
緊閉的眼不在,
暴露出遺忘的內部。
美哉!少年郎……

經歷過的人們停止了活著,
他們飲茶飲恨,
卑微地儲蓄著陰性的雲雨,
綿綿不斷。他們交稅交水費
而眼睛這無辜的石頭
被噴滿殘暴的胡椒
少年 ! 大雨滂沱
鼓點因拒絕漠然而狼狽
如不堪的雷聲。
心裡的暗啞成了叫喊,
以後的沈重加深月份,
流火的化石眼神卷刃……..
追随雨,殘缺的編年史。

少年,你還好嗎?

 
    .
 

暴雨的六月,坍塌。
 激しい雨の六月に、崩れ去る。
緊閉的眼不在,
 固く閉じた眼は、いまは無く
暴露出遺忘的內部。
 忘れていた内部をさらけ出している。
美哉!少年郎……
 すばらしいぞ! 少年よ……

經歷過的人們停止了活著,
 時を経た人々は生きることをやめ
他們飲茶飲恨,
 彼らは茶を飲み、うらみを飲み込む
卑微地儲蓄著陰性的雲雨,
 陰性を示す雨は意味もなく溜め込まれて、
綿綿不斷。他們交稅交水費
 降り止まない。彼らは税金を納め、水道料を払い
而眼睛這無辜的石頭
 そして眼というこの罪のない石くれには
被噴滿殘暴的胡椒
 乱暴に胡椒をぶちまけられている。
少年 ! 大雨滂沱
 少年よ! 大雨はふりしきり
鼓點因拒絕漠然而狼狽
 鼓の音は、拒絶され、所在なげにうろたえる
如不堪的雷聲。
 しようのない雷鳴のように。
心裡的暗啞成了叫喊,
 心のうちの暗い沈黙は叫びとなり、
以後的沈重加深月份,
 それからの重苦しさは、月ごとに深まり、
流火的化石眼神卷刃……
 流れ星は化石となり、その眼差しは鈍く濁り……
追随雨,殘缺的編年史。
 雨を追い従うのは、とぎれとぎれの年代記。

少年,你還好嗎?
 少年よ、きみはまだ大丈夫かい?

 

日本語訳:ぐるーぷ・とりつ

 
 

 

 

 

在最後的春天裡;
最後の春のなかで、

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

在最後的春天裡;
總是散去,雲和人
而靈床堆著經籍泥土
有蜂,有傷口
沈重的段落
是陰鬱的中提琴。

在最後的春天裡;
群蜂飛舞。
蜂鳴,將挖出的泥土存放。
骨頭!危機的碑片
岩塊和鐵,還有土,
以及水的阻力。

在最後的春天裡;
露出傷口。
哦!鳥啊,只有骨頭堆才算數!
寄存的雨如史無聲
而心,畫軸一般展開。

在最後的春天裡,
嶄新的特首說:「我,和我們」
預告春天的囚徒
明天將再被捕⋯⋯
而山徑通向原野,
拔節的芒草在練習祈禱。

在最後的春天裡;
一顆落單的念珠遺置靈床。
昏死如同「相信」。
我的呼吸只是風的一部分;
虎斑是聖城的遺囑。

 

2022年5月11日 香港西貢

 
    .
 

在最後的春天裡;
 最後の春のなかで、
總是散去,雲和人
 結局は散ってゆく、雲も人も
而靈床堆著經籍泥土
 そして遺骸を横たえるしとねには古書が泥のように積み重なる
有蜂,有傷口
 蜂がいる、傷口がある
沈重的段落
 重苦しい一節は
是陰鬱的中提琴。
 陰鬱なビオラだ。 

在最後的春天裡;
 最後の春のなかで、
群蜂飛舞。
 蜂が群れ飛ぶ。
蜂鳴,將挖出的泥土存放。
 蜂は羽音を立て、ほじりだした土を置いていく
骨頭!危機的碑片
 骨! 危機を伝える石碑の破片
岩塊和鐵,還有土,
 岩塊と鉄、そして土、
以及水的阻力。
 さらに水の抵抗。

在最後的春天裡;
 最後の春のなかで、
露出傷口。
 傷口をさらけ出す。
哦!鳥啊,只有骨頭堆才算數!
 ああ!鳥よ、骨の山が築かれてそれでやっと恰好がつくというのか!
寄存的雨如史無聲
 預けられた雨は歴史のように音もないが
而心,畫軸一般展開。
 心は、掛け軸のように拡げられている。

在最後的春天裡,
 最後の春のなかで、
嶄新的特首說:「我,和我們」
 こんどの新しい行政長官はいう、「私、そして私たち」と
預告春天的囚徒
 それは春の囚われ人が
明天將再被捕⋯⋯
 明日にはまた捕らわれるのを予告するかのようだ・・・
而山徑通向原野,
 そして山道は原野に向かって通じ、
拔節的芒草在練習祈禱。
 ずんと伸びたススキはお祈りの稽古をしている。

