正月の歌

 

佐々木 眞

 
 

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西暦二〇一六年一月二日
鎌倉の在に親戚十七名が勢ぞろい
そのうち五人が小さな子供

うららかな光のどけきお庭の中で
臼と杵とでぺったんぺったんお餅付き
大人も子供もお餅付き

つきたてお餅をちょんぎって
あんころ餅ときな粉が出来る
黒胡麻、胡桃、大根おろしもどんどん出来る

みんなで作ったいろんなお餅を
みんなで食べる どんどん食べる
おしいいなあ 美味いなあ

あっという間に、お腹がいっぱい
今度は近所の明王院にお参りだあ
それからみんなで、独楽を回そう

大きな独楽を、ひもで回そう
でも、なかなかうまく回らない
出来ない人には若い住職さんが親切に教えてくれます

そのうちに独楽回しに飽きてしまったユウちゃんが
昔ながらの井戸とポンプに目をつけて
レンちゃんと一緒にピストンを押しはじめた。

ガッタン、ガッタン、ジャア、ジャア、ジャア
ガッタン、ガッタン、ジャア、ジャア、ジャア
たちまち流れる水、水、水 水、水、水

それ気付いたカナちゃんも
それに気付いたノンちゃん、アルちゃんも
子供全員ポンプに群がり

ガッタン、ガッタン、ジャア、ジャア、ジャア
ガッタン、ガッタン、ジャア、ジャア、ジャア
たちまち流れる水、水、水 水、水、水

しばらくするとユウちゃんが
「水、水、水屋でーす。水、水、水はいらんかねえ」
即席水売りになりました。

またしばらくするとレンちゃんが、
「水屋さん、もっとこっちに流してよ
もうちょっとで地面に象さんができるぞう」

ガッタン、ガッタン、ジャア、ジャア、ジャア
ガッタン、ガッタン、ジャア、ジャア、ジャア
たちまち出来たよ、お水の象さん

いつの間にやらほかの子供たちも加わって
ワアワアキャアキャア正月早々出初め式
お気の毒に住職さんも逃げ出しちゃった

これではいかん、いかん、まずい、まずい
このままでは、名跡明王院が水浸し
ここらで水入りレフリーストップ

悪童五名と現場を離脱
峠をめざして出発だあ!
太刀洗方面へ転進だあ!

意気揚々と進軍してると
あれに見ゆるは次郎じゃないか
愛犬太郎を亡くしたおばさんが、四年前から飼っている

次郎は震災地からやってきた可愛い柴犬
名付け親の私を見つけて
声にはならない声でWangWang吠えてる

私が撫でると、子供も撫でる
次郎はうっとり目を閉じる
「次郎、あったかいなあ」とユウちゃんがいう

両手をペロペロ舐められたレンちゃんは
「マコトさん、次郎がぼくの手を舐めてくれたよ」
と、うれしそう あ、うれしそう

一月二日の午後三時
お正月の陽が、ようやく傾く
どんどん どんどん 陽が落ちる。

エイ エイ オオ! 
エイ エイ オオ!
それゆけガキんちょ太刀洗

エイ エイ オオ! 
エイ エイ オオ! 
朝夷奈峠の頂上へ

 

 

 

fool 愚か者

 

この

正月には
海を

見てた
カモメたちが

並んで
佇っていた

それから
ヴァントの

ブルックナーの7番の

第2楽章を
なんども聴いた

ぽかぽかの海を見て
なぜ

引き裂かれるのか
わからない

ヴァントは
カモメや愚か者たちを包む泉だった