正山千夏
液体セッケンの時代をへて
オーガニックでひとまわり
ふたたびかたちあるあのセッケンを
手に取る今日この頃です
小さくなったセッケンを
新しいセッケンの背中にくっつける
くりかえしくりかえし
うまくくっついて一体化してくれると
なんだかうれしいのです
思い出すと辛いことも
忘れてしまうとかなしい
けれどご心配なくそういうことは
落とせないひつこい汚れのように
あの頃は
どんな汚れだって落とせるものと
言葉は水のよう蛇口からあふれ
いや、それは熱い湯だったかもしれない
いま頃は
電車の中で腰掛けた腰が重い
人々はスマートフォンにおおいかぶさり
親指はめまぐるしく動いて
乗り換え通路を高速ですり抜けて行く
今日も
小さくなったセッケンを
新しいセッケンの背中にくっつける
くりかえしくりかえす寿命のリセット
やがて
古いセッケンはいつのまにか消え
ぴかぴかのまあたらしい人生が
ふたたび忘却を演出する
いまでは
落ちない汚れがある
のも知っている
セッケンの洗浄力というよりは
いや、それは落としたくないのかもしれない
一体化すると
なんだかうれしいのです
セッケンの白さも脆さも
まるであたしの骨のようで