木々たちのように

 

正山千夏

 
 

サクラ咲く
環八のきわ
ごうごうなるクルマ
ざわざわざわめく
固い心臓
に刺さる小さなとげは
不思議な殻に包まれて眠る
(漫画「ブラック・ジャック」に
空0似たような話があったっけ)

いま、この瞬間
私は大丈夫だ
けれど
この今を積み重ねていけば
私の人生は大丈夫なのか

四つ葉のクローバーの声は聞こえない
私の自転車はゆっくりと走る
動体視力のすぐれたカラスのバクダンは
けれど今回はわずかに早く着弾し
自転車の前カゴへ落ちた
三つ葉のクローバーで拭き取った

華々しく咲くサクラを尻目に
馴れ馴れしくて敬遠していた
サルスベリの木にすがって
見失った目標を探している
夏に咲く花だから
つぼみさえまだ枝のなか

あの大きなモミの木は昔
川沿いの電話ボックスの横にいた
何十年も先の未来への
タイムマシーンではないけれど
あの電話ボックスに入って
受話器を取ってみたら
今の母の声が聞こえた

いま、この瞬間
私は大丈夫だ
木々たちのように
根を張る土壌に
たっぷりの雨がしみこんだ

 

 

 

DAYS / チーズ

 

長田典子

 
 

朝。儀式のような目覚めが繰り返される。

生まれ育った家の布団の中で頭だけ目覚める。目をつぶっている間は気が付かない。ここが、そこからとても遠いところだなんて。目を開ける前の一瞬に、聞きなれい外国の言葉が突然聞こえて、ああ自分はここにいたのかと知る。妙な胸苦しさに覆われながら目を開ける。

その日の課題はお互いの家族の歴史について話しあうことだった。わたしたちは、予め調べておいた家族のルーツや伝えられた言葉や家族の宝物を発表しあっていた。ときどき笑ったり不思議に思ったりしながら。そして、それぞれの家族の運命がそれぞれの国の運命ときっちり重なっているのに気がついて悲しくなったりもした。

時々みんなで遠くまで旅行した。すれ違うこともあって喧嘩をした。たとえば、割り勘の仕方ひとつにしても、それぞれの流儀があったから。いきあたりばったりで、なんの計画もなく、ふざけながら歩いたり、肩を組んで歩く恋人同士の後ろから、キース!キース!と言ってからかったり、意味もなく追いかけっこをしたりした。草の上に落ちていた汚いボールを蹴りあってどこまで続くか競争したりもした。ときどき政府御用達のばかでかいヘリコプターが上空を隊列を組んで飛ぶのを見上げて、どれだけ自分たちが遠い国に来ているのか思いをめぐらした。

イスタンブールで育ったという西洋人の顔をした男は、目の淵に太く濃いアイラインを引く黒い髪の女の耳元で愛しているとささやき、黒い髪の女の手を引っぱって、スーパーマーケットの中に消えていった。たぶん二人は陳列棚の間で抱き合って激しくキスをかわしていたんだろう。だけど誰も気にせず口にもしなかった。昼下がりのコーヒーショップのテラスに座り、ブルドッグやシェパードを連れて散歩をする人たちをぼんやり眺めたり、菫色の空を流れる雲を見ていた。そんなふうにして二人が戻るのを待っていた。

帰宅時、アパートのエントランスに入ると、チーズ、ケチャップ、オリーブオイル、黒胡椒なんかが過剰に入り混じった匂いがアパート中に染みついていると感じる。夕食時は、毎日きついチーズの匂いが換気扇を通じてどこからともなく漂ってきて食べる前から胃が痛くなりそうだ。醤油や味噌の匂いがドアの隙間から外に染みだしていくこともあるのだろうが、わたしもいつのまにか手に入りやすいトマトソースやチーズにスパゲッティを絡めて食べるようになる。

 

 

※本作品は2011年同人詩誌「ひょうたん」に発表した作品を大幅に改稿した。

 

 

 

レンチンほどの時間でゆださったよ、桜

 

ヒヨコブタ

 
 

どうにもこうにもならなくて
出された指示は

キュウソクヲシテイラッシャイ

やわらかなひとたちの声に眠ったまますとん、と入ったばしょ

時間はわずかだという
まだ日も経っていないよという
そういう方もいらっしゃいます、大丈夫と笑顔を見る

サクラガマンカイ

うそだと思ったのか思いたかったか
桜は苦手だよきょねんは悲しい見送る桜かと思ったばかり

ぐんぐん日の出で明るくなるごとに
ぐんぐん花見がしたいという声をうけるごとに
目の前がもったいないこぼれそうな桜

桜がほんとうにうれしいと
思ったことがうれしくて
自然とゆでられたわたしが
ほくほくがおで
また今朝も桜みてる

 

 

 

なむあみだぶつサーカス

あるいは今井義行著「Meeting Of The Soul(たましい、し、あわせ)」を読みて歌える

 

佐々木 眞

 

 

野比のび太
ああ面白かった!
久しぶりに心が自由になって、外へも、内へものびのびと広がっていくような不思議な現代詩を読んだな。

源静香
自由な詩だというのは、分かるけど、「外へも、内へも」というのは?

