萩原健次郎
破らないと、
逆さの川の
逆さの花の、隙間に満つる
朱と朱の気が混じり
そこに潜んでいる
いきものの胚が、
ほそい振動で、伸びきった
色素の、
諍いのこえが、
高音と低音が
交差して、
どこか水平に、
繊い、和音となって
緑地に溶けている。
よく見ると、
地面と錯視していたそこには
無数の苔の芽が、天をめざしている。
生きる道を習うとなると
つぶやきに耳を澄ますのだが
もう、習う必要もない。
朱の色と濃緑の
まったき調和は、どんな疑いも
とどけていない。
静かな無残に酔うように
空も親和の音楽で合わせ、
景もまた、気もまた
眠っているように感じられる。
鎮める、朱よ
わかれる、隙に
だれかの、思惑をつめて
唱和すれば、
深い、その奥の奥から、呼び戻される。
直立と座位の
こちら側の隙に
ううっと、噎せてくる気は
なんなのか。
毛のもの、
繊維のもの、
それから
人工の、金管や木管、
読経、人声、
吠える声、
糸の、切れる音。