みわ はるか
きれいなものを見た。
ものすごく久しぶりに美しいものを見た。
美容院の帰りに本屋に寄った。
以前より友人から薦められていた本を探すためだ。
わたしの要領が悪いのか、その本はなかなか見つからなかった。
書店員の人はみんな忙しそうに動き回っていたので話しかけるのが憚られたが尋ねることにした。
その少女は高校生くらいだろうか。
既定だと思われる白のブラウスに黒のパンツ、その上から緑色のエプロンをつけていた。
しゃがみこんで段ボールからたくさんの本を出し入れしていた。
黒い長いつやつやした髪をポニーテールできちんと束ねた後姿は清楚な印象だった。
「すいません、○○さんの本がどうしても見つからなくて。探してもらいたいのですが。」
わたしは遠慮がちに声をかけた。
すぐにくるっとわたしの方を振り返った少女はまっすぐにわたしの目を見て、
「はい、お探しいたします。少々お待ちいただけますか?」
はっきりとした口調で、嫌なそぶりも全く見せず快く引き受けてくれた。
その時見た彼女の瞳は本当に本当に美しかった。
こんな目をした人を最後に見たのはどれくらい前だろう。
思い出せなかった。
一生懸命な目だった。
わたしの力になろうとしてくれた心からの瞳だった。
黒くくりっとしていてきらきらしたどこか透き通るようなそんな印象だった。
立ち上がった彼女は思いのほか背が高くすたすたすたと歩きだした。
白のブラウスはきちんとアイロンがかけてあるのだろう。
清潔感があった。
さすが書店員さんである。
ものすごく早くその本は見つかった。
「お待たせしました。お探しの本はこの辺りになります。」
はにかんだ笑顔で案内してくれた。
笑うと人の目は欠けた月のようになるけれど、それはそれで可愛らしかった。
任務を終えた彼女はまたすたすたすたと仕事に戻って行った。
なんて気分のいい瞬間になったことだろう。
寒い雪の降る外出先から家に帰って、温かい紅茶を飲んだ時のような気分だった。
色んな瞳がある。
幸せな瞳、威圧感のある瞳、敵視している瞳、攻撃的な瞳、めんどくさそうな瞳、絶望している瞳。
目は口ほどに物を言うと言うけれど本当だなと感じる。
また彼女のような美しい瞳を持った人に出会いたいなと思う。
自分もそうなれるようになれたらなとも思う。
雪がちらちらと舞っていたそんな昼下がりの話。