長田典子
まな板のうえに
牛肉を ひろげる
側面に
どろっとした
血のかたまりが付いていた
見た 見てしまった
赤黒く
ひかる血液
下着に
親指くらいの
かたまりを見た
毎月ある
やがて子を宿すためのじゅんび
赤黒く ひかっていた
あのころ
惜しみなく
いのちの花火を上げていたのだった
あさの 教室で
からだじゅう
血の塊となって
こぶしをふりあげてきた
きみの 花火は
あをあをしく
まぶしくて
わたしは きみに
負けました
安政5年
広重の「両国花火」は ※
しみじみと
遠く
絵葉書となって
台所のカウンターに飾られている
毎月 見ないことにしていたから
わたしは分身をもたない主義です
から
血の塊のことは
すっかり忘れたことにして
牛肉をサイコロ型に切る
熱したフライパンに投げ込み
焼く
じゃ、 じゃ、 じゅっ、 ………
丸い玉のうちがわ
肉たちはわたしたちは
あしたの花火について
かまびすしく
談義している
※歌川広重の浮世絵『名所江戸百景』・「両国花火」より引用