桜譜の風に

 

藤生すゆ葉

 
 

氷と氷が触れ合うと
木枝が波をうつ
空と地面が触れ合うとき
人はそれを雨と呼んだ
ただひたすらに降り注ぐ透明は
一つの線となり
一枚の五線譜のように

丸みを帯びた淡いピンクは
音符になって流れていく

交わり離れて この一瞬をよろこぶように

遠くの傘は風に形をうつして
いつか羽化するのだろうか

青にピンクが重なる昨日は
今日を知っているのだろうか

 

いつもの景色は記憶を好んだ

雨音が記憶の ため息 にかわるとき
その透明は 寂しさを纏わせる
誰にも気づかれない色
そっとそばに寄り添う色

手に触れる散りゆく花びら

 

記憶の片鱗を呼び起こし
やさしい もの を 
あたらしい旋律を

繋がれた色玉の反射は
今も続いている
今も

知らぬ間にできた歪みの記憶すら
愛せるように

そう口ずさみながら
かろやかに風は吹いていた

 

 

 

生きている、ふり

 

藤生すゆ葉

 
 

ふくろが飛んだ
宙に舞い上がり 風を泳いで
縁石の補助で一回転
追い風で膨らむ透明の膜は
木に阻まれ形を変える
枝の形に添うように
平らな膜に

遠くにいたグレーの空は
水音と両手を組んで
仲間と共にやってくる
透明の膜には透明の水が集まって
茶色も交わり地面をつくる

小さな長靴が足踏みすると
突然始まる 3小節のワルツ
埋もれた膜を知らせるように
日が沈んで陽が昇る
手を振るように会う風は
逆さの景色を空に問う

あたたかな手が触れ
知らない膜に入り込む
隣の枝がトンネルをつくる
遠くを繋ぐその道を
透明の膜は知っている
その景色は今しか出会えないことを

流れるままに 在るままに

花びらの入ったふくろが
舞い上がる
一つの花のように
息をするふりをして

 

————–
自由に受け取っていただけますと幸いです。
ふと道に落ちていた透明の袋、網膜、生命の膜、
3視点をくっつけたり離したりして書きました。

追伸
空からの景色はどうですか?

 

 

 

半透明雲

 

藤生すゆ葉

 
 

右へ 左へ  意図せず揺れる
前へ 後ろへ 意図せず揺れる
こんなつもりじゃなかったと
白い天井に話しかけ
身体の記憶を確認する

ぼんやり見える
光をたよりに

落ちた”葉”が触れ
混ざりあった色を感じる
秋だね、と
みえない私にほほえみかける

足もとの白い”羽”が
話したそうに静かに見上げる

両足に伝わる規則的な同じ形
この道もでこぼこだ、と
みえない私にほほえみかける

前を向いたまま深呼吸して
重心を思い出す

生きている感じがする?
生かされている感じがする

綿毛が土に着地する
でこぼこな道に
意図せず揺れながら

————–
高齢父との散歩道

 

 

 

 

藤生すゆ葉

 
 

ゆれる空をみる
みどりと黄の葉が横切り
あめんぼの動きにあわせて
円が描かれる

包み込む空とゆれる空は
小さな祝福の連続を見守って

雲のそばでいちょうの葉が泳ぎ
光があたる

耳にとどく 葉の触れ合い
子どもの泣き声 笑う声
色雫を奏で 唯一になる

かたちになった過去は
余韻を残して静かに通り過ぎる

空がゆれて
円をえがいて
共鳴の鼓動に
透明が調和するように

からっぽの宇宙が
ほのかにゆれる

まぶたを閉じると
美しい虹が広がっていた

 

 

 

無題

 

藤生すゆ葉

 
 

たぶんあの光は生命だろう

きてはいなくなる光
淡い球体

やわらかい卵たちの空間で
ふわふわと

地球は重いこととも隣り合わせで
ギザギザと向き合う季節もある

そんなことを伝えると
楽しそうにきらきらと

入り組んだ次元の隙を潜り抜け
仲間と一緒に色をつけるの、と言った

ギザギザも色がつけばかわいいと
軽やかなお裾分け

またねの合図は
透明の密度にカラフルが宿る

赤の表情を瞳に
自分の手をみた

 

 

 

向日葵のことば

 

藤生すゆ葉

 
 

