チロチロチロチロと
虫の
鳴いて
秋の虫たちの鳴いて
います
今夜は
虫たちの声をきいて
すずを
ころがすよう
すずをころがすよう
あのヒトの俤も消えてしまった
虫の声の
この世の果てまで響いていました
*
夏の朝に
エアコンのカタカタとなって
トトトトトと
とまった
階上から水の流れる音がゴオーとなった
あまいコトバを
まだ書きたかったろう
うすき口あつき口へと水温む
とかいた
紙片を渡してそのヒトは
逝った
カタカタとなって
トトトトトと
とまり
水の流れる音が
した
*
かつて
叫びはあり
干涸びた午後に
太陽への祈りがあり
ない
言葉はうまれた
ない言葉は遠い夏の日の母のひだまりだった
*
かつて
ひだまりに
ならべた
ない言葉をおしならべていた
そして
死ぬのをみた
背後からない言葉が死ぬのをみていた
熱風は過ぎたろう
過ぎさっただろう
熱風こそ過ぎさるだろう
白い道があった
熱風のあとに道があった
*
熱風は過ぎただろう
熱風は
接吻した
石の唇に接吻した
石の唇を
舐めて
噛んだ
熱風は遠い声だったろう
遠い星雲の声だったろう
星雲は純粋身体だった
白い道に佇っていた
山百合の花が揺れていた
*
空色の花をみました
そのヒトの庭に
空色の朝顔の花が咲いていました
でも一日で萎れてしまうのですね
そのヒトはいいました
そのヒトはいいました
わたしには朝顔は遠い母に憶われました
遠い母に
届けたいとおもいました
空色の花を届けたいとおもいました
空色のない言葉を届けたいとおもいました
一度だけ
母を旅行に連れて行ったことがありました
沖縄で死んだ
たくさんの人々の名前のなかに
母の
兄の名が
刻まれていました
母はその石の前で崩れてしまいました
母はその沖縄の石の前で崩れてしまいました
でも一日で萎れてしまうのですね
そう
そのヒトはいいました
わたしは一度だけ母に
空色の朝顔の
ない言葉を届けたいとおもいました
※この作品は以前「句楽詩区」で発表した作品の改訂版です。