廿楽順治
象が
うずくまっていた
(じぶんの現象に夜通し泣けますか
ってんだ)
羅宇屋の
汚れた指さきが
べったりと
わたしの夢の先端へ伸びてきた
どれどれ直してあげましょう
と声がやってくる
この場所では
あなたは もう「わたし」ではないのだから
というように
象はさらに
象のなかへうずくまる
(影はそれなのに少しもへらない)
ですが
その夜のくせはきっと直せますぜ
羅宇屋が
象の影とならんで
象が
うずくまっていた
(じぶんの現象に夜通し泣けますか
ってんだ)
羅宇屋の
汚れた指さきが
べったりと
わたしの夢の先端へ伸びてきた
どれどれ直してあげましょう
と声がやってくる
この場所では
あなたは もう「わたし」ではないのだから
というように
象はさらに
象のなかへうずくまる
(影はそれなのに少しもへらない)
ですが
その夜のくせはきっと直せますぜ
羅宇屋が
象の影とならんで
後ろ側ばかりを
声高にありがたがっていた
(じょうぶつじょうぶつ)
(外食は戦争そのものですもの)
今ごろになって
近所のひとが
液体のように生きのびているのに気づく
わたしたちの
のびきった対話も
テーブルの下で濃くなるばかり
向きあった両岸がずれて
器の影がむしょうにかゆくなってくる
タケオさんですか
ふいに耳たぶを舐められた気がした
背あぶらの
外地のタケオさんの
あまりのうまさに
わたしたちはぎょっとした
三越の少年音楽隊なんかに
入っちゃだめだよ
(死んぢゃうよ)
きみの眼の奥の
きいろい膿のたまったところ
おじさんはもうだめ あるけません
腰から下が地面なんだ
(売りてし止まん)
結局みんな
じぶんの夢が
なつかしいだけでなんですよ
(どいつもこいつも赤札だ)
だから三越の音楽隊だけには
ぜったい入っちゃだめ
しゃがんだ
戦争に
声を売られちゃうよ
ひねもす
骨になって
じぶんをわたってくるものしかみていない
それが
今日はずっと
空をみあげてやすんでいた
直線の世界で
いまごろになって
骨は不意にかんがえているらしい
わたしです
とうったえる南洋の怪鳥は
この世にいったいどれほど飛んでいるか
空をみおわって
やっと
近づいてくるけだもののような
でんしゃをみた
ぼくは死んで直線をみているだけ
いったいこの仕事は
骨になっても
するようなことなんだろうかと
せいせいやかんのばいやくは
(オイチニイサン)
上手に数えることで
世界はまっすぐに暮れていくが
いったい
実人生とはなんであるか
咳なのか
ラッパのように鳴り出す路地で
足されることも
まして風景から引かれることもなく
生きていくことに
オイチニイサン
貴様はすこし泣いているのではないか
(せいせいやかんのばいやくは)
数のふりして
やかましく
膨らんでいくが
ずっとは
生きていけない内臓なのさ
おとうさん
こんなところで
なまくらを抜いてどうしますか
水たまりになりはてた
女房の声だ
(強盗をしようとおもいます)
まずは
頭にのせたその
ふるい魚をこちらへよこせばよいのです
けして
声をたててはなりません
遠くの風景では
ひとびとが群れになって
一本足でひたすらすべっていきます
(きみらはただ無限に
人生を改行したかっただけなのだろう
そうは問屋がおろさない)
能書キハドーデモイイ
フトコロノ物質ヤ時間ヲゼンブ出セ
わたしは
なまけものなので
詩で強盗をしようとおもいます