在最後的春天裡;
 最後の春のなかで、
一顆落單的念珠遺置靈床。
 ぽつんとひとつの数珠が遺骸を横たえるしとねに残された。
昏死如同「相信」。
 気絶して正気を失うことは「信じる」ことと同じだ。
我的呼吸只是風的一部分;
 私の呼吸は風の一部分にすぎないのだが、
虎斑是聖城的遺囑。
 南の海の宝貝は聖なる都の遺書なのだ。

 

2022年5月11日 香港西貢 
 2022年5月11日香港・サイクンにて

 

日本語訳:ぐるーぷ・とりつ

 

 

 

 

 


在る

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

我敗
我旗
我病
⋯⋯骨
⋯⋯滿飲!
我夜晚
我街磚
我哭號
我吻你

⋯⋯

 
    .
 

我敗
 私は敗れ
我旗
 私は旗を巻き
我病
 私は病む
⋯⋯骨
 ⋯⋯骨よ
⋯⋯滿飲!
 ⋯⋯たらふく飲もう!
我夜晚
 私は夜中の
我街磚
 私は街路の煉瓦に
我哭號
 私は泣き叫び
我吻你
 私は君に口づける

 私は
⋯⋯

 かく在る

 

日本語訳:ぐるーぷ・とりつ

 

 

 

 

傷之俳 3月
悲傷の五七五 3月

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

西博寮海峽
正午,憤怒己暗淡
青銅無消息

復:撫摸眼淚
重傷銅沉默不歌
潜航吧……翼骨

不羈的翱翔
渴望於群星之上
突然被呼喚

恢恢海天間
誰在問順從的血
不確的流向

僅僅是個謎
美酒隱藏了盜賊
我不曾留意

 
    .
 

西博寮海峽
 西博寮の海峡の
正午,憤怒己暗淡
 真昼どき、憤怒はもはやぼんやりとかすんで
青銅無消息
 青銅は何事も伝えない

復:撫摸眼淚
 またも、涙をぬぐい
重傷銅沉默不歌
 幾度も傷ついた銅は、沈黙して歌わない
潜航吧……翼骨 
 潜航しろ……翼の骨

不羈的翱翔
 思うさまの飛翔は
渴望於群星之上
 群れる星々の上方で
突然被呼喚
 唐突な呼びかけを渇望している

恢恢海天間
 広々とした海と空の間で
誰在問順從的血
 従順な血の流れゆく
不確的流向
 不確かな行方を 誰が尋ねようとしているのか

僅僅是個謎
 たかがちっぽけな謎にすぎないのだ
美酒隱藏了盜賊
 うま酒が 盗賊の姿をくらませてしまったことなど
我不曾留意
 私は気にかけたこともない

 

日本語訳:ぐるーぷ・とりつ

 

 

 

 

當傍晚無聲地抹去星辰
夕暮れどき沈黙のうちに星々を消し去る

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

當傍晚無聲地抹去星辰,前世
塵土,起伏如波瀾
黑暗的文件如晦,裏面好黑
大地蟄伏,花朵猶豫

最難將息,寒冬骨架
從來世生出肋骨,種子沉痛
家譜灰燼;那就重讀灰燼,從此無名
此刻退色,你是唯一的音節。

就是不屈服的石頭
那些在流亡裡往返的孤魂
洗滌我們的盲文,奧德修斯!
來到盡頭我一無所見

 

 
 
當傍晚無聲地抹去星辰,前世
 夕暮れどき沈黙のうちに星々を消し去れば、前世の
塵土,起伏如波瀾
 土ぼこりは、大波のように高まり鎮まり
黑暗的文件如晦,裏面好黑
 暗黒の文書は読みようもなく、中身は真っ黒だ
大地蟄伏,花朵猶豫
 大地は寒気に沈みこんだまま、花はまだ開きかねている

最難將息,寒冬骨架
 いちばんの災いは終わろうとして、 寒い冬の骨組みに
從來世生出肋骨,種子沉痛
 来世からあばら骨が生え出しても、種子は悲痛のうちにある
家譜灰燼;那就重讀灰燼,從此無名
 系譜は燃えかすとなり、ならば燃えかすを読みなおそうとも、それからもう名前はない
此刻退色,你是唯一的音節。
 この時間は色あせて、きみがただ一つの音節だ。

就是不屈服的石頭
 これこそ不屈の岩石たる
那些在流亡裡往返的孤魂
 流亡のうちに行き来する寄るべなき彼らの魂は
洗滌我們的盲文,奧德修斯!
 我らの点字を洗い清めるのだが、オデュッセウスよ!
來到盡頭我一無所見
 しまいまでいっても私にはなにも見えないのだ

