「はなとゆめ」17 沈黙

 

 

マリア・ユーディナの
平均律ピアノ曲集 第1巻第22番を聴いて

朝となりました

わたしには
語るべきコトバがありません

ひかりの後に

西の山が
薄い青空に青く浮かんでいます

小鳥たちが
鳴いています

虫たちが鳴いています

蝉も鳴きはじめました

マリア・ユーディナのピアノを聴いて朝となりました
マリア・ユーディナのピアノを聴いて朝となりました

語るべきコトバがありません

マリア・ユーディナの
ピアノは

ただひかりを受けているように聴こえます
ただひかりを受けているように聴こえます

語るべきコトバがありません
語るべきコトバはありません

コトバは沈黙のカタチをしていました
コトバはひかりのカタチをしていました

 

 

 

※この作品は以前「句楽詩区」で発表した作品の改訂版です。

 

 

「はなとゆめ」16 おもちゃではない

 

 

蝉が鳴きはじめました

窓の外を
クロアゲハがゆらゆらと飛んでいきました

燕たちは
大きな曲線を曳いて飛んでいます

土手を
朝の散歩のヒトたちが歩いています

たくさん
歩いていきます

青空の下
西の山が青緑に霞んでいます

きのうの夕方
モコと散歩したときにみた雲が忘れられません

たぶん二度とあの雲と会うことはないと思います

すこしピンク色に輝いていました
光っていました

このまえ桑原正彦から電話がありました
桑原くんはぼくの友人の画家です

夜中に新丸子のスーパーで買い物をしていたときです

桑原くんは
電話のむこうで言いました

ひかりなんだよね
むずかしいけどひかりなんだよ

桑原くんは電話のむこうで言いました

うまく言えませんがぼくもそれしかないと思いました

おもちゃでは
ありません

おもちゃに見えるかもしれませんが
おもちゃではありません

蝉も
クロアゲハも

燕たちも

朝の散歩のヒトも

西の青緑に霞んだ山も
昨日の夕方の空も

白い雲も

おもちゃではありません
おもちゃではありません

 

 

 

※この作品は以前「句楽詩区」で発表した作品の改訂版です。

 

 

「はなとゆめ」15 小さな子

 

 

夏の
太陽の下に道があり

白い道が
あり

ひとりあるいていきました

山の斜面に

ユリが咲いていました
ヤマユリは白く咲いていました

白い雲が

流れていくのを
見て

いました

ゆっくりと流れていくのを

見て
いました

小さな子はわたし
小さな子はあなた

燕が大きな曲線を曵いて飛ぶのを
見ていました

魚たちが光の中で遊びながら泳ぐのを見ていました

オニヤンマがゆるゆると風の中を通り過ぎるのを
雲がゆっくりと流れておそろしく盛りあがるのを

見て
いました

小さな子は見ていました
小さな子は始まりを見ていました

小さな子は終わりを見ていました

小さな子はわたし
小さな子はあなた

ゆっくりと流れて
白い雲が盛りあがるのを見ていました

世界の始まりと終わりを見ていました

 

 

 

※この作品は以前「句楽詩区」で発表した作品の改訂版です。

 

 

「はなとゆめ」14 生きる

 

 

悲しみに堪えられないならば

夕暮れに
浜辺にたってみてはどうでしょうか

悲しみは人称を失いました

人称は
失いました

だから
マリア・ユーディナを聴いています

だからマリア・ユーディナの平均律クラヴィーア曲集 第1巻22番を聴いています

西の
山に

日は沈みましたか

青緑の西の山に日は沈みましたか

夕暮れに
燕は

空を
飛んでいますか

悲しみは何処にいきますか
失った悲しみは何処にいきますか

浜辺に佇ち尽くすばかりです
わたしは浜辺に佇ち尽くすばかりです

燕は首をひねりながら鳴きます
燕は電線にとまって首をひねりながら鳴きます

燕たちは夕暮れに子どもたちのために忙しく空を飛んでいます

 

 

 

※この作品は以前「句楽詩区」で発表した作品の改訂版です。