のび太
なんかさあ、能の「羽衣」を見物しているような気分。
「♪東遊びの数々にー」の謡に合わせて、漁師から羽衣を返してもらった天女が、嬉しくなって三保の松原で踊ると、漁師だけじゃなくて、私たちの心まで晴れ晴れとしていって、最後に天女は、富士の高嶺の果てに消えてゆく。
そんな広大無辺の精神世界を、詩が「花粉を舞わせながら」、霞のように、昔風に言うとエーテルのように、舞っているような気がしたんだ。

源静香
へえー、よく分かんないけど、わたしは、世知辛いこの世の中をなんとか生き延びながら、「地球が突然垂れ下がろうとも」、一篇の詩を命がけで紡いでいる鶴。暮らしと「友愛」のために、身を粉にして織物を紡ぎながら、気宇壮大な「東遊び」を楽しんでいるボーダーレス、ジェンダーレスの一羽の「つう」が飛んでいるんだ、ということは分かったわ。

ドラエもん
分かったずら。「夕鶴」、ね。

のび太
その「夕鶴」っていう名詞ひとつが、まごうかたなき詩である、と「あまでうす」という人がさかんに主張しているんだけど、誰か知ってる?

イクラ
パブーン。

静香
でもこの今井さんて人、詩の言葉の構成、発芽と生成過程、遊び方も独特のものがあるけど、それだけじゃなくて、無機的になりがちな散文の美しいこと!
単なる自伝的文章とか考察が詩に化ける、なんて、ちょっとすごくない?

ドラエもん
毎朝4時に起きてPCに向い、点滅する最初の一字、最初の一行、「輝珠」から、世界が、詩的宇宙が切り開かれていくなんて、なんかぼくの「どこでもドア」みたい。親しみが持てるなあ。

のび太
きみの「どこでもドア」なら、多くの詩人が羨ましがっていると思うよ。
問題は、「どこでもドア」を開いた後だ。その一字、その一行をどうやって次の一字、次の一行につなげていくかということなんだけど、この詩人は、その連続的な軽業を、まるでサーカスのブランコ乗りのように、(少なくとも傍目には)いともたやすく自由自在にやってのけるんだ。

ドラエもん
天才じゃん。ぼくの「4次元ポケット」みたいずら。
サーカスの天才、ぼく、超うらやま。

のび太
「なみあみだぶつサーカス」、てんだけど、聞いたことない?

イクラ
パブーン。

静香
初耳だけど、不思議な響きね。詩になりそう。

のび太
この「なむあみだぶつサーカス」の最大のウリはなにか、きみたち知ってるかい?

ドラエもん
なに? なに? 教えて! 教えて!

のび太
鉄製の円球の中に閉じ込められたオートバイがね、エンジンを最大限にふかしながら、大音声を上げて、球形の内部をぐるぐる回る。
何度も何度も全速力で回るもんだから、ドラーバーの頭の中も、ぐるぐるぐるぐる全速力で回転し、見物しているわれわれの脳味噌も、心拍も、身魂さえも紅蓮の烈のように燃えたぎって、尋常ならざる異世界へぶっ飛ばされてしまう。なむあみだぶつ なむあみだぶつ。
そして気が付くと、狂気のように回転し続けていたオートバイは、ドライバーもろともいつのまにか跡形もなく消え去り、サーカスのテントのてっぺんからはスーパームーンがぬっと顔をのぞかせているんだって。

静香
なんか面白そうね。

のび太
うん。一度のぞいてみたら。

ドラエもん
あした行ってみるずら。
なむあみだぶつ なむあみだぶつ なむあみだぶつ なむあみだぶつ

 

 

 

お掃除ロボがやって来た!

 

辻 和人

 
 

ちょぽちょぽ
水撒いて
首をフリッフリッ
前進して
フッキフッキ
いったん止まって
首をフリッフリッ
またスーッと前進して
ちょぽちょぽ

家にお掃除ロボがやって来た!
「クレジットカードのポイント溜まってたから思い切って交換してみたの。」
掃除機は毎週かけるけど拭き掃除まではちょっと億劫
それを問題視したミヤミヤが最新のテクノロジーに目をつけた
「説明書読んで使い方覚えておいてね。」
バッテリー入れて
紙パッドはめて
水さして
ボタン押して
「ラシドレミファ♪」
甲高いトーンで短音階を途中まで奏で
グリーンの光、瞬いた
ちょぽちょぽ
フッキフッキ
動いたぞ

こりゃあ便利
縦15センチ横15センチの角っこ丸い正方形
シンプル極まりない姿だけど
結構きれいになるもんだな
単純に直進しないで
フリッフリッ
頭を20度くらい傾けて
行きつ戻りつお掃除するのがミソ
ちゃあんと進むべき空間を認識してから動くんだ
掃除機との違いはここだな
人間に代わってこなす
「認識」っていうお仕事

