新型コロナ星から愛を込めて

– that’s the same after all –

 

正山千夏

 
 

目に見える天敵からは
なんとか身を守ることができたとしても

目に見えない天敵からの
思いもよらぬ粛清に

老いも若きもくしゃみして
マスクは免罪符にも似て魔力を発揮

外敵と内敵に翻弄されながら
生きるこの時代は終末なのか地獄なのか

それとも長い冬のあと
ヒトのいない平和な春へとつづくのか

結局は
どちらも同じ

あたしたちは今酒を飲み花を見る
肉を食べ笑い泣くそして死んでいく

 

 

 

診察室

 

村岡由梨

 
 

これは夢なのか、現実なのか。
わからないまま、ぼんやりとした不安の中で生きている。

ここ数年、私は警察に追われている。
私が、自宅の近くに住む資産家の高齢女性を殺して、
広い庭の片隅に遺体を埋めたというのだ。
まだある。
私が、面識のない小学校3年生の男の子を殺して、
学校の近くの遊歩道に穴を掘って遺体を埋めたのだという。

警察に捕まっても、「私は殺していません」とは言えないだろう。
なぜなら、私自身、確かに彼らを殺したような気がするからだ。

毎週水曜日、15:30発の小田急線小田原行きに乗る。

入ってすぐ右の優先席に、
胸の大きさを強調したミニスカートの女が座っていた。
脚は虫食いだらけ、下品な女だった。
私は、この女を乱暴に犯すことを想像した。
私の股間から鋭利なナイフが生えてきて、
女の陰部は血だらけになった。
絶頂に達した瞬間、女は不要な単なるモノになり、
エクスタシーと嫌悪と憎悪のグチャグチャの中で私は
醜く歪んだ女の顔を、原型をとどめないくらい何度も殴った。

空いている座席に座ると、斜め右に
タピオカをすすっている若い女がいた。
タピオカをすすりながら、片手で携帯電話をいじっている。
その女は、出っ歯で口がきちんと閉まらないようで、
前歯の隙間からタピオカが見え隠れしていた。
クチャクチャ クチャクチャ
私は耳を塞いで悲鳴をあげた。
そして女の顔をズタズタに切り裂いて、自分の耳を引きちぎった。

女が憎い。
けれど、私も女なのだ。
母親なのだ。
女の顔を何度も殴った時、2人の娘の顔が浮かんだ。
女の顔をズタズタに切り裂いた時、2人の娘の顔が浮かんだ。
この世で一番清潔な存在。傷つけたくない存在。
「人の痛みがわかる人間になりなさい」
そう言って、2人を育ててきた。
胸の大きい女にも、タピオカの女にも、
きっと母親がいるだろう。
女が憎い。
それでも娘たちを傷つけたくない。絶対に傷つけたくない。
そんな思いで、私は真っ二つに切り裂かれる。混乱する。

毎週水曜日16:30から診察が始まる。

先生とはもう10年以上の付き合いになる。
60代男性、中肉中背、
温和な顔にメガネをかけていて、
歩く姿勢がとても良い。
人間味溢れる、とても優しい先生だ。

「一週間、どうだったかな」
と、まず先生が聞いて、話が始まる。
家族のこと、義両親の介護のこと、
作品制作のこと、仕事のことなど
時には泣きながら、とりとめのない話をする。
「ここには善も悪もないから」と先生が言い、
殺す、殺される、死ぬ、死なせるなどの
不穏な言葉が診察室を飛び交う。

「これ以上怒りや憎しみに支配されたくない」
「結局は私が消えればいいんだと思う」と私が言い、
先生にたしなめられるのが、いつものパターンだ。
先生には何でも話すし、
先生も私に関して大抵のことは知っている。
私は、先生が好きだ。

カウンセリングの終了時間間際になると、
私は急激に不安定になる。
ドア一枚を隔てた外の世界はこわいことでいっぱいだから。
「○○がこわい人をいっぱい連れて復讐しに来るかもしれない」
と怖がる私を、先生はいつも「大丈夫」と言って背中を押してくれる。

診察室を出て間も無く名前を呼ばれて、
受付の女から、処方箋と領収書を渡される。
「3850円です」
一番苦しい瞬間だ。
当たり前だけれど、お金の問題なんだ。
医者と患者の関係なんだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
結局、先生や受付の女は「あっち側」の人間で、
私は「こっち側」の人間なのか、と
否応無しに思い知らされる。

そう言えば、先生は私のことをよく知っているけれど、
私は先生のことを、ほとんど知らない。
どんな食べ物が好きなのか。
何色が好きなのか。
動物は好きか。
どんな音楽を聴くのか。

