みた
ことがある
朝に
ひとり
ボート担いで
曳いて
海にでて
みた
ことがある
松林が
黒い塊だった
不二が浮かんでいた
三保だった
のかな
海にでれば
陸が
見えるだろ
そこは
懐かしいとこ
そこは
懐かしいところ
女たちがいる
みた
ことがある
朝に
ひとり
ボート担いで
曳いて
海にでて
みた
ことがある
松林が
黒い塊だった
不二が浮かんでいた
三保だった
のかな
海にでれば
陸が
見えるだろ
そこは
懐かしいとこ
そこは
懐かしいところ
女たちがいる
川釣りの本を
読んでる
時間に
身をかさねて
いくえにも
かさねている
釣りも
絵も
踊りも
ことばも
そうだろう
時間に身をかさねて
いくども
かさねて
無い身体になる
井伏鱒二も
身をかさねている
こだまは
東京駅に着いたろう
誘導してたら、拳が入ったよ。
骨に、
貧乏ゆすりと違う
明確なスキャット。
影を、ゆんわり切り身に
おもいおもいの覚悟から
奏でる。奏でる、押し花のよう
訓練による、ゆんわり。
音が折れ曲がる。
四角の人。油断してろ
夕方だった
音が
なかった
目覚めると
窓の
外に
青みがかった
空があり
むこうの
西の
山の
家々のなかに
灯りが点きはじめたのだったろう
故郷は
わたしにもある
母が
姉の家にいる
東鳥海山という山が
あり
天辺がたいらだった
人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて弱いものだ人間なんて人間なんて人間なんて人間なんて人間なんて弱くないのかもしれないな。
※筆者による英詩を多く引用。各行尾の( )内はその詩のタイトルであり、他の英文箇所の多くは、この詩を書くとき同時に出てきた。「テネシー・ワルツ」の歌詞から一行引用あり。
ニホン語を捨てよう
アメリカ語を習得するために
それはワルツ
ワルツのリズム
地下鉄構内から
テネシー・ワルツが聞こえてくる
ワン、トゥー、スリー、 ワン、トゥー、スリー、
……………、…………、…………、
分厚い文法の教科書
分厚い長文の教科書
ノート ノート ノート 電子辞書 紙の辞書
プリントアウトした大事な大事な宿題は
エッセイと 初めて英語で書いた詩
バッグはパンパンに膨らんで
持ち手が肩に食い込んでくる
急ぎ足で
Grand Central 駅に駆け込む
毎朝 無料新聞 “am”をもらう
ニホン語を捨てよう
アメリカ語を習得するために
交差点に立つ若い男子たちは美しい
背が高くて手足が長くて
肌の色はいろいろでも
産毛が朝日に輝いている
ときめくことはない
アルファベットで構成されるわたしの言葉は
ひどく いびつで
振り向く余裕すらないのだ
This afternoon, I have “Creative Writing Lesson.”
( ― 今日の午後は 「文章創作」の授業があります)
I’ll hand in my first English poem to my professor.
( ― わたしは 産まれて初めて英語で書いた詩を 先生に提出するのです)
この夏 2011年の夏
わたしは
アメリカ語で詩を書き始めた
Under the blue sky
青空の下
Like sweet desserts I desire to speak words! (McDonalds /Africa)
甘いデザートのようにわたしは言葉を欲望する!(マクドナルド/アフリカ)
ニホン語を捨てて
In McDonalds, I heard the sound like the clapped lid of gavage box
マクドナルドで わたしはごみ箱の蓋を パタン!と閉めるような音を聞いた
It was the voice of store clerks echoed in the shop
それは反響する店員の声だった
The voice vomited me, vomited me
声はわたしを吐き出した わたしを吐き出したのだった
McDonalds vomited me (McDonalds /Africa)
マクドナルドはわたしを吐き出した (マクドナルド/アフリカ)
ちがう
マクドナルドはわたしを産み出した
そう書くべきだった
黒く塗られた地下鉄の階段を下りていく
どっちみち世界は滅びつつあるのだから
せめて自分は滅びずに と
