多様性

 

長尾高弘

 
 

十一月の半ば頃だったかな、
いつもの散歩コースで
徳生公園の池のところを通ったらさ、
真ん中を除いて干上がっちゃってて驚いたよ。
池を壊しちゃうのかと思った。
でも、なんか工事現場のようなプレハブが作られていて、
そこを囲む壁に貼ってあった説明によると、
外来種の駆除のために池の水を抜いたけど、
丸々抜いたら在来種までやっつけちゃうので、
ちょっと残してある、
ってなことらしい。
テレビの撮影が来たってなことも書いてあった。
この辺はよくテレビドラマの撮影が来るので、
そこのところは驚きはしなかったけど、
ドラマの撮影と外来種の駆除に何の関係があるんだろう?
なんて思ってた。
まあ、さっきの説明、ちゃんと読んでなかったんだけど。
それから数日後、
息子が「池の水ぜんぶ抜く」って番組を見てたので、
いっしょに見たんだけど、
池の水を抜くと、
逃げ場を失った魚や水生動物はつかまえやすくなるわけね。
それで外来種を駆除するんだって言ってた。
外来種だからっていうと、
何やら排外主義めいてるけど、
餌を食べつくしたり、
繁殖力がやたらと強かったりして、
ほかの種類の生き物をやっつけちゃって、
生態系の多様性が失われるんでいけないってことらしい。
なんだか徳生公園の池でやってたのと話が似てる、
って思ってたら、
番組最後の正月特番の予告編で、
見覚えのある池が出てきたので驚いた。
徳生公園に来たテレビってのは、
これのことだったのか。
確かに縁日で売ってるミドリガメが捨てられてるらしく、
よく見かけるもんな。
甲羅干ししてて、
親亀の上に子亀が乗ってるところなんか、
面白いと思って写真に撮ったことがあるよ。
ときどき餌をやってる人がいるけど、
そういうときは獰猛な感じでガツガツ食ってるから、
生態系を破壊する悪者って言われたら納得できるな。
それから一か月ちょっと、
放送されるのを楽しみにしてたんだけど、
実際に放送されたのを見たら、
けっこうあっけない感じだったなあ。
ただ、今まで見たこともないくらい
たくさんの人が集まってたのには驚いたよ。
うちはちょっと離れてるけど、
池がある南山田の町内会では、
テレビが来るからいっしょに池の掃除をしよう、
みたいな回覧が回ったのかもしれない。
あのなかにはきっと、
ミドリガメを捨てちゃった人も混ざってるに違いないね。
で、ミドリガメはもちろん、
鯉(これも外来種なんだってさ)もみんないなくなり、
ブルーギルだ、ソウギョだといった
いかにも悪そうなやつも「駆除」したらしい。
確かに、池を見ても、もう亀も鯉もいなくて、
鴨だけが自由を謳歌してるよ。
亀だけは番組のなかで伊豆の動物園に移された、
って紹介されてて、
なんかちょっとほっとしたんだけど、
鯉は食っちゃったのかな。
十一月の番組では、アメリカザリガニを調理して、
うまいうまいって食べてたもんな。
それにしてもさ、
外来種が餌を食べ尽くして生態系を破壊するって話、
アメリカの圧力で旧大店法が廃止されて、
あちこちの個人商店や商店街が姿を消したのと似てない?
港北ニュータウンでも、
商店街のエリアが作ってあるのは、
みずきが丘みたいに早い時期に開発された地域だけで、
新しく開発された地域にはコンビニしかなかったりするよね。
さらにネット通販がやってきて、
本屋なんかだと大規模なものでもリアル商店は苦しそうだよ。
動物の生態系のことも大切だけど、
こうやって餌を食べつくすような感じで
人の仕事を奪っていくものの方が、
もっと大きな問題じゃないのかなあ。

 

(2018年1月25日~30日、都筑区民文化祭で掲示。亀の写真は文化祭までに見つけられず、水を半分抜いた池の写真だけ使った)

 

 

 

東京の雪

 

正山千夏

 
 

もしも想いが見えたなら
ガラスのコップに注いで
飲み干そう

それとも
冬のお布団に詰めて寒い朝
ぬくぬくとくるまって

太陽を背にして
思いっきり吹き出せば
虹になるかな

空に昇って冷やされて
落ちてきたら大雪だ
しんしんしんしん積もって

クルマや人に蹴荒らされ
黒くなって溶けたと思ったら
またカチンコチンに凍って

私はその上ですってんころりん

 

 

 

あたりいちめんのしろは

 

ヒヨコブタ

 
 

寒波が数十年ぶりだと
積もり始めた日の朝には儚さを思い
午後にはこれは長引くと
ラッシュのころ報道されなくなっているばしょで
何が起きているか
その感覚はあの日のおそれにも似て

