裏にバーコードが付いているような判断のしかたで

 

駿河昌樹

 
 

簡単には言い切れないことを
もどかしく
ぶつぶつ
時には陰々滅々と
ことばならべしていくのが

だと思ってきたので

きりきり言い切り
あちこちから借りてきたような表わし方や
裏にバーコードが付いているような量産品的な判断のしかたで
髪を突っ立てたIT企業の社長や
半グレのトップみたいな「後悔?無関係だけど?」的な口調で
そこそこ高価なスニーカーみたいに
キッ!
キッ!
と歩くたびブレーキやアクセルを利かせて
八方美人に小利口にしゃべってるのを見ると

ヨシモト
にでも
行ってやったら?
と思う
政府からは100億円貰っているそうだから
潤う
と思うよ
それなりにさ
と思う

(もっとも
(いま起こっているのは
(旧来の日本型裏社会の掃討
(ヤクザなんかより遙かに情け無用の国際金融資本が
(この列島をいよいよ直接統治するために
(これまでノシてきた幇間屋を潰しにかかっているところ
(政治の世界も同じで
(新たな真の民主主義の可能性が見えてきた……
(なんて夢を見ていると
(いつのまにか安手の軍靴を履かされるようになるよ
(きっと

(おっと、
(これ以上は言えない
(言わない
(シュールレアリスム詩の形体や
(キリスト教系神秘主義詩の形体や
(イスラム神秘主義詩の形体でも
(ひさしぶりに蔵から出してこないことにゃ……

 

 

 

塀 181028, 181101.

 

広瀬 勉

 
 


49:181028 東京・杉並 成田東

 


50:181028 東京・杉並 成田東

 


51:181028 東京・杉並 成田東

 


52:181028 東京・杉並 松庵

 


53:181101 東京・中野 大和町

 


54:181101 東京・中野 大和町

 


55:181101 東京・中野 大和町

 


56:181101 東京・杉並 高円寺南

 

 

 

I Want You

 

今井義行

 
 

おたがいに
I Want You です

もしも 私たちが結婚できるなら
アルジェリーはドーハで労働契約を更新しない

2020年の話 ─ ─

2020年の6月に私たちは
フィリピンで
教会結婚式を挙げるつもりである

私は障害者である上に
とても 貧しい

しかし あなたは
ビデオ通話で 白い歯を見せて 笑うのだ
「ノウプロブレム 」

Facebookで知り合って
2016年からのつきあいになるね

実現するのなら

あなたは
結婚ビザを得て
日本で 労働契約をする
輝く場を獲得する

そして
次女の アンジェラが
学校を卒業したら
フィリピンから日本にきて日本で活躍する

それが おたがいの
I Want

あの日・・・・・・・・・・・・

「肌のいろが醜いよ」
こころにもないこと言っちまって
遠距離で口論になった

「ええ、あたしは醜い」
「ええ、あたしは醜い」
「ええ、あたしは醜い」

貸すよと言ったおかねを貸さずに
ブロックしてしまった
まわりに反対されたから・・・・・・・・・・・・
醜いのは、私の方。

あなた、よく私を赦せたな
その寛容さは
一体 何処からくるのか

ローマンカソリックか
あなた本来の 人格か

きっと 両方だね
私はあなたに敬意を持つようになった

約束するよ

私はあなたを しあわせにします
私はあなたとあなたの家族を愛しぬきます

あなたのパパもママもきょうだいも私の妹家族も
私たちは 1つの家族になる

みんなで 大きな家族になるのだ

そんな簡単な話じゃないことは
わかっている ────

2020年にも
入国管理局は 厳格だろうし
私は 生活苦に瀕してもいるだろう

けれど 午前2時 今日も
あなたは ビデオ通話で笑う
「ノウプロブレム」
褐色の肌のあなた
チキンステーキを頬張りながら私にメモを見せる

2020年6月までの
経費の 試算書 ────
足りない分は 持っている人が助ける
「私たちは、家族ですから
できないことは ないです」

「私は力を尽くすよ、アルジェリー」
「前だけを見るのよ、ユキ
私は、日本で死ぬまであなたと暮らしたい」

「OK 何の異論もない」
「フィリピンに土地があるの
そこに6部屋のアパートを建てて
私たちの 副収入にします」

「プロパティ、
それは 私たち2人のものです
あなたが働けないなら
私が働いて助けます
私たちは夫婦になるのですから!」

2020年の1月には
私はフィリピンに渡り彼女と合流する
私たちは 40日間を
彼女の家族たちとともに過ごし
婚約者として 紹介される

それから私たちは
次女のアンジェラと3女のペンペンと
いっしょに
ボルケイビーチへ行って太陽の光を浴びる

私は太ってしまった体を
からかわれながら
家族と 水しぶきを浴びせあうだろう

それが おたがいの
I Want

アルジェリーは
日本の工場で働きたいと言っている
私は
アルジェリーに言っている

「ユーハヴアチャンス」
「ユーハヴアチャンス」

そのような話 先日
作業所の 施設長の岩崎女史にしたら
しばらくしたのち

「うひゃあ」としりぞいていた
生活保護予備軍の私から
まさかそんな話が飛び出すと思っていなかったのだろう

「でも、素敵だわ
大変だとは 思うけれど、、、、」

「おたがいに
IWant You なのです
作業所の みんなが おたがいに
IWant You で あるように」

「私、良い 結果を
祈っているわ ────」

「どうもありがとうございます
それでは 今日は
これで 上がります ────」

 

