萩原健次郎
壁にそって歩く。少しは、盲の手さぐりで、視ることを失わずして、ぽかん場までふいに出る。わたしは、いつかは踊り手だったのだろうか。手の視線があり、狭隘な道と道が交わる丁字の接点に立っていた。
光のとおり導かれているとも言えるし、翳に吸い寄せられるように、薄い黒点を求めているとも言える。
気配の翻り、反転、天地のひっくり返りや、一瞬に無彩にしてしまう所作に酩酊気味に自嘲しながら、ときおりの盲の心持をふところに隠している。
高い塀のあるところまでたどり着いた。その前には石が敷き詰められている。鳩だろうか、カラスだろうか、それは小鳥のような細かなざわつきではなく、鳥の体躯のすみずみに満ちた気の隙間を震わせて、私の足許に迫ってくる。
――なぜ、逃げないのだろうか。
私は、足をばたばたと、地を叩く。
――円陣に、縛られているのかなあ。
ピーピーという、甲高い声が鳴る。
眼の行為を失うために、眼の行為を摩耗するまでに繰り返して、それを鳥たちに覚られているのなら、もう諦めるだろう。
――私のたじろぎは、もう鳥たちの眼の行為で鋭利に抉られている。
あとは、熱度への執着だろうか。私は、どんな人間よりも熱を帯びている。手も足も耳も腹もさわれば熱いぐらいだ。その気を放てば、鳥も虫も寄ってはこないだろう。盲といっても、凍えてはいない。
――そうか、熱線で、鳥たちのか細い脚を、ジュジュッと焼き切ってやろうか。
あと数分で、この川面が夕焼けに染まる。川面だけではない。一帯が闇の中に沈んでしまうその手前の瞬時、一帯が滅ぶ朱の粉末が降ってくる。
盲の私の、眼の象形までもが鳥の嘴に殺られる。