スモークサーモンは煙だらけ

 

正山千夏

 
 

ケムリにまかれたあたまは
重くゆれるぐるぐるまわる
シラフだというのに
柱にあたまをぶつけ
扉にあたまをぶつけ
不躾な肉体持て余す

ただひたすらケムリにいぶされた
肉体なぶりたいhold me tight tonight
骨と皮は乾燥
可哀想なお年頃
落とし所探してさまよう
毎日の台所で刻む包丁のビートが

顔に刻むシワ
一方脳みそのシワは伸びてく一方
アルツハイマー若年性痴呆
恐れながらもあいつは今
どうしているんだろう
かすかな記憶とぬくもりにすがり

現実に翻弄されっぱなしの人生
とめどなくあふれるネガティブ思考
ケムにまくため巻き続けるジョイン
情と愛情のあいだのJOY
噛みしめることのできる中年の
顎と歯も大分いぶされ茶色く着色

Ah こんなスモークサーモンでも
山を越えて川を遡上り帰って来る場所がある
肉体なぶりたいhold me tight tonight
クマと戦い尽くすまで
目の下のクマ
アイクリームでは消えないママ
パパ髪振り乱し通勤電車の刻むビート

スモークサーモンは煙(けむ)だらけ
うまみ通り越しやばみ
骨と皮は乾燥
人生という名のマラソンを完走
してみたいお年頃
ないゴール探してさまよう
鮭の腹は空洞

 

 

 

oppekepey!な日々に

 

ヒヨコブタ

 
 

あらゆることの悲しみが理不尽に近いなら
それらすべて
oppekepey! とおきかえてしまおうか
ことばのひびきだけに頼ってみるとする

はて
oppekepey! という単語が存在するか
わたしは知らないのだ
それに近い日本語があるらしいことは知りながらね

疲れたなあ、ほんとうにoppekepey!ばっかりだ
それでいい
悪口ばかり拾うときはoppekepey!とつぶやいて
にっこりしてしまえ

たいへんにとてもとにもかくにもめちゃくちゃに疲れはてたのだ
今夜からしばらくはoppekepey! を眠り落ちるまで羊がわりにとなえて眠ろう

いろんな理不尽にもかなしみにも
さみしさにもお守りがわりに
oppekepey!

 

 

 

発酵

 

昨日
マヘルを聴きに

甲府にきた

山々のあいだをぬって
電車できた

葡萄の
発酵が終わった後には

音楽が聴きたくなるのだという

発酵には
酸素がいらないのだと

微生物たちが
酸素なしで

発酵させるのだという

ぷちぷち
いう

発酵の
音を聴いた

酸素も愛もいらない

そこにいる