that あの その

今朝は
チキンスープを作っている

チキンスープができるまで
瞑想する

女神の乳房を想像する
巨大な青い湖を想像する

風が微かに流れて

あのと言う
そのと言う

二重構造では把捉できない

青い湖を見つめるには
エレガントな構造の瞳が必要なのだ

 

 

empty 空の 人のいない

日の出の前の海に
ボートで漕ぎ出したことはあるかい

ないのだったら
君にすすめる

日の出の前の凪いだ海にはなにもない
平らな海があるだけ

ひとり浮かんでいると
空白ということが理解できる

空白は空白ではない
空白の海に佇むものたちがいる

 

 

fish 魚

ひかりの中で揺らめいていた

明るい川底の
小石のうえの魚たちは揺らめいていた

コトバは
なかった

丸い眼で見ていた

すべてだった
すべてだとおもった

水面に太陽が光っていた
水藻がゆらゆらと揺れていた

丸い眼をしていた
魚たちにコトバはなかった

 

 

today 今日

昨日
うすい青空に西の山が浮かんでいた

今朝は
どんなだろう

青緑色に浮かぶだろうか

今日も静かに明けていくだろう

そして今日も
忘れてしまうだろう

わたしは静かに君を忘れてしまうだろう

エレガントな眼で君を見たい
エレガントな耳で君を聴きたい

 

 

program 予定 番組

大風は過ぎて
西の山が青空に緑色に浮かんでいる

窓を開けると
冷たい空気のなかに金木犀の花の香りがした

ハクセキレイが鳴いている
プログラムは動作している

ただ生起するものを受け入れ特殊性を見いだすしかない

わずかに風が流れている
わずかに

 

 

fan ファン 愛好家

男の声だった

深夜の闇の中で
大雨警報のアナウンスがながれた

今朝は西の山が雨に煙って

大風は
東に逸れていった

愛好家たちは大風の日どこにいるのか

好きなものを集める
好きなものを集める

大風の日にわたしの似姿をたくさん集めている

愛好家たちは

 

 

none 何もない 誰もいない

昨日
地下鉄に乗ってセミナーにむかった

サイトの数値のなかに
果実を見つけるものだった

何もない
誰もいない

夕方の虎の門は
雨だった

大風が近づいてるのだ

地下鉄でミナ・ペルホネンの青いセーターを着た娘をみた

冬の鳥だった
カモメが飛んでいた

 

 

tourist 観光客

昨夜は
西口焼トンで飲みはじめた

それから荒井くんと
ワインバーで大きな乳房の女神をみた

大きな乳房であった
大きな大きな乳房であった

神が去ったあとに
まだすこし地上から浮遊していた

かつて浜辺で犬に神話をかたったことがある
神はいなかったと

 

 

more もっと多く もっと

小さなボートからみた朝の海面のヒカリと

水辺にうつる空と
波のうちよせる浜辺と

遠くにある突堤と空と海と
雨に霞む西の山と

夕暮れに沈んでゆく山なみと

わたしはわたしの知らないものが現れるのをみた

表層に他者を見た
表層の他者はわたしだった