塔島ひろみ
また失敗をしてしまった
先生なのに失敗をし
先生なのに怒られている
もっと偉い先生に怒られている
教室で、生徒の前でもよく怒られるが
今日は職員室で怒られている
偉い先生はプンプンだ
私の失敗で燃えてしまった。
マッチのいたずらをして 父がチリ紙交換で集めた新聞紙が燃えた。
火はあっという間に燃え広がり
家と、隣の銭湯と、ペンキ屋が燃えた。
「取り返しがつかないでしょ!」
偉い先生は声を荒げる
風にあおられ、燃え盛る火を、ペンキ屋の秀和が眺めている
私は目をいっぱいに見開いて秀和を見る
涙がこぼれそうなのだ
「あれほど言ったのに!」
偉い先生も泣きそうに唇をかみしめる
青い物干し台におそろいの青い竿がかかり タオルと、シャツと、靴下が、干されていた
強風が物干し台を揺らし、吊るされた洗濯物がウサギのように跳ねていた
愉快に、奔放に、不協和に踊りまわる、タオルと、シャツと、靴下に、マッチのことを忘れ私は 釘づけになる
窓の隙間から入り込む風は生温かく 春の訪れを感じさせ、
私の胸は高鳴り、そして、
家は燃えてしまった。
終業時刻を過ぎた職員室で 残っている先生たちは思い思いに、でもおそらく皆的確に、仕事をしていた
私が怒られることに(私を怒ることにも)慣れている先生たちは、今私が怒られていることに関心を示さず、
一人、偉い先生に用があるらしい生徒が、ドアのそばで私が怒られ終わるのを待っていた
それは進路が決まっていなかった生徒で、リボンを巻いた鉢植えを抱えている
きっといい知らせを告げに来たのである
ステキな風が職員室に吹き込み、赤い花びらが飛び込んできた
私の大好きなボケの花の花びらだ
ショベルカーが燃え残った風呂屋の煙突と壁を突き崩す
タイルに描かれた、どこか異国の湖と山が、お城が、ガラクタと化し、
私は秀和と瓦礫の山によじ登る
うずたかい瓦礫の、天辺に立つ
お前のせいだよ! 秀和は、天に向かって大声で叫ぶ
その日私たちはそこに並んで、春の風に吹かれながら目を大きく開いて
新しい景色を眺めたのだ
偉い先生の足元で、やわらかい赤色の花びらがクルクル回転し、更にどこかへ移ろうとしている
どんな失敗をしたのだったかも忘れ、
私はうずうずと、怒られ終わるのを待っている
(3月22日 職員室で)