広瀬 勉
東京・中野界隈。
雨のむこうに
雀がいて
鳴いている
昨日
大杉 栄は死んだ
妻と甥と
三人で殺された
声を
聴きたいんだ
腹の底には
コトバにならない声が
ある
墓の前で
手を合わせてみた
ほんとかよ
竹田賢一さんは
アルバート・アイラーを腹で聴いた
そう言った
目覚めた
キシキシキシ
鳴く
セキレイかな
かぼそい声で鳴いてる
休日に
朝の
浜辺を歩いた
夕方には
モコと近所を散歩した
ゆっくり
ゆっくり
佇つ
耳をすます
匂いを
かぐ
それから
歩く
空には
白く遠い雲が過ぎた
過ぎ去る
いやだいやだいやだいやだ
3回目の書き直しの宿題だ
なんてクソ暑い部屋なんだ
PCに向かって頭をひねるのだ
冷蔵庫の牛乳は腐り始めているのだ
つまんない
「論文は、始めの段落に結論を書くこと」
始めに結論書いちゃうなんてつまんない
いやだ
いやだいやだいやだ
あばれる
からだじゅうの
毛穴という毛穴のなかで何かが
あばれる もがく あばれる あばれる もがく
いやだいやだいやだ
きもちわるいきもちわるいきもちわるい
「文の要約は、文中の大切な語句と同じ言葉を決して使用してはいけません。
同じ意味の違う言葉をつかいなさい」
いやだいやだいやだ
きもちわるいきもちわるいきもちわるい
ニホンでは、
「始めから結論を書いてはいけません」
「要約するときは、文中の大切な語句を漏れなく使用しなさい」って
先生からきつく言われ続けてきたのに
いやだいやだいやだ
きもちわるいきもちわるいきもちわるい
もがく かきむしる もがく かきむしる かきむしる
NYのこの部屋はヒーターが効きすぎだ
外は氷点下の真冬なのに真夏みたいにクソ暑いのだ
近所のGAPで買った半袖のTシャツと半ズボンなのだ
クソ暑くてクソ暑くて クソッ!クソッ!クソッ! なのだ
もがく あばれる もがく あばれる
GAP、ギャップ、ぎゃっぷ、ぎゃろっぷ!
小学校のときの女教師が
背後の岸壁に立ち かそけき声で
おーい、おーい、と呼んでいます
とってもよい先生でした 厳しくて
先生の御指導のおかげで
わたしは作文コンクールに入賞しました
おーい、おーい、が背後から聞こえ続けています
毀れる毀れる毀れていくよ
からだじゅうの毛穴という毛穴から
湯気が出てきます
煮詰まった頭のなかで
あれ?
「頭をひねる」が「頭をよじる」になってしまった
あれ?
「臍で茶を沸かす」が「頭で茶を沸かす」になってしまった
あれ?
「牛乳は足が早い」が「牛乳は足が出る」になってしまった
あれ?
毀れる毀れる毀れていくよ
よじるよじれるよじれていくよ
いやだいやだいやだ
もどりたいもどりたいもどるもどりたいもどる
GAP、ギャップ、ぎゃっぷ、ぎゃろっぷ!
イタリア系の女教師は
とってもよい先生 ねっしんです
PC画面の奥の方
海峡の先の霧にかすんだ街灯のある岸壁で
仁王立ちしています
カモーン!カモーン!と太い腕を振り上げ
手をこまねいています
仁王立ちをしています
あれほど言ったじゃないの、
もう一度やり直してきなさい!
いやだいやだいやだ
もどりたいもどりたいもどりたい
GAP、ギャップ、ぎゃっぷ、ぎゃろっぷ!
Fossil(化石)、stubborn(頑固な)、
という単語が頭を走り抜ける
化石をなまものにもどすことはできますか
頑固な頭を柔らかくすることはできますか
2回もニホン式で書いちゃいました
3回目の書き直しの宿題です
いやだいやだいやだ
真冬なのにこの暑さは
あれ?
かんぜんに
「頭をよじる」
あれ?
かんぜんに
「頭で茶を沸かす」
あれ?
かんぜんに
「牛乳の足が出る」
あれ?
ニホンの場合、起→承→転→結
ここでは、結論→説明→結論
毀れる毀れる毀れていくよ
よじれるよじれるよじれていくよ
クソッ!クソッ!クソッ!
狂い出しそうだよ
あばれ出しそうだよ
クソッ!クソッ!クソッ!
……卵を割るとね
黄身の上にポツンと白いものがあるでしょ
あれが雛の原型
それは
はじめに心臓になり眼になり
黄身を養分にして
すこしずつ すこしずつ
育っていくのよ……
ギャップ、ぎゃろっぷ、ぎゃっぷ、ぎゃろっぷ
「頭がよじれる」あれ?
「頭で茶が沸く」あれ?
「牛乳が足を出す」あれ?
あれ?
お腹のあたりがむずむずします
ぷにゅっ、あれ? ぷにゅっ、
Fossil(化石)、stubborn(頑固な)、
化石はなまもの
頑固な頭は柔らかい
ぎゃろっぷ、ぎゃろっぷ、ぎゃろっぷ、ぎゃろっぷ!
あれ?
ひろがるひろがるひろがっていく
膨らむ膨らむ膨らんでいく
お腹の前に
ひろがる膨らむ
黄色い球形の
大海原
ぎゃろっぷ、ぎゃろっぷ、ぎゃろっぷ、ぎゃろっぷ!
啼いているよ
叫んでいるよ
黄色い球形の
大海原
昨日の
朝食はなに
だったか
ごはんと
しじみの味噌汁と
納豆と
ハタハタの干物と
漬物と
だったの
かな
今朝もハタハタの干物を食べた
冬の朝
子供の頃はいつもハタハタだった
朝は
ハタハタだった
ハタハタみたいなコトバが食べたいな