広瀬 勉
秋田・角館。
青い山を歩いている。
青い山は、翻って、逆さに屹立している。
青い山に、影がさしている。
黒々とした影に、光がさしている。
私の線路に、黒鋼の列車が走っていく。
私の線路の脇に、いい香りのするヨモギがそよいでいる。
私の線路に、誰か、首筋をのせて眠っている。
それが、影の中の光で、四角い隅が歪んでいる。
やわらかく無くなっていく。
やわらかな毛の生えた小さな動物が
やわらかく鳴いていた。
幼いころに、飼っていたごろごろする、誰か。
赤い山を歩いている。
手が焼けている。燃えている。灰になる。
足が、やわらかく萎えていく。ナマコ、軟体。
私は、拝む人になることもある。
拝む人は、私とは別の世で群れとなって
私の周囲を取り囲む。
別の世の、神も仏も信じられず
私は、カエルの真似をする。
カエルの膚の色が、わからない。見えない。
私は、拝む人たちに囲まれても、私の姿が見えない。
山の中で、コケの斜面で生きたことや、死んだことを
私は、私の帳面に記した。
拝む人たちの祭りであったと気づいて
私は、真水を飲んだ。
濁った水を吐いた。
それが澄んでいることを願ったのに。
黒い山を歩いている。
山が千切れていく。
隙間からさしてくるのは
別の光だった。