縄文語がいろんな民族語と語り合って日本語が。

 

鈴木志郎康

 

 

ちょ、
ちょ、
ちょ、
ちょっと、
ちょっと、
縄文人が使ってた
縄文語、
それが
原日本語だってさ。
その一音語って、
を緒や矢み箕ゐ井。
二音語
いとひもなはつなあみ。
そして、三音語に加えて、
助辞、助動辞の
三千年、四千年。
その原日本語が
新来の民族の持ち込んだ諸言語と
語りあったってさ、
そうして、
今の日本語が
出来たんだってさ。
藤井貞和さんが書いてるさあ。
頭の中に青空が、
スーッと広がるっす。
ひい、
ちょっと。

陽射しがめっきり春らしくなってきました。
藤井さん、
しばらくお会いしてないけど、
どういう日々を送っていられるか。
ひい、
ちょっと、
ひい、
ひい。

 

 

注:この詩は藤井貞和さんの「日本文学源流史」からの引用で出来てる。

 

 

 

引き出しを開ける

 

白鳥信也

 

 

引き出しを開ける
ファイルをかたまりごと机にあげる
たしかにここに入れていたはずだけど見つからない
ここでもない次のでもないその次にも別の引き出しを開けるファイルを出してパラパラとめくり探すタイトルを黙って読み上げる見慣れたタイトルが次々ととびこんでくるこれでもないそっちでもないたしかに言葉を精査して作成したはずだ抽象化したうえにいくつか意味を包含させた記憶がある引き出しの奥にはさまっていないかガサガサ音をたてて探すここでもない引き出しの下にも落ちていない周囲の人間がなにをしているんだという視線を放っている気がする身体がカッカしてくる集中しなくてはだけどみつからない別の引き出しにもないどこにはさんだのか思い出せないこんなときはラクダだゆっくりと安全に進むに限る書類戸棚だろうか割り当てられた棚の扉を開けてファイルを引き出してめくり探すここじゃないここにあるのは昨年度のものだここにあるはずがないロッカーだろうかいやあそこにあるのは分野が違うほんとうに書類を作ったのだろうかあやふやになってくるラクダのようにいななきたい存在しない書類を探しているんだろうかそんなはずはないそれとも夢だったのだろうか自分を信じられる信じられない書類はあるないほそくうすいすきまを記憶がはばたいて遠のいてゆくあらかじめうしなわれた書類をさがしているのか書類が僕をふりきってコーナーを曲がって姿を消す消える場所はアラビア半島だ汗が流れる喉が渇くここは砂漠だ手の中から砂のように書類がこぼれ落ちてゆく暑い汗がぽたぽた流れ落ちファイルの山ファイルからこぼれた書類がひろがってゆくここは砂丘の底だ熱い喉が渇く砂丘の脇の茶碗を手に取るとお茶はすでに消失している茶碗の底には逃げ水の跡がくっきり書類も逃げたのだ喉が無性に乾くとぎれとぎれの記憶の書類を探している蜃気楼のように書類の幻影がみえては逃げてゆく砂の山のなかから紙らしきものが急いで砂を掘り手にすると書きつけらしきものがあるけれどもどこか知らない国の象形文字のようなものが踊っているあたりはざらざらと砂粒がまいあがり熱風がふきつける遠くで砂塵がうねりながらこちらに向かっている砂嵐の予感がみちている