 

 

“何をどのようにどれくらい” *

 

午後の浜辺に
人びとは

いた

泳いでいた
子どもたちを波に遊ばせていた

犬をつれて

浜を
歩く婦人もいた

フナムシと蟹が波を避けて
消波ブロックに

這うのを
見てた

フナムシや
蟹や

人は

波を避けて
這う

波を避けて這う

モコは
暑いから付いてこなかった

“何をどのようにどれくらい” *

見つめれば
現われるのか

遠景には

物語があり
近景には死者がいた

韮の花の

白く揺れるのを
見た

渦巻いていた

 

* 工藤冬里の詩「何をどのようにどれくらい〜漢字だけ読む」からの引用

 

 

 

蟻100匹の行進に続く。

 

一条美由紀

 
 


赤ずきんちゃんとばかり遊んでいたら、狼は鬼となって戻ってきた。

 


君を使い捨てにしないよ。

 


真実は言わない。言ったらつまらない。これは本当のことだよと嘘をついて楽しむ。
そしてまた真実を聞くこともなく、”お話”を綴っていく。

 

 

 

何をどのようにどれくらい〜漢字だけ読む

 

工藤冬里

 
 

三ヶ月は久し振りだった
背景は黒勝ちだった
耕運の歯ががしがしと笑気だった
富はフリーダイヤルに
触角で死化粧に勤しんでいた
度の強い子供
黒幕がある限り
白髪対眼鏡
望まれることを
しらす丼に
集い
水晶体に黒花火
七三哺乳
複雑にしないで焦点を
イントネーションに合わせないで
体全体は明るい
条件の良い挑戦
南予か
観葉百手
落雁のがしっと
尾崎
グラ歯
マツエク
首の輪
金のカレンに
トランスパラントな空色を塗り黄緑を塗り
漢字だけ読む
それが黄色懸かる
引き続き黒が勝っている
アフターからの取り戻し
しかし黒い
長浜は燕が沢山いたな
サバは保冷皿に貼り付いていた
高校は小さかった
最初は赤ではなく金色だった
マジックアワー
ブリックロードに影無く
何をどのようにどれくらい
暴虐の雲光を覆い
リュミエール兄弟
二十年でお別れ
若やぎ
クバリブレ
母音抜き
裕福
殺した後は何も出来ない
何をどのようにどれくらい
彼のゾーエーは彼へのもののあらわれからは結果しない
黒薄れ
黒薄れるな
ちゃん付けされる閉じこもりの黒
黒光り
今夜命は取り上げられる
嗄れ瓶
白とは偽善
知られるようになるのは偽善
時間を空間的に付け延ばすことは出来ない
瞼の裏で抽象

 
 

 

 

 

訪問者

 

みわ はるか

 
 

ピンポーンと夜の19時頃だっただろうか。
わたしの住むアパートのインターホンが鳴った。
アパートに住んでいると特段約束でもした友人でない限り訪問者なんてこない。
何かの勧誘か、NHKの受信料の請求か(いや、それはもう既にきちんと払っている)、いったい誰だろう。
おそるおそる家の中のホームカメラを覗いてみた。
そこには20代前半と思われる男女のややこわばったような緊張した顔が見えた。
2人とも小柄で男の人は中肉中背、短髪、いかにも好青年といった感じ。
女の人の方は色白で目がくりっとしていて黒髪のロングヘアーだった。
手には何か袋を大事そうに握り締めていた。
玄関の電気をつけ扉を開けた。
そこには当たり前だけれどさっきインターホン越しのカメラで見た若い2人が立っていた。
緊張した顔は変わることなく、
「昨日からここの上に引っ越してきた者です。他県から来たのでご迷惑をかけるかもしれませんがどうぞよろしくお願いします。」
と息つく暇もなく男の人は言い切った。
隣にいた女の人はぐいっと袋をわたしに差し出し、
「あの、これ、全然たいしたものではないんですけど使ってください。」
ものすごくこちらも早口でしゃべりきった。
2人は不安そうに見えた。
この辺にきっと知り合いもいないんだろう。
でもどこか覚悟を決めてここに来た2人はとてもかっこよく見えた。
聞きはしなかったけれどおそらく新婚さんなんだろうなとにぶいわたしでもさすがに気づいた。
わたしはにこっと笑って、わざとじゃなくてこれは本当に本心でそう言ったのだけれど
「わたしはここに8年程住んでいます。地元もこの近くです。分からないことがあったら何でも聞いてください。
こんな風にきちんとあいさつに来てくれる人は初めてです。ありがとうございます。うれしいです。」
その時初めて2人はお互い目を合わせほっとした笑顔になった。
さわやかで、清らかで、美しかった。
このアパートには他にも何部屋かある。
どんな人が住んでるか知らない人も多い。
せっかくあいさつに行っても適当にあしらわれてしまった場面もあったかもしれない。
あぁ、どうかこの町を好きになってくれますように。
きらきらとした楽しい毎日になりますように。
わたしはお姉さんのような気持ちになった。
2人は深くお辞儀をして自分たちの部屋に帰っていった。
その後姿はいつまでも見ていたくなるような羨ましい背中だった。
地に足を一生懸命つけて歩こうとしている歩調だった。

