広瀬 勉
東京・杉並界隈。
鹿の頭が浮いてるよ。
鹿の頭しいが浮いてるよ。
しかのあたましいがういてるよ
あたましい鹿だなあ
頭が浮いてるよ。
東山連峰の修験道で
夜道を歩いていて、光る眼にぶつかった。
闇の中、ただただ棒で獣の頭を叩いた。
子どもだったのかもしれない。
繊い声を発して、消えていった。
わたしにも日常があり、
修行があり
呪文をとなえることもある。
オン、ソワカ
あ、魂。
グラナダの夜の のとうの、妹と
雨の庭の のにわの、兄と
塔(パゴダ)
のよるの、姉と
板の上で、クロード・ドビュッシーを奏する
板の上で、水面。
あたましい、水の平面が
ずっと左右に続いている。
鹿の子どもの頭は
均等に
同じ姿で
並んでいる。
みな元々は、悪の人だ。
空空空空空空空空空空空空空空空空(連作「暗譜の谷」のうち)