俺っち赤ん坊を抱いたの何年振りだっちゃ。

 

鈴木志郎康

 
 

みつききぬよよしみつつばさの
尻取り名前家族が、
俺っちの、
家にやって来たっちゃ。
義光ちゃん、三ヶ月と一日、
三月ちゃん、七年零ヶ月十三日、
翼さん、二十三年八ヶ月二十五日、
絹代さん、三十四年四ヶ月二十日、
麻里、六十六年五ヶ月と九日、
俺っち、八十一年十カ月と六日。
わーいわーい、
生きた日にちの数が部屋に溢れたっちゃ。
みんな、生きているっちゃ。
三ヶ月と一日の義光ちゃん、よっちゃん、
義光坊よ、
これから事故に合わず病気せず、
事件にも戦争にも巻き込まれずに、
九十、百まで、
長い長い月日を生き抜いくれっちゃ。
その時この世界はどんな世界っちゃあね。
俺っちはもういないっちゃ。
ホイホイ。

母親の絹代さんに抱かれた
義光くんは
喃語を口に、
父親の翼さんに渡されて、
俺っちの
この部屋の
テーブルの
椅子にちょこんと、
座らせられ、
王子様よろしく、
頭をぐるりと回したっちゃ。
可愛いねえ。
そして次に、
お父さんから、
俺っちに、手渡されたっちゃ。
おう、おう、
俺っちは、
何年振りかで、
赤ん坊を抱いたっちゃ。
重いっちゃ、
重い。
頬を指先で触って見た。
ウッホッホッ、
ウッホッホッ。
義光ちゃん、
義光坊、
どんどん大きくなれっちゃ。

義光ちゃんは
お母さんの胸に抱かれて、
両方の乳房からおっぱいを飲んで、
両腕の中で、
ゆるゆる揺られれて、
喃語をつぶやき、
眠っちまった。
満腹の至福に眠るって、
それが人が生きるってことっちゃ。
生き物ってことっちゃ。
おやおや、
俺っち、
赤ん坊を前に哲学かいな。
ウフフ、
ホイホイ。