数日融けぬ雪が氷となり
すれ違う幼女は
なんでずっととけないの? と母親に

わたしに子がいたらなにを言いなんと答えたらう
そのぶぶんは雪より冷たい
こころのなかで雪よりも氷よりも

けれども雪はほんとうは降るほどにあたたかなのを
わたしは知っているから
そう半分じぶんを騙すように
笑わずに

 

 

 

ぎが

 

夜中に目覚めた

それで
朝になった

おじさんは
朝にはなるんだね

ぎがを
聴いてた

知久寿焼さんの歌うぎがを聴いてた

金色の髪の毛のぎが
10回払いで買ったぎが

おじさんは
会社辞めます

三月に会社をやめて詩人になります

お金のために働いた
のでなかった

きみたちのためにも働いた

 

 

 

のっぺり四角いものがだんだんと

 

辻 和人

 
 

のっぺり、のっぺり、のっぺり、したものが
四角く、四角く、四角く、
だん、だん、だん

降りている
伊勢原の実家近くの県営団地ですよ
ミヤミヤと年始の挨拶に行く途中
八幡様で今年の無事を祈願した後
のっぺり
現れた

ああ、これ
ぼくが小学生の時にできたんだよ
ぴっかぴかだったなあ
まあたらしいコンクリートの無臭がぷんぷんきてね
ほら、一軒家って何となく臭いがあるじゃん
そいつが全然なくってさ
スッ、スッ、スッ

段々畑みたいな坂をかっこよく降りてた
もう名前忘れちゃったけど
友達の1人がこの団地の4階に住んでたんだよ
階段の硬さがかっこいい
ちょっと息が切れるけど高いところまで昇るってもかっこいい
部屋の感じも四角くってかっこいい
胸にズキッとくる
四角の力だ
ぼくは新築の一軒家に住んでたんだけど
こんなところに住めたらなあ
高い窓からの眺めはいいなあ

それが何とまあ、今は
のっぺり、のっぺり、のっぺり
コンクリートって年を取るんだよね
四角は相変わらずだけど
線の縁がね
ボロ、ボロ、ボロ、ってくるんだ
名前忘れたあいつの家族、まだここに住んでんのかなあ
エレベーターないから部屋に辿り着くのも大変だ

実家への道を歩きながらミヤミヤに
「さっき通った団地、小さい頃は新しくてすごくかっこよかったんだよ。」って言ったら
「70年代頃に建てられたんだね。ウチの近くの団地もあんな感じじゃない。」
そういやそうだ
広くて緑の多い敷地に余裕たっぷりに配置された白くて四角い建物群
スーパーも郵便局も保育園も公園もある
若い夫婦が入居して
赤ちゃんの泣き声がいっぱいで
夕方になると「〇〇ちゃん、もうご飯よ。」なんて声がいっぱい
だったんだろうなあ
けど今は
のっぺり、のっぺり、のっぺり
杖をついて歩く人がいっぱい
残業を終えて10時頃通りがかると
しぃーん
灯りがついている部屋の方が少ない
「住居は福祉」という幟が立ってるから
もしかしたら建て替えの話が出てるのかもしれない

小さい時、テレビを見てて
怪獣が発した火の玉を受けてウルトラマンが勢いよく倒れこんだ先が
こんな団地だったなあ
四角く、四角く、四角く
くっそー
怒ったウルトラマンがL字型に腕を組んで光線を放つと
お見事! 怪獣は木っ端微塵だ
さて
幼いぼくがこの快感を得るために
スッ、スッ、スッ

四角く並んだ団地は絶対必要なものだったね
団地ってさ
豊かさの象徴、安定の象徴、新しい時代の象徴
かっこいいの象徴
そいつをぶち壊されたんじゃたまらない
ウルトラマン、頑張れーっ
やっつけろーっ

のっぺり、のっぺり、のっぺり、したものが
四角く、四角く、四角く、
だん、だん、だん

降りていっちゃった
実家が近くなるってことは団地が遠くなるってことだ
野菜畑の中の細い道を歩く
カラスがカーカー鳴いて、富士山がご機嫌な姿見せてる
ここからの光景、昔から全然変わんない
けど
まあ多分ぼくが気づかないだけだろう
スッ、スッ、スッ

のっぺり、のっぺり、のっぺり
になっていったように
カーカー&富士山、も
だん、だん、だん、と
変わっていってる
長い間独りだったぼくも
ミヤミヤという伴侶を見つけて
変わっていったさ
実家もいつまで実家でいられるかわかんないぞ
それでも着いたらみんなに新年の挨拶だぞ
おせちとお雑煮が楽しみだぞ
のっぺり、のっぺり、のっぺり、したものが
四角く、四角く、四角く、
だん、だん、だん、と
続いていくんだぞ

 

 

 

浜辺にて

 

おじさんに友はいた

だが
おじさんは

友をあてにする

わけには
いかない

真理も
普遍性も

あまりあてにできない

浜辺で
海をみてたりする

うぬぼれでもない
ロマンチックでもない

この波だった

きみのためではない
わたしのためでもない

ポリフォニーのなかにいた