萩原健次郎
杭打ち、打ち、また打ち、
文字を描いた、人、指で傷をつけた人
それを、鑿で削った人、
言葉に、霊ら魂やらを添わした人
それらが、減り込む。
減算、なにかを知らせるための熱の減産。
老いていくことが、身の芯から抜かれて
わたしにも、軸があるのに、そのあわわの
そのあわわの、なにか、の、の、
から埋められる。
顔色を引かれ、
赤く腫れた、器物が引かれ、
笹が、引かれ
縄が引かれ、
鳥居が引かれ、
神のような、棚の上にあるものも
間引かれて、
空だけになった、赤ちゃんが泣いている。
青空の赤ちゃん。
タレに浸して、杭打ち。
おとわ、か。
昔、高貴であった、紀念の詳細も、
杭打ち、
地誌の暴きは、糊付け。
●
割烹着を着た、おとなしい人が
「紀念の、写真を、撮りましょうね」
と言って、そこに消えた。
まるい穴の中に、消去された。
まるで、シー・ジーだ。
●
大根のように、
まるまるの、正円の蕪のように
地面が、ただ、純白に、地底まで抜けている。
石の書の下まで、掘っていく。
すると
水だけがあふれて、
轟々と吹き上がり
文字の書かれていない、石の顏だけがあらわれた。
なあんにも、
埋まっていない。
(連作のうち)