袋の中身は洗濯用洗剤だった。
わたしは非常に好感をもった。
実用的なものは大変嬉しい。
こんなこと言ったらおばさんだと言われるかもしれないけれど嬉しいものは嬉しいのだから仕方ない。
少しルンルンな気分になって洗面台の下のストックボックスにしまった。
今使っている洗剤がなくなってこのストックボックスの扉を開けた時、きっとまた彼らのことをわたしは思い出すだろう。
今はきっと何者でもないであろう彼らはそのころには随分大人になっているんだろうなと思う。
あいさつ程度の付き合いになることは目に見えているけれど、上の階の人達がいい人でよかったなと心が温かくなった。

賃貸住宅が立ち並ぶこの町は外から来る人が圧倒的に多くよそ者の集まりだ。
単身赴任の人、若夫婦、転勤でしばらくの間だけ家族で間借りしている人、学生。
みんなライフステージが進むにつれどんどんこの町を出ていく。
住民の入れ替わりは激しい。
それはたまたまタイミングよく見かける引っ越し業者の車や、駐車場に停めてある車がいつのまにか違っていたりすることから察しが付く。
ほとんどの人は、一時の仮住まいとして利用しているようだ。
そうであるから同じ棟であっても知らない人はたくさんいるし、昔からこの地に住んでいる人たちとの交流も皆無だ。
気楽でいいなと感じることの方が正直多いけれど、なんだか物足りなくつまらないなと思う時もある。
それはなんとなく蝉がミンミン、ギンギンこれでもかと鳴いていた昼間とはうって変わり、
淡いオレンジ色の夕暮れが空一面に広がるなんだか切ない感じと似ている。
人との距離感は難しい。
みんなそれぞれ色んな価値観を持っている。
できあがった組織に入っていくことや、他人と一緒に何かをしようとすることは煩わしいことかもしれない。
それでもやっぱり1人は寂しいな、誰かとつながっていたいなとふと思ったスーパーからの帰り道。
今日は鶏肉が安かったのでたくさん買いすぎてエコバックはいつもより重かった。
その時、空のずーっと奥の方からぽつりぽつりと夏の夕立がやってきた。
わたしは駆け足で家路へ急いだ。

 

 

 

遠足

 

塔島ひろみ

 
 


私の道ではない道に ノウゼンカズラが咲いている
野良猫が4、5匹もまとまって、日陰を見つけて涼み、ウトウトしている
学校帰りの中学生たちが足をとめ、しゃがみ、猫をなでる
この道を
歩くはずのない私が歩いている
崖を攀じ登るような必死さで、東新小岩の薄汚れた区道を、歩いている
細い手足をボキボキ間違った方角に折り曲げながら、自分の道でないこの道を、歩いている
私の道に出るために、一生出会わない、時を共有しない、擦れ違いすらしないはずの人たちと擦れ違い、
殺虫剤が噴射される


「ぐしゃ」と音を立て、前のめりに崩れた私は、
がさつく硬い路面に蹲った
体じゅうに矢が刺さったようなダメージだが、荷物は無事だ
ゆっくり体を起こし、
私に割り当てられていない空間に立ちあがる
「あ。」見るはずでないものを見た女が小さく叫び、足早に遠ざかる
私の道に私は行きたい


交差点に立ち、見渡す
ここから分岐するあらゆる道が私の道でないことを知る
それでもまず
道を渡ろう


ソグ、ソグ、ソグ
沿道の畑でトウモロコシが音を立てて成長している
私のトウモロコシでないトウモロコシに私の太陽でない太陽が猛烈な光エネルギーを差しかけ、
緑色の茎は空へ向ってまっすぐに伸びる
その畑を半分つぶして作られた買物道路には、いるはずのない私だけが歩き、いるはずの人は誰もいない
「ぐしゃ」と、イヤな音が聞こえ振り返ると、自転車ごと転んだらしい女性がつぶれ、呻いていた
この道は彼女の道でもなかったのだ


交差点に立ち、見渡す
ここから分岐するあらゆる道が誰の道でもないことを知る
道は更に分かれ、無数にあった
みんな人が作った道であったが、
道沿いの保育園で子供たちが遊んでいたが、
団地のベランダに洗濯物が下がっていたが、
大型車の騒音が絶えることなく聞こえていたが、
どの道にも人は歩いていなかった


ソグ、ソグ、ソグ、
伸び続けるトウモロコシの間を縫って、荷物をパンパンに詰めたリュックを背負って私は道を探して歩く
私は人を探して歩く

少し楽しくなってきた

 
 

(7月26日、東新小岩4丁目で)