ニホン人としての自分を滅ぼすことにした
アメリカ語を習得するために
どっちみち世界は滅びつつあるのだから
I liked my situation which is nothing, which is no important thing. (McDonalds /Africa)
何もない 何も大切なものがないこの状況が好きだった(マクドナルド/ アフリカ)
ワルツ
テネシー・ワルツ
地下鉄のホームで
大道芸人がサックスを吹いている
切ないメロディが曲がりくねる
いい音だ
テネシー・ワルツ
親友に恋人を盗られたおはなし
むかしむかしの
おはなしのはず
が
学生時代の噂話
女友達といっしょに大笑いした
みせパン
見せるパンツ
その男はAさんの次にAさんの親友のBさんを誘ったのだけど
そのときのパンツの柄が同じだったんだって
緑のチェック柄だったんだって
見せパンだったんだって
若くて
愛については
まだ何も知らなかった
頃の
ニホンのおはなし
どっちみち世界は滅びつつあるのだから
くるくる回る
ワルツ
回る
落下するクンクリート塊
ひらひらはためく
スーツの上着 ネクタイ スカートの裾
これはアメリカのおはなし
Reality 事実
見ました たくさんの写真を
ワールドトレードセンターの仮設博物館で 昨日
Many people were falling down from big building
たくさんの人々が大きなビルから堕ちていく
I stared unbelievably at the view that people flew down like many supermen
わたしは信じられない気持ちでスーパーマンみたいに飛び堕ちていく人々を凝視した
(Zero Wants Infinity)
(ゼロは無限大を欲する)
知った
ニュースで
崩壊したワールドトレードセンターの鉄柱によって偶然にできた巨大十字架が
建設中の博物館に運ばれるのを
It’s called World Trade Center Cross.
( ― それは ワールドトレードセンタークロスと呼ばれています)
I decided to write about it in my next poem and went there.
( ― わたしは 次の詩にそれを書くことを決めました そしてそこに行きました)
次の詩のために取材に行きました、と
その日のうちに先生にメールを送っておいた
ハドソン川を横切って逃避する船から見た光景は
高層タワーが
空に
シュークリームのような黒煙を巻き上げながら
崩れ落ちていったという
In the darkness I was just wondering if my bag was OK because it was
暗闇の中でわたしが心配していたのは わたしのバッグが無事かどうかだけだった
A present from my husband and I noticed I had only one handle on it.
夫からのプレゼントだったから 気が付くとわたしはバッグの手提げ紐だけを握っていた
(Zero Wants Infinity)
(ゼロは無限大を欲する)
ワルツ
テネシー・ワルツ
くるくる
Madly people would want to live madly. (Zero Wants Infinity)
激しく 人々は激しく生きることを望んだことだろう (ゼロは無限大を欲する)
仮設博物館を出て
メモをまとめようと無意識に入ったのは
地下鉄駅入り口にあるニホン風うどん屋
無意識に
やっぱり「うどん屋」だった
「寿司弁当」も売っていた
「カリフォルニア・ロールはおすすめです」
Though I couldn’t see World Trade Center Cross……
( ― ワールドトレードセンタークロスは見られなかったけれど……)
からだのなかで
言葉が麺のように絡まって
螺旋状に巻き昇っていった
くるくる
テネシー・ワルツ
“Now I know how much I have lost.”
「今になって どれだけたくさんのものを失ったのかがわかったわ」
No, I haven’t lost anything.
( ― いいえ、わたしは何も失ってはいない)
ワルツ
くるくる
No, I haven’t lost anything.