良くない家庭環境で育って、精神を病んで
なんてありきたりなストーリー
私は大丈夫。
大した問題じゃない。
絶対に大丈夫。
そう自分に言い聞かせて
偽善者の皮を被って、
自分を必死に取り繕って生きてきたけれど、
マトモな人のふりをするのは
もう、無理かもしれない。

死刑判決を受けて、
独居房にいる孤独なあなたを今すぐ連れ出して
狂おしいほど交わりたい。一つになりたい。
そして、あなたが他の人にしたように、
私をメッタ刺しにして、殺して欲しい。

この詩は、午前2時過ぎにあなたとわたし宛てに書いた
歪なラブソングだ。

 

 

 

春の嵐のような

 

ヒヨコブタ

 
 

春の訪れを
喜ぶ地域で育ったとき
いまのこの寒ささえ永遠ではないと知っている確かな喜びがある
ある

一足ひとあしずつ進む
賽子を転がすのではない
人生を誰かやなにかにとらわれるのではなく
とらえて生きていきたいと願う
願う

わたしたちの日々は穏やかであると
信じて生きる
生きる
生き続けている

他者のなにものにもふりまわされぬよう
生きる
生きていたいと願う
願い続ける

静かなばしょに
そのこころのなかの誰にも入ることのできぬばしょにいるとき
こころも凪いでいく
凪いでいく

なにを恐れよう
なにを

迷う
迷いながら
静けさに身をゆだね
こころも軽やかになるまで
わたしはここにいたいと願う

ことばの魔法はいつも
ひとことでも
自由だろうか
自由だと信じている

 

 

 

島影 16

 

白石ちえこ

 
 

山形県 鶴岡

朝、鶴岡の町から月山をぬけて山形駅へ向かう。
橋をわたるとき、まっ白なかたまりがゆっくりと川に沿い、上流からおりてくるのが見えた。
車を停めて橋に戻り、山からくだる霧を眺めていた。
十分たらずのうちに霧はあとかたもなく消えてしまった。
なにごともなかったような景色に戻った。

 

 

 

あいについて

 

今井義行

 
 

フィリピンでかんがえていた あいについて ────
さらりとした 夏の気候の アルジェリーの家で
日本では そろそろ 春が 近い
けれど わたしの こころは 春から とおい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それは どちらからともなく
あいが とおざかって いこうと していた からだ
日々に 薄らいで いくものは
どうする ことも できない

42日間の 滞在期間のなかで
私たちは しばしば 手をつないで ショッピングモールに出かけた
「Do you love me ?」
大通りで 乗り合いジープを 待ちながら
あなたは しばしば 私に 問いかけてきた

けれども あなたの 手からは
伝わって くるものが なかった
いや 私の手が
何も 伝えて いなかったのか

「Yes, of course」と 私は 言ったのだが ───

愛って、なんだ ────・・・・・・・・・?

ある日の ショッピングモールの ホーム用品売り場で
アルジェリーは 電球を 1個買った
フィリピンでは
電球のことを 「 Akari 」と いうのだった

「 Akari 」私は その言葉に 惹かれた
なにか とても あたたかい言葉

家に戻って 電球を 新しいものに 取り替えた
煌々とひかる Akariに 私は見入って
なにか 健康的な象徴を 見つけたような気がした

夜には 私たちは
ふたり ならんで ねた ────
きまって アルジェリーは 先に 寝息をたてた

ときに 明け方に
アルジェリーは 私のからだに しがみついてきた
黒い髪が 私の口に 入ってきた

「Do you love me ?」
あなたは 私に 問いかけてきた
「Yes, of course」と 私は 言ったのだが ───

私たちは 服を 脱がなかった

それから・・・・・・・・・・
「トイレに行ってくる」と 言って
あなたは しばらく 戻ってこなかった

やがて 部屋に 陽がさしてきて
戻ってきた あなたは
私の首に 腕を巻きつけて

「Good morning, Yuki!」と 明るく笑った
私も
「Good morning!」と 明るく笑った

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私は「Do you love me ?」と 言わなかった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

アルジェリーのアイディアて
私たちは フィリピンから 少し 足をのばして
ブルネイ王国に
旅をする ことになった

ブルネイ王国には アルジェリーの
クラスメイトの ネリヤがいるのだ

空港では ネリヤと彼女の夫のジェームスが
にこやかに歓待してくれた
ネリヤは晩い第1子を身籠っていて
そのすがたを ジェームスが傍らで 見守っていた

ネリヤとジェームスは
5日間かけて 車で
ブルネイ王国を 案内してくれるという

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

何といっても美しかったのは
3日目の 早朝の青いビーチだ

私たちは はだしになって 寄せる波と戯れた
アルジェリーは 両手に
一生懸命 貝殻を 集めていた

私たちは ネリヤとジェームスが 用意してくれた
朝食を 木の椅子に 座って 一緒に食べた
そこで 記念撮影をしあおう ということになった

私は 寄り添い合って 微笑んでいる
ネリヤとジェームスを 撮影した
「今度は 私が 撮るわよ」と ネリヤが言った

私とアルジェリーは 並んで砂浜に立った
「手でも つないだらどうだい?」と ジェームスが言った

私は しずかに アルジェリーの肩に手を回した
ネリヤが「そうそう いい感じ」と言った

私たちが撮ってもらったその1枚 ────それが
私たちにとって 一緒に写っている 1枚の写真になった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ブルネイのホテルでは
私たちは 交互に シャワーを浴びたり
共同のキッチンで
コーヒーを 飲んだりして過ごした

