tourist 旅人 観光客

夢のなかで雪をみました

暗黒のなかから雪が
降ってくるのをみていました

夢のなかで
みあげていたのでしょう

白い線となって
いくつもいくつも雪は降ってきました

浜辺を歩きました

昼間
浜辺を歩いていました

浜辺では
カモメが飛ぶのをみました

シュロの葉が揺れるのをみました
波が打ち寄せるのをみました

波がテトラポットに砕けるのをみました

突堤をみました
突堤をみていました

突堤に水平線が重なるのをみていました

すべては
流転でした

流転しているものをみているのだと思いました

流転をそのままいきるのが旅人だし
旅は流転をそのままことばすることだと思いました

カモメが飛んでいました
カモメは首をひねって飛んでいきました

 

 

order 命令する

乳首をみなさい
乳首の並んでいるのをみなさい

小さな乳首をみなさい

その小さな乳首を数えなさい
その小さな乳首を数えなさい

産毛のなかに
肌色の地平がひろっていた

その産毛のなかに潮騒が鳴っていた

カモメは飛んでいた
カモメが飛んでいった

 

 

さあ、詩のテーマは東京都知事選!

鈴木志郎康

 

詩人のさとう三千魚さんに誘われて
三千魚blog「浜風文庫」に詩を書くことになっちまってさ、
テーマはいきなり東京都知事選だ!
あたしの一票は死票になっちゃたんだよね。
ってやんでぃ!
この人と思う候補者がいなくてね、
正直言って、結局、消去法で投票しちゃんだよね。
ってやんでぃ!

二月九日の四十五年振りの大雪の雪道を
雪掻きシャベルを抱えて、
電動車椅子を運転して投票所に行ったのよ。
自動車の轍の跡を辿って走らせたんだけど、
盛り上がった雪につっこんじゃってさ、
麻理が雪掻きシャベルで掻き分けて進んだ
という、
あたしにとっちゃ、
前代未聞の投票行動だったのね。
権力者丸出し顔のあの人が当選して欲しくなかった、
ってことです。
ってやんでぃ!
脱原発じゃんか。

車椅子専用の記入所で
候補者の名前を書いたのですが、
なんか手がうまく動かなくなりまして、
小学生のガチガチの書き字になちゃった。
他人の名前を書くのって
うまく行かないもんです。
ってやんでぃ!

そもそも
消去法で選んじゃったのは、
この人って人がいなかったってこと。
友だちになってもいいやって人がいなかったのね。
ってやんでぃ!
こころん中で、
この選挙は、
単に都知事を選ぶっていうだけじゃなくて、
権力者のあり方の地層ってのが、うーん、
民主主義を多数決で踏みつぶす全体主義の足取りの始めじゃねえか、
とか
個人主義を歴史意識で縛り上げる国家主義が誇らしく腕組みしてるんじゃねえか、
とか
って思えちゃってね、いや、まあ、詩人さん、先走るなよ。
都知事選は現実よ、ゲン、ジ、ツ。
ってやんでぃ!
いやー、思った通りで、
暮らしの安泰が第一ね。
世間様は怖い。
いやいや、わたしの子どものころにゃー
国の安泰ってことで、
鬼畜米英、撃ちてし止まむって、
世間様はみんな同じ顔して、 白い割烹着とカーキ色の国民服で、
万歳しちゃっていたじゃん、
ってやんでぃ!
古くさい体験の繰り言は止めにしな。
時間は止まっちゃくれないよ。
さあさあ
東京の200万の世間様を
お迎えするのは全く違う夢舞台ってところじゃん、
お父さんお母さんおじさんおばさんお兄さんお姉さん
取り戻された國の輝く世界一の東京とやらで
おもてなしの絆で結ばれた手を合わせ
どんな五輪ダンスを踊るのやら、
マスコミに揺さぶられた詩人の杞憂の妄想ってやつですよ。
ってやんでぃ!
逃げるなよ
っと言ってもですね、
あたしゃ車椅子の十年持つかっての身の上ですよ。
ってやんでぃ!
言い訳みたくなっちゃった。
これじゃ駄目じゃん。

 

 

count 数える

砂を

数える

微細な
微細な砂を数える

数えていた

膨らんで
いた

ちいさな乳首が膨らんでいた
二列にならんでいた

膨らんでいた

乳首を数える
ちいさな乳首を数える

やわらかい産毛の下に
肌色の地平はひろがっていた

数えていた

 

recycle 再利用する

西口焼きトンで
荒井くんと飲みました

ワインバーにも行きました
巨大な乳房の女神はいませんでした

亡くなった小山博人さんの
音楽についてのエッセイを荒井くんから渡されました

アンドラーシュ・シフのことが新多感様式と
書かれていました

多感の背後には何が必要でしょうか

 

 

swim 泳ぐ

泳いでいましたね
夏休みには泳いでいました

雄物川の流れのなか
魚たちと泳いでいました

魚たちは
川底の小石のうえを群れになって泳いでいました

世界は水色にひかって
緑色の水草がゆるりと腰をふっていました

言葉のない世界でした
言葉はありませんでした

 

 

window 窓

さよならアドルフ
というドイツ映画を観ました

窓の外で
火が燃やされていました

犬がピストルで殺されました

女の子には妹と弟たちと赤ちゃんの
兄妹がいました

深い森を逃げました

女の子は三角の窓から雪を見ました
燃える世界を見ていました

 

 

音の羽  @140208

萩原健次郎

 
こんな朝が暴かれると、
知らぬうちに、茶碗は割れる。
斜光に、誘われるままに、吸われる、視界の
乾いた、野の、散らばる陶の欠片を、
ちくちくと音立てて、陽光の食う、その無残な作法に
飽きたのならば、まず滝のある隅の方角から
修行の血汗として、ぼとぼとと降ればいいことだし
それを語る、経を持つ僧の心気も、迸る虚言のようで
吐く川は、削ぐ皮となり、炎暑の鈴虫みたいに
すこし冷気が吹く、土塊の奥に潜んで
土食いに、喰われる。
斜光ちゃんの、茶汁がひびから漏れて
雲母の、急登に、踵がからまって、
それからやわな史蹟となり、
この甘辛さは寿司に巻かれる。

農夫の、濃みどりと
衣に降りかかった粉の白さと、斜光の暴きと、
どのような、誤記の作法で、みすぼらしい沼ができ
そこに汚い鯉を浮かべたのか。

正月も、縄燃える。
祈りの、おまえが、煙に化ければ、溶けるやないか。

巻紙の、水面が夕空の、弱法師、
追いかけてくる足音が、また煙を吸い
混濁は、坂の水を干す。
風を見るために、雲母の坂を降りてきた
猿に殴られ
鹿に蹴られ、
烏に頭髪の根を突かれて

それでも朝に、帰っていく。

 
(連作のうち)

 

flag 旗

手を振る
ヒトたちはいた

手を振るヒトたちはたくさん
いた

旗を振るヒトたちも
いた

日の丸を振るヒトたちもいた

たくさんいた
たくさんいた

すこし浮かれていたかもしれない
すこし悲しかったかもしれない

旗を振った
旗を振った

さよならといわなかった