由良川狂詩曲~連載第22回

第7章 由良川漁族大戦争~くたばれ悪党!

 

佐々木 眞

 
 

 

戦いの火蓋が切られて、はや1時間。
さしも若さとスピード、そして美貌を誇る若鮎特攻隊も、多勢に無勢、すでに隊員の半分を失ってしまいました。

これ以上の戦闘は無意味、と判断したケンちゃんは、さびたナイフを振って若鮎たちを自分のまわりに集め、かねて用意の第2作戦に突入しました。

まず生き残った250匹の若鮎たちを、再びライギョ軍団の最前線に配置し、さんざんミニスカートで挑発して、ライギョおじさんたちの突撃を右に左にいなしておいてから、全速力で下流に向います。

そして、あと2メートル、あと1メートルで、今朝ケンちゃんが一生懸命に張っておいた漁網にたどりつくというギリギリのところで、取り舵いっぱい!
ケンチャンは若鮎特攻隊と一緒に左折して、柳の木の根方に緊急避難し、アユたちを先導しながら、漁網の少しまくれたところから、例の地下の大広間へとこっそり逃げたのでした。

雷魚ハルマゲドン
「くそお、ケンめ! アユめ! いったいどこへ消えやがったんだ。おれたちをサンザンおちょくりやがって。ちくしょう、1匹だって逃すもんか」
雷魚タイフーン
「おい,兄弟。あれは何だ? 何なんだ!」

ハルマゲドンとタイフーンの前方に、なんだか怪しい水煙が見えます。
それは昨夜の打ち合わせ通り、準備万端てぐすねひいて待ち伏せしていた、由良川じゅうのすべての淡水魚たちとその同盟軍でした。

少し具体的に書き記せば、その構成メンバーとは、以下の通りです。

ハヤ70648匹、アユカケ452匹、イワナ25匹、ウグイ9589匹、アカザ715匹、ムギツク514匹、オヤニラミ17匹、カマズカ569匹、ドンコ5789匹、カワムツ3657匹、オイカワ2679匹、フナ6459匹、コイ3685匹、スナヤツメ25匹、カワヤツメ16匹、アユ715匹、ヤマメ98匹、モロコ8671匹、ニゴイ578匹、ウグイ258匹、ドジョウ1023匹、シマドジョウ124匹、ホトケドジョウ269匹、モツゴ498匹、ワカサギ534匹、ナマズ867匹、ギギ558匹、ウナギ1364匹、オオウナギ268匹、タウナギ25匹、メダカ9046匹、ヨシノボリ6245匹、カジカ502匹などなどの総勢に、無数のトビケラ、カワゲラ、カゲロウ、ヤゴ、カメ、ミズカマキリ、イモリ、スッポン、カエル、カジカ、カワエビ、カニ、タガメ、タイコウチ、モクズガニ、ミズスマシ、マツモムシ、ゲンゴロウ、アメンボウ、ガガンボ、タニシ、カワニナたちを加えた全由良川防衛軍の面々たちが、時速60キロで殺到するライギョたちに向って、大胆不敵に陣営を組んで勢ぞろいしたかと思うと、三三五五次のような歌を、大声でうたいはじめました。

夕空晴れたら 秋風吹いた
ごはんがたけたら 晩めしたべよ

ごはんのおかずは ライギョの天ぷら
天ぷら食べたら パンツを脱ぐよ

パンツを脱いだら ポコチン出るよ
ポコチン出たら ションベンするよ

ションベンしたなら 水びたしだよ
水が出たなら ライギョがよろこぶ

お前がほんとの ライギョなら
雨ふりどしゃ降り かみなり鳴らせ

お前がにせもの ライギョなら
ドクダミつんで お茶飲まそ

そらそらおいで ここまでおいで
鬼さんこちら 手の鳴るほうへ

そらそらおいで ここまでおいで
大陸生まれの らんぼうライギョ

それを聴いて、怒り心頭に発したライギョたち。
いつのまのやら姿を消したケンちゃんや若鮎特攻隊のことなどすっかり忘れて、目の前でヤンヤ、ヤンヤと口々にはやし立てるもろもろの魚たちに向って、歯槽膿漏の臭い息を吹きかけ吐きかけ、大きな口をさらに大きくひらいて、ものすごく長い背びれをまるでトビウオのようにバタバタと上下動させながらもんどり打って、なだれのように襲いかかったからたまりません。

ライギョたちと由良川の魚たちとの間に、ひそかに張り巡らされていたネットのために、総勢216匹のライギョ軍団は、全員しっかりからめとられて、もはや身動きひとつできなくなってしまいました。

一網打尽とは、このことです。
しかも彼らは普通の魚と違って空気呼吸が必要なために、時間が経つに従ってアップアップ。その日の夕方までには、全員があっけなく息絶えてしまいました。

 

 

つづく