@140610  音の羽

 

萩原健次郎

 

 

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は、ね、
ねっ
それは、虫の
それとも鳥の
人の根に響く、蒼空の
雲の根、骨、ね、

迂回して、濃緑の木の根の道を歩いていくと陽は
斜めからさして、匕首になり、陽の匕首は、時刻
によっては、鋭利に光り、錆びて病んだ鈍い面を
見せたり、陰が、その尖りを消したり、それはも
うまたたく刹那で、明滅している。
はようみいひんかったら
光の三角も、滅んでしまう。

数をかぞえる、猫の声
魚の声
草の声
ぴちゃぴちゃにゃあにゃあ、ふうふうと
ね、
恋去り
小唄かよと
ひるがえっている
きれいな舞いすがたに
ね、
からむ脚が、
きゅっきゅっ言う。

白昼を服す飲料に混ぜた羽の音の粉々にあたりの
松もその下の薊も被せられて息できなくなってう
ろつく犬ころも猫撫声もふわふわしている種子も
骨肉のすべてが粉末になって枠どりされるそれも
真実の世と記されているから一旦はああ本当だと
驚いてみるがただ匕首で切り刻まれたただの世の
切れ端にすぎず生きた証と言ったら犠牲になった
犬にも薊にも笑われる

わたしにも
根が焼けると
思うことがあって
すこし冷やしてから
きょうは帰ろうと
思う頭が
は、ね、
根は焼けずに
夕照と音羽の真水に溶かされて
麦の筒で吸われる。

世、根、
吸われて、
どこかの胃にいるのは。