あれれ、壁にぶつかった
立ち止まった
ちょっと考えて
キーッ
急旋回
進路を変えて
何事もなかったかのように
フッキフッキ
お見事お見事
止まって考える
そのちょっと困ったような姿がたまらない

お、そろそろぼくが座ってる机の近くだ
机を移動させるのはやめてどんな動きをするのか見てやろう
脚にぶつかったお掃除ロボ
しばし静止
「CLEAN」の文字がピカピカ点滅
うん、止まってるけど休んでるんじゃない
これ、「認識」っていうお仕事をしてますってポーズなんだ
キーッ
方向転換して
フッキフッキ
そのまま直進と思いきや
また戻ってくるぞ
脚の周りをぐるっと回って
もう1つの脚にぶつかった
しばし静止
「CLEAN」がピカピカ
どうやら障害物の位置と形状を把握したみたい
ちょぽちょぽ
水撒いて
フッキフッキ
それから壁まで行ってぶつかってまた戻ってきたりを
ジグザク繰り返し
机の下のスペースは
すっかりって程じゃないけどだいたいきれいになった
まどろっこしく見えるけど
決して休まない
この調子だとあと15分くらいで完了だな
ヤッホー
紅茶でも飲むか

お掃除ロボの何がすごいって
立ち止まって「CLEAN」をピカピカさせながら考えるトコ
迷うことができるってすごいね
試行錯誤できるってすごいね
廉価な君だから
高性能のお仲間たちみたいにはいかないかもしれないけど
この調子だとあと10年くらいで
史上最年少で6段に昇段した藤井聡太さんと将棋を指せるくらいになるかな
難しい局面では
「CLEAN」をピカピカさせながら長考だ
あーでもない
こーでもない
おっ、いい手思いついた
フリッフリッ
頭を20度くらい傾けて
香車を金の真ん前に打つ
うーんと藤井聡太6段が唸った時
あ、お湯沸いた

ティーバッグを引き出す
わぁ、いい香り
ひと口啜って
そうだ、お掃除ロボ
紅茶を味わう
そんなこともできるようになるかな
自分で味を「認識」するんだよ
渋みがある、フルーティー、ちょっとスパイシー
そんな分類するような判断じゃなくてね
「体の芯からほっとリラックスします。」
「コクがあって元気がモリモリ湧いてくるようです。」
お掃除ロボ自身が「じっくりと味わって認識」するんだ
つまりロボットが生産を担うだけでなく
消費も楽しむ
それこそ科学技術の進歩じゃないか

詩も書けるようになるかもよ
誰かが上手にプログラミングしたみたいな詩じゃなくてさ

今日はキッチン周りをお掃除
床を滑る私を迎えてくれたのは
小さな油の池、池、池
私のフッキフッキをぷかぷか潜り抜けていく
かずとん、かずとん
料理する時はもっと気をつけて

なんて
「自分の体験を顧みた認識」をする内容だったらいいなあ
お掃除ロボに詩で注意されるなんて
考えただけでゾクゾクする

でもって一緒に合評会できるかな
ぼくが書いた詩を読んで
感動の余り
ちょぽちょぽ
フリッフリッ
フッキフッキ
故障したわけでもないのに
「思わず」
床をお掃除しちゃったら
こりゃすごいよね
ロボットにおける「認識」の概念が広がるよなあ

ちょぽちょぽ
水撒いて
首をフリッフリッ
前進して
フッキフッキ
いったん止まって
困って
迷って
試行錯誤
そうさ
ぼくも
いまだ奮闘中のお掃除ロボに負けないように頑張るぞ
ミヤミヤに言いつけられたもう1つのミッションである
お洗濯
このシャツ、「乾燥する」モードかなあ、「乾燥しない」モードかなあ
「CLEAN」をピカピカさせながら
困って
迷って
取りかかるのさ

 

 

 

豊穣なモノクローム

 

狩野雅之

 
 
あの夜の月はとても明るかった 真夜中あたりだったろうか あるいは もう未明に近かったろうか あまりの明るさにふと目を覚まして それが月明かりだと知ってとてもおどろいた カメラを持った腕を窓枠に固定して撮ったことを覚えている そのとき外気温は氷点下20°C近かったように思う 吐いた息がエクトプラズマのように漂うので 写り込まぬよう 息を止めてシャッターを切った そんな時々に撮りためた写真たち

 


MIDNIGHT MOON
DSC00423-C17

 


ONE SPRING DAY
DSC00590-C16

 


THE SPRING SNOW
DSC00616-C14

 


NEVER LET ME DOWN
DSCF1967-Edit-2-3

 


SPRING HAS COME
DSC00576-C13

 


A TABLE IN THE SPRING LIGHTS
DSC00435-C12

 


A TABLE AND CHAIRS IN THE SPRING LIGHTS
DSC00253FP3

 


THE LAST ICICLES IN THE SPRING
DSC00307-Edit-7