 
日本語訳:ぐるーぷ・とりつ

 

 

 

 

葉芝的愛爾蘭飛行員是雲端的曾經的父親
イェイツのアイルランドの飛行士は雲の父親だったことがあるんだ

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

昨夜的珍珠已黑
步妳後塵,成灰。
看妳的手勢如花一般地擺動。
字句碎身粉骨!
而星斗盡量符合著節拍
睜開眼!序幕
此刻我心中沒有仇恨,衹是努力平衡。
葉芝的愛爾蘭飛行員是雲端的曾經的父親

 

 

昨夜的珍珠已黑
 ゆうべの真珠はもはや黒ずんで
步妳後塵,成灰。
 きみの後を追いしたがううちに、灰になった。
看妳的手勢如花一般地擺動。
 きみの手ぶりが花のように揺れ動くのを見れば
字句碎身粉骨!
 字句はその命も惜しむまい!
而星斗盡量符合著節拍
 そして星々は一心に、そのリズムに合わせようとしている
睜開眼!序幕
 目を見開け! 幕開きだ
此刻我心中沒有仇恨,衹是努力平衡。
 いま我が心中に恨みつらみなく、ただ平衡を保とうとするだけだ。
葉芝的愛爾蘭飛行員是雲端的曾經的父親
 イェイツのアイルランドの飛行士は雲の父親だったことがあるんだ

 
日本語訳:ぐるーぷ・とりつ

 

 

 

 

安靜的刻度
しずかに刻まれる目盛り

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

安靜的刻度。
落花 落光羽。
青銅,山脊線。
肩胛骨 ,眼淚青銅!
我打開典籍;
信念 領略 耳朵 痕跡
翼,不翼。
帆失去帆,
黑暗的漏洞在星光深處
銅鲸的槳葉自昏水中破冰而來。
而今我立於銅墙之下,
傾城在即。朗誦
波濤。這不朽的青銅
沉睡如風的殘骸。

 

 

安靜的刻度。
 しずかに刻まれる目盛り。
落花 落光羽。
 散る花 落陽の羽衣。
青銅,山脊線。
 青銅、峰々の稜線。
肩胛骨 ,眼淚青銅!
 肩甲骨、涙の青銅!
我打開典籍;
 私は古い書物をひらく;
信念 領略 耳朵 痕跡
 信念 了解 耳たぶ 痕跡
翼,不翼。
 翼は、羽ばたかない。
帆失去帆,
 帆は帆を失い、
黑暗的漏洞在星光深處
 真っ暗な抜け穴は、星の光の深みにあって
銅鲸的槳葉自昏水中破冰而來。
 銅の鯨のオールが、暗い水中から氷を破って現れる。
而今我立於銅墙之下,  
 いま私は堅固な壁のもとに佇み、
傾城在即。朗誦  
 都市は破滅に瀕している。声高らかに読み上げるとき
波濤。這不朽的青銅  
 大波が。 この不滅の青銅は
沉睡如風的殘骸。  
 風の残骸のように眠り込んでいる。

 
日本語訳:ぐるーぷ・とりつ

 

 

 

 

用雙重的季節向妳致意。
二つに重なる季節の挨拶を君に贈る。

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

等一等,黑沉沉的玫瑰;
重傷的青銅已沉默不歌。
不辭的心充盈着秋闇的餘輝。

等一等,賦格的玫瑰;
醉舟離開妳睫毛的星座
離開星星的群島。

等一等,不眠的玫瑰;
詩節骨離,杯酒往何處?
最 !
瀝血的刻度寸斷象牙。

以後,我詩中的玫瑰不再是玫瑰。

 

 

等一等,黑沉沉的玫瑰;
 待ってくれ、黒々としたバラよ;
重傷的青銅已沉默不歌。
 深く傷ついたブロンズはもう沈黙して歌わない。
不辭的心充盈着秋闇的餘輝。
 諦めない心は秋の闇の余韻に満たされている。

等一等,賦格的玫瑰;
 待ってくれ、フーガのバラよ;
醉舟離開妳睫毛的星座
 酔いどれ船は君のまつげの星座を離れ、
離開星星的群島。
 星の島々を離れる。

等一等,不眠的玫瑰;
 待ってくれ、眠らぬバラよ;
詩節骨離,杯酒往何處?
 詩片はバラバラになり、グラスの酒はどこに向かうのか。
最 !
 最高じゃないか!
瀝血的刻度寸斷象牙。
 血の滴る目盛りは、象牙を寸断する。

以後,我詩中的玫瑰不再是玫瑰。
 これから、私の詩の中のバラは、もうバラではない。

 
日本語訳:ぐるーぷ・とりつ