お掃除ロボがやって来た!

 

辻 和人

 
 

ちょぽちょぽ
水撒いて
首をフリッフリッ
前進して
フッキフッキ
いったん止まって
首をフリッフリッ
またスーッと前進して
ちょぽちょぽ

家にお掃除ロボがやって来た!
「クレジットカードのポイント溜まってたから思い切って交換してみたの。」
掃除機は毎週かけるけど拭き掃除まではちょっと億劫
それを問題視したミヤミヤが最新のテクノロジーに目をつけた
「説明書読んで使い方覚えておいてね。」
バッテリー入れて
紙パッドはめて
水さして
ボタン押して
「ラシドレミファ♪」
甲高いトーンで短音階を途中まで奏で
グリーンの光、瞬いた
ちょぽちょぽ
フッキフッキ
動いたぞ

こりゃあ便利
縦15センチ横15センチの角っこ丸い正方形
シンプル極まりない姿だけど
結構きれいになるもんだな
単純に直進しないで
フリッフリッ
頭を20度くらい傾けて
行きつ戻りつお掃除するのがミソ
ちゃあんと進むべき空間を認識してから動くんだ
掃除機との違いはここだな
人間に代わってこなす
「認識」っていうお仕事

あれれ、壁にぶつかった
立ち止まった
ちょっと考えて
キーッ
急旋回
進路を変えて
何事もなかったかのように
フッキフッキ
お見事お見事
止まって考える
そのちょっと困ったような姿がたまらない

お、そろそろぼくが座ってる机の近くだ
机を移動させるのはやめてどんな動きをするのか見てやろう
脚にぶつかったお掃除ロボ
しばし静止
「CLEAN」の文字がピカピカ点滅
うん、止まってるけど休んでるんじゃない
これ、「認識」っていうお仕事をしてますってポーズなんだ
キーッ
方向転換して
フッキフッキ
そのまま直進と思いきや
また戻ってくるぞ
脚の周りをぐるっと回って
もう1つの脚にぶつかった
しばし静止
「CLEAN」がピカピカ
どうやら障害物の位置と形状を把握したみたい
ちょぽちょぽ
水撒いて
フッキフッキ
それから壁まで行ってぶつかってまた戻ってきたりを
ジグザク繰り返し
机の下のスペースは
すっかりって程じゃないけどだいたいきれいになった
まどろっこしく見えるけど
決して休まない
この調子だとあと15分くらいで完了だな
ヤッホー
紅茶でも飲むか

お掃除ロボの何がすごいって
立ち止まって「CLEAN」をピカピカさせながら考えるトコ
迷うことができるってすごいね
試行錯誤できるってすごいね
廉価な君だから
高性能のお仲間たちみたいにはいかないかもしれないけど
この調子だとあと10年くらいで
史上最年少で6段に昇段した藤井聡太さんと将棋を指せるくらいになるかな
難しい局面では
「CLEAN」をピカピカさせながら長考だ
あーでもない
こーでもない
おっ、いい手思いついた
フリッフリッ
頭を20度くらい傾けて
香車を金の真ん前に打つ
うーんと藤井聡太6段が唸った時
あ、お湯沸いた

ティーバッグを引き出す
わぁ、いい香り
ひと口啜って
そうだ、お掃除ロボ
紅茶を味わう
そんなこともできるようになるかな
自分で味を「認識」するんだよ
渋みがある、フルーティー、ちょっとスパイシー
そんな分類するような判断じゃなくてね
「体の芯からほっとリラックスします。」
「コクがあって元気がモリモリ湧いてくるようです。」
お掃除ロボ自身が「じっくりと味わって認識」するんだ
つまりロボットが生産を担うだけでなく
消費も楽しむ
それこそ科学技術の進歩じゃないか

詩も書けるようになるかもよ
誰かが上手にプログラミングしたみたいな詩じゃなくてさ

今日はキッチン周りをお掃除
床を滑る私を迎えてくれたのは
小さな油の池、池、池
私のフッキフッキをぷかぷか潜り抜けていく
かずとん、かずとん
料理する時はもっと気をつけて

なんて
「自分の体験を顧みた認識」をする内容だったらいいなあ
お掃除ロボに詩で注意されるなんて
考えただけでゾクゾクする

でもって一緒に合評会できるかな
ぼくが書いた詩を読んで
感動の余り
ちょぽちょぽ
フリッフリッ
フッキフッキ
故障したわけでもないのに
「思わず」
床をお掃除しちゃったら
こりゃすごいよね
ロボットにおける「認識」の概念が広がるよなあ

ちょぽちょぽ
水撒いて
首をフリッフリッ
前進して
フッキフッキ
いったん止まって
困って
迷って
試行錯誤
そうさ
ぼくも
いまだ奮闘中のお掃除ロボに負けないように頑張るぞ
ミヤミヤに言いつけられたもう1つのミッションである
お洗濯
このシャツ、「乾燥する」モードかなあ、「乾燥しない」モードかなあ
「CLEAN」をピカピカさせながら
困って
迷って
取りかかるのさ