もうだめだ

 

工藤冬里

 
 

こんなのはまだ序の口ですよ
人々は恐れのあまり気を失うんです
そのあとそれを諸国家の力で克服したように見せかけて
そこで本当の終わりが来るんです
スペイン風邪の年に生まれたA(百歳)は
車の中でそのように述べた

事は簡単ではない
書けない言葉がある
年老いて妊る正しさに曝されて
不愉快でもある
追い出される者がいる
物事は
イカの存立平面上にある
追い出された子に弓を教える
番える間が子育てだ
がエジプトから妻を貰うと
矢は放たれたままとなって
今日に至る
世界を彷徨うムハンマドは弓を習ったのだ
彼はすべての人に敵対し
すべての人は彼に敵対する
だから
悪気があるかどうか
だけを見てほしい
半面だが嘘ではない正しさの外の荒野を
ナレーターの声色で進む
荒野に抜け道はなかった
イチジクを枯らし
兄弟を許し
コンビニの界面を撫でるムハンマド
咳が出てきた

こんなのはまだ序の口ですよ
人々は恐れのあまり気を失うんです
そのあとそれを諸国家の力で克服したように見せかけて
そこで本当の終わりが来るんです

ギターを失くした渡り鳥
〽みーんな去年と同じダヨ
バッサリのバの音が足んねえ
何も忍bazz腎臓擦り潰し麺打ち
腰のある麺打ち
ブラック徳島という店に入った
そこから抜きつ抜かれつして帰ったら2時だった
それからギターを失くす夢を見て
血合いの側をアミに押し付けた
百舌が枯木で啼いている

こんなのはまだ序の口ですよ

手に取るように手に取る
クリックするようにクリックする
眺めるように眺める
でも打つように書く

人々は恐れのあまり気を失うんです

空の青
撮れる自分を撮りながら
撮れない自分を撮っているのか

そのあとそれを諸国家の力で克服したように見せかけて

「はやくおきすぎたあり」
ありはにわからはいだしていえのなかにはいってみましたがなにもありませんでした
ストーブははるがいちばんあったかいな
といういえのしゅじんのこえがきこえました
おしまい

そこで本当の終わりが来るんです

免疫力をつけるには寝るのが一番です
相模原事件を扱った辺見庸の月というのを読みましたが、震災以来よく見られる、厳粛さを勘違いしたジャーナリストの浅さのようなものを感じます
放射能やコロナを神の位置に置くと晩年を身辺整理しやすくなるので彼らはそうしているだけです
ご自愛ください

こんなのはまだ序の口ですよ

風邪の表情

人々は恐れのあまり気を失うんです

雪の山がごつごつしているなあ
遠くにあるのに

そのあとそれを諸国家の力で克服したように見せかけて

周章テル乞食ハ貰イガ少ナイ

そこで本当の終わりが来るんです

ピダハンよりも随分前に書かれたボルヘスの「ブロディーの報告書」は、ひとまとめにして把握されたくないホモ・サピエンスの宣教師の欲求を字にしたものだ。
権威において常に下位に置かれることを潔しとしない被造レジスタンスは、カフェの炭水化物の眠気の中で、ネフィリムの遺伝子を夢想するだけだ。
それを食べる資格はない!と夢で警告を与えられたのなら、田んぼにトラットリアを出すな。
永遠に、そうです永遠に、
と言う時の口馴れた’そうです’
親になったなら心に刻み込もう
現生人類の子供は親だけのものではないこと
鳥のマスクで逃れようとして
星座は酢飯の稲荷の黒胡麻と教え
畳まれた油揚げの襞を存立平面とする
大阪のライブハウスでそのばくてりあに這入られ、高知で発症した
番えられはなたれるまで歌留多する

こんなのはまだ序の口ですよ
スペイン風邪の年に生まれたA(百歳)は
車の中でそのように述べた

 

 

 

昼の光に、夜の闇の深さが分かるものか(✳︎) Ⅰ

 

村岡由梨

 
 

おでこのニキビがなかなか治らない。
何だか最近お腹も痛くて憂鬱だ。

授業中、先生から出された課題を静かに終わらせて、
自分の席で絵でも描こうかと
自由帳を出したりしまったりして終業のベルを待つ。
教室の後ろには、習字で書いた「あけび」という文字が
退屈そうに並んでいる。
ていうか、どうして「あけび」?
退屈過ぎて、あくびが止まらないよ。
窓際の壁に目を向けると、
「教育目標
考える子 思いやりのある子 元気な子」
って貼ってある。
私は6年間そうなれるように頑張った。
子供は大人の言うことを聞かなきゃならないものだと思っていたから。
誰からも疎ましがられたり嫌われたりしたくなかった。
私のせいで、誰かを落胆させたりしたくなかった。

大人はもっと世界に目を向けろというけれど、
私にとって
このイビツな教室が世界の全てだった。
学校は、大き過ぎて手に負えない宇宙みたいだった。
その宇宙の中で、私は
友達と笑っている時もそうでない時も
ひとりぼっちだった。孤独だった。
いつも聞き手に徹して、
「聞き上手だね」なんて言われて、また笑って。
苦しかった。
もっと私の話も聞いて欲しかった。

「考える子 思いやりのある子 元気な子」
になんて、本当はなりたくない。
聞き分けのいい子でいるのは、もうたくさん。
これ以上、私に何かを押し付けないで。
私は私自身のために、考えて苦しんで生きてみたいんだ。

青春がキラキラしているなんて、誰が決めたの?
大人たちの疲れた顔を見るのは、もううんざり。
自分たちは世界に絶望しているのに、
どうして未来に希望を持てなんて言うの?

私の中で、真っ赤な炎が激しく燃え始めている。

もう、誰からも束縛されたくない。
傍に猫さえいればいい。
私は、もうすぐランドセルをおろして自由になる。

私がなりたい私になるには、
まだ時間がかかりそうだけど

さよなら、ランドセル。
さようなら、