暑さが滲む
身体が不明確になるように
道に映る影は鮮明さを増す

雲を色づける光は
地上の植物を振り向かせる
それは
誕生と別れ

扉をあけてくれたあなたは
夢のなかで最後の挨拶
人工物では表現できないその光は
ここの意識だけを残して
軽やかに旅立った

 
結末を教えてくれた朝
光の先端に 笑顔をのせて
ありがとう、と

残された意識がすべて旅立つように
願い続けた あなたの幸せを

 
片手の年月
ほほえむようになった「 」は
あなたの元へ戻れたかな

 
生命の切符を携えて降り立つときは
抱えきれない愛と共に 飛び跳ねて

忘れないで

降り注いでいる愛を
言葉の存在を

 

光へ

 

 

 

雨夜

 

藤生すゆ葉

 
 

やさしい風が
わたしを追い越す
木々の香りと

足元をみると
小柄なヒメジョオンが見上げている

闇に照らされた 生があった

光が消えた街に音が灯り
鼓膜をくすぐる

通りすがりの黒猫
表情もほころんでいる

時を越して運ばれた線は
静かに弾け皮膚に温度をもたらす
わたしのあたたかさに気づかせる

目を開けると滲む輪郭
やわらかさを映す
一枚の透明

わたしの内側に遠くの温もりが響きだす

零れ落ちるくらいのそれは
なつかしい はじめまして

わたしのなかを広がり
ほのかな甘みを帯びて
音になる

      あ

            あ

        り

          が 

          た
 
 
            い

 
言葉

すべての景色に

 

 

 

みえてみえない、あなたと

 

藤生すゆ葉

 
 

私には大切な山がある
暑いといえば風が吹き
寒いといえば陽が照らしてくれる

こころがグレーになると鳥が音楽を奏で
こころがグリーンになると風と木が手を繋ぐ

一枚の水音 ありのままの姿が濃淡をつける
一瞬の静穏 自然の先端が目前を通り過ぎる

 
人工の音が 聞こえる

 
他の声が身体に溶け込み こころの色調が変化する

鳥が音楽を奏で始め 陽が照らされる

 
人間の音が近づく 近づいた
やわらかい挨拶とともに空気が前進する

人間の音が遠のく 遠のいた
小さなひと粒の光から言葉が渡される

漂う空気のなかで泡に変わり
風を纏わせ 色をも遊ばせる

いつの間にか 風と木が手を繋ぐ
足元の青みずの子供も

自然が
人が
あなたが
寄り添う 山がある

 
平らな地面に足をのせる

 
笑って 笑って

 
無限の気配が
遠く彼方のほうから
微笑みかけた

 

地上の姿から抜け出した
あなたのような気がした

 

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草花は虹を映し
時を連ねる木々が佇む
大切な 山

 
自然が創り出す色彩を感じながら足を進める
自然の中にいる私なのか
私は自然そのものなのか
境目がどこかへ去った時間があった

一粒の雫が落ちるように スマートフォンが鳴る
祖母の訃報の連絡だった
行年100歳 だった

身軽になった彼女は
最期にどこを散歩しているのだろう、か

浮かぶ道を景色が横切り
離れた自然を体感する

私は今生きている
そう思った

 
葉擦れに新しい音がそっと重なる
親子が通り過ぎた

私を追い越し見えなくなる寸前で
お姉さんも頑張って
と香る響きをくれた

もちろん自然も

太陽と入れ替わるように
瞳を交わした方々が集まる
内緒で宴を計画してくれていた

笑い声が絶えない時間を 共にした

ふと空を見上げる

煌めきあう星たちが
見守っているようだった

どんな時もたくさん笑うのよ

そんな言葉が寄り添っていた

 

 
ありがとう

 

 

 

しずかなこえ

 

藤生すゆ葉

 
 

気づいてくれて ありがとう
人間はおもしろいことをするね

遠いところから来たんだよ
ヒカリたくさんつけられちゃった

道を歩いているとふわっと入り込んでくる

しずかな 言葉のかたち

はじめましてのソウに
もっと地球について知りたいと
話しかける

そっと答えてくれる

地球のことは自然に聞くといい
ぼくらは昔からいるんだから

み空色のかたちに光が溶け込み
ほほえみのかたちが覗き込む

 
あとね

“よい”も“わるい”もないんだよ

 

停めておいた自転車のかごに
何かが入っていた

綺麗な、一枚の葉だった

 

 

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その存在はきっとすべてを受け入れる
地球を知る生命の尊重を願って