私は ぼんやり 考えていた

日本では そろそろ 春が 近い
けれど わたしの こころは 春から とおい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それは どちらからともなく
あいが とおざかって いこうと していた からだ
日々に 薄らいで いくものは
どうする ことも できない

愛って、なんだ ────・・・・・・・・・?

部屋の中で 持ち物の整理を していた時のこと
アルジェリーが 咄嗟に
私のパスポートを掴んで においを嗅いだ

「Bad smell!!(悪臭ッ)」
それが あなたの 私への印象だったのか

私は 黙っていた

ダブルベッドで 私たちは
ふたり ならんで ねた ────
それから アルジェリーと私は 抱きあった

抱きあいおわって
ぼんやりとした 空間が 私たちに残った

しばらくして
私は アルジェリーに 囁いた

「Let us break our engagement and become just friends.
I think it is good. (私たちは 婚約を解消して 普通の お友達になりましょう
それが良いと 私は思います)」

アルジェリーは うなずいた
そして
あなたは ゆっくりと こう語ったのだ

「My love for you is gone… I dont have love for you anymore Yuki…
before when we met in the first time, I love you … but now no more…
(私のあなたへのあいはきえてしまった・・・もうあいがないのですユキ
私たちがはじめてあったとき私はあなたをあいしていた・・・でもいまはもう
I tried to love you again but I cant!! Friend」
私はもういちどあなたをあいそうとしたの でもできない ともだち)

 

 

 

あらゆるものを透過するジンの草いきれ *

 

モコを乗せて

そっと車に乗せて
いった

いってきた

街の犬猫病院に行ってきた

もう
11年は通っている

先生は

若くてボンヤリしてるが
頼りにしている

モコのことを好きでいてくれている

他の犬も猫も
好きなのだろう

モコもそのひとりだとわかる

その瞳と
笑顔でわかる

なにも代償はない
なにも代償はない

あらゆるものを透過するジンの草いきれ *
あらゆるものを透過するジンの草いきれ *

かつてはあったのだろう
それだけが杖となる

病院から帰ると

わたしの木蓮の

白く
白い

花たちがひらこうとしていた

 
 

* 工藤冬里の詩「マスク」からの引用

 

 

 

もうすぐ終わり

 

辻 和人

 
 

セーフ、セーフ
滑り込んだ
てんや武蔵小金井店
残業で遅くなっちゃって
ミヤミヤ仕事忙しくって
今日は夕ご飯各自ってことで
滑り込んだ22時5分
もうすぐ終わり
もうすぐ終わり
てんぷらそばにするか
すいません、そばは冷たい方でお願いします
若いオネエさんの店員さんタイマー渡してくれて
鳴ったらカウンターまで取りに行くんだって
空きまくってる席に腰を下ろす
オネエさん、すぐさま営業終了の看板出した
ビール飲みながらのんびり天ぷらつまんでる真っ白髪のオジイさん
天丼大盛り夢中でかっこんでる長髪のオニイさん
50代オジさんサラリーマンのぼく
ぽつんと3人
オジイさん、独居のお楽しみタイムかなあ
オニイさん、横の席にギターケース立てかけてるからリハの後かなあ
こんなのも縁だ
ここで大地震が起こったら
声かけあって
3人一緒にテーブルの下に身を隠して
揺れが収まったら足をくじいたオジイさんをオニイさんと一緒に助け出して
おっと忘れちゃいけない
店員のオネエさんと調理場にいる誰かさんの安否も確かめなきゃ
大丈夫ですかぁ
お怪我ありませんかぁ
ゆっくり頭を起こしたオネエさん、ずれたメガネをかけ直しながら
「大丈夫です、お客様はご無事ですか?」だって
えらいなぁ
こんな時でも客の安否を気遣えるなんて
ビィーッ、タイマー鳴った
ちょっとびっくり
意外と大きな音だな
慌ててタイマー止めてカウンターへ
オネエさん、上の空みたいな笑顔で「どうぞごゆっくり」だって
ごゆっくりも何もあと15分でおしまいじゃん
トレイにのったエビにイカにキスにカボチャにインゲンにざるそば
いただきまーす、じゃあイカの天ぷらから
くにっくにっ、噛み応えあってなかなかうまい
そばはどうかな
するっつるっ、立ち食いそばのよりかだいぶいい
極上ってわけじゃないけど700円の価値は十分ある
カボチャ
そば
盛り上がってきたぞう
キス
そば
いいね
盛り上がってきたぞう
インゲンにたっぷり汁につけた
丁度その時だ
オジイさん、ビールの最後の一滴をグラスに注ぎこんで、くいっ
オニイさん、丼から満足そうに顔あげてコップの水を、ぐいっ
ほとんど同時
おいしかった、おいしかった
良かったねえ
オジイさん、床に寝かせた杖を拾い上げて、どっこいしょ
オニイさん、立てかけたギターケースを起こして、どっこいしょ
オネエさん、調理場の人とのお喋りを中断して慌ててレジへ
あ、行っちゃうの?
一緒に地震を生き延びた仲なのにぃ?
がらっとしてきた
がらっとしてきたぞう
終わりのムードが盛り上がってきたぞう
最後に残ったエビ
お箸でつまんで
ちょっと高く持ち上げてみる
エビの向こうに見えるのは
斜め四角に伸びる影のお守りをしてばかりのテーブルと椅子
薄ぼんやり光ってこびりついた水分と遊んでばかりの給茶機
そして調理場さんとのお喋りやめて
カタカタカタ伝票と電卓の間を行ったり来たりするばかりのオネエさん
パクッ
噛みちぎられたエビはゆるゆるした曲線を描きながら
50代オジさんサラリーマンの口の中に吸い込まれ
ムグムグムグ、濃厚とまでは言えないけエビらしい味をニュッと舌に刻んで
ごくっ、暗い奥に落っこって
いなくなっちゃった
♪ソドーミソードドーーラーラ
ソーミファレソミーーーー
聞いたことあるメロディが流れてきた
さみしいような懐かしいような節回しだ
エビはいい
そばはいい
終わりはいい
さみしくて懐かしくていい
終わりったってこの店にいる時間が終わるだけなのに
これからまだまだ
バスに乗るってこともお風呂に入るってこともミヤミヤにお休みを言うことも
しなきゃいけないのに
もうすぐ確実に終わるこの時間がもうすぐ確実に終わるが故に
とってもぽっかり広がってる
さみしくて懐かしくていい
時間にも部屋みたいなものがあって
ここは居心地のいい部屋なんだろう
照明奥の方消えて
盛り上がってきたぞう
さあ、お帰りだ、コート着なくちゃ
と思ったら着たまま食べてたことに気がついた
50代オジさんサラリーマンはこれだから困るね
こんなんじゃミヤミヤに怒られちゃうぞ
♪ソドーミソードドーーラーラ
ソーミソファレドーーーー
レジに歩き出すと待ってましたとばかりオネエさんがレジに滑り込み
揺れが収まった直後の縮こまった表情とは打って変わった
早くしろと言わんばかりの笑顔で「ありがとうございました」
♪ソレーソミーソファーミレーレ
レーミファレラソーーミー
盛り上がってきたぞう
もうすぐ終わり
もうすぐ終わり
終わりを胸いっぱい吸い込む
ふわぁわぁーっ
くちゃくちゃコートの50代オジさんサラリーマンのぼく
最後の客として
盛り上がって消えるのさ
♪ソドーミソードドーーラーラ
ソミドソレミドーーーーー
終わり
終わり

 

 

 

マスク

 

工藤冬里

 
 

マスクの中で
湿った呼気は循環する
補聴器の中では
アイルランド緑の藻が張り付いた自分の声が
ホルンのように響く
殻の中は
白茶けた岩場を往くさまよい飽きているロトの
視線だけが蒸れている絵画で
外の世界とは界面で接している
微笑みは透過しない
ピンクのプラスチックの蝶を着けたうた声は透過しない
外を愛している人はいない
外にあるものを愛しているだけだ
幸とは土の下に¥があること
ガメラの肉は思いの外柔らかかった
アジの開き運動に参加したら硬くなるだろう
マスクの内側にあらゆる色も闘争も塗り込められている
睫毛の演技で外を征服する
微笑みは透過しない
かつてはあった、あらゆるものを透過するジンの草いきれ
全ての年号は遠くなりにけり
年号の人は鼓膜を透過する声を識別できず、雷が鳴ったとしか思えない
マスクメロンの外側は地図の送信に曝されている
果肉色した絵画の中で
つり革を握る諸個人が
ひかりのあるうちに犀になって夕を歩んでいたとき、
ひかりと思っていたものは絵の具だった
フィルターで淹れられたうたは滓を残した
それはスペイン語の冷蔵庫の臭い消しに使われた
暴発的な咳が
沢山のビッグバンによる、沢山の内側を創り出した
微笑みだけは、
透過しなかった