( ― いいえ、わたしは何も失ってはいない)
アメリカ語を習得するために
アメリカ語を習得するために
「ゼロは無限大を欲する」
ワン、トゥー、スリー、
ワン、トゥー、スリー、
「ゼロは無限大を欲する」
学校に向かう地下鉄に乗りながら
“am”のヘッドニュースを読むのが習慣
City Hall 駅の階段を昇ると
青空の奥底
彼方から
ア・イ・シ・テ・イ・ル
という声が
かすかに 聞こえた
誰の声だろう
それはワルツのリズムで
ア・イ・シ・テ・イ・ル………
独立記念日が近づいている
もう、鼓笛の楽団が、楽器を床に置いてみなが坐している。項垂れることはないだろ、めでたい日でもあるのにと、こちらから睨み返すが、彼らとしても商売で音楽しているのだから祭りや祝い事といったって、なんの関わりもない。
でも寂しいではないか。派手に、じゃかじゃかとやってくれ。
白茶けた時間を、眼下の白道を見つめながら連れ立って歩いているだけなら盛り上がらない。そういう仕組みの中で、こちらは音を聴きそれから踊りのひとつも見せてやろうかと思っていたのに。
ぷふぅーって、軍歌、演歌、君が代か。
こちらも、「ご家庭で要らなくなった古新聞古雑誌」を集めて商売している。
音楽も目印に鳴らしている。
客は、ここらあたりの万人だから、なんとなく公共の仕事みたいに思っている。
こちらもお客も、ありがとうと言って応答しているのが変だ。
鼓笛? お囃子? なんか、聴こえてくる。
うきうきしてくる。踊りだしそう。
音羽川のかなり川上だと思う、叡山の麓から、白い帯の川面が、薄く照り返して市街へと下っている。そこへ、トラックに積んだ、色とりどりの紙をぶちまけたいと夢想する。すらりすらりとまっすぐに街へと流れ下る、絵や図や文字や、歓喜や怨恨や、願いや望みや。
紙の踊り、練り歩き、それに、伴奏付なのだから、燃やすよりいいや。
それとも、この紙の片々に一つひとつ火を灯してそれから水に流そうか。
こてきちゃん、さあはじめてよ。
ぼくはもう、準備できたよ。トラックごと突っ込んでもいいよ。
こてきちゃん、祭りだよ。
ボリュームいっぱい上げた。
「ゴカテイデフヨウニナッタ フルシンブン フルザッシ」
正法眼蔵随聞記、
夜と霧、
地に呪われたる者
ナジャ、、、、、、、、、。
いっせいに、千の蝉しぐれも重なるように。
骨というのを
見たことあるかい
ヒトの
死んだ骨をさ
見たこと
あるかい
死んで
焼かれて
ヒトは骨になるんだね
そこが
行き止まりでもなく
海に
まかれたり
山に
捨てられたり
犬に喰われたり
ヒトに
喰われたり
するんだろ
白い
骨はね
いまの
政府になってから
黒い 旗が はためくを 見た。*1
なんだか気分は
ゆあーん ゆよーん *2
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん *3
坊やはよい子だ、ねんねしな。*4
ねんねんころりよ、おころりよ、*5
繁華街など行きながら
映画館の前行きながら
大ヒット中の題名やポスター次々眺めつつ
『この男幇間につき』
『ラストチンピラー』
むかしヒットした映画に題名が
似ているようで
ちょこっと違う
そんな映画が多いなァと思いながら
『市民はつらいヨ』
『ハッタリ!』
『もう勝手にしやがれ』
『おバカさん』
けれど、あゝ、何か、何か…変わつた *6
『安倍と共に去りぬ』
『アベス』
『戦争も平和』
『居酒屋あっきー』
『安倍川餅の味』
あゝどこかで見たような
あの頃見たような
『コリータ』
『落胆のあいまいな代償』
『コンスティチューションを射った男』
『知識人たちの沈黙』
『フクシマ・コネクション』
『悲しみよまたこんにちは』
『コクミンハ・カンカン』
『戯夢政権』
『市民キケーン』
『おかしな、おかしな、おかしな世界』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ニッポン』
『俺たちにも明日はない』
『文化果つるところ』
『ネオリベラリズム・パラダイス』
『地獄に堕ちた与党ども』
などなどと
ポスターを見続ける
見続けて
たらたら
たらたら
歩んでいく
滅びのほうへ
こころとか
あれやこれやの
ほころびのほうへ
(幾時代かがありまして
(茶色い戦争ありました *7
ゆあーん ゆよーん
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
(記憶といふものが
(もうまるでない
(往来を歩きながら
(めまひがするやう *8
(亡びてしまつたのは
(ぼくらの心であつたらうか
(亡びてしまつたのは
(ぼくらの夢であつたらうか *9
ゆあーん ゆよーん
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
註
*1 中原中也「曇天」
*2 中原中也「サーカス」
*3 中原中也「サーカス」
*4 東京地方「眠らせ歌」。北原白秋編『日本伝承童謡集成』第一巻。
*5 同上。
*6 中原中也「暗い公園」
*7 中原中也「サーカス」
*8 中原中也「昏睡」
*9 中原中也「昏睡」。「僕」を「ぼくら」に変えて使用。
夕方
浜辺の車の
窓の
人性の美と品位とに対する内面的な深い感情性、
及び普遍的の根拠としてのこの感情性の上に、その全体の行為を関連づける心情の
持ち方と強さとは、厳粛であり、
窓の
外に
カントの
しろい尻をみた
綺麗だ
儚い
※イマヌエル・カント「美と崇高との感情性に関する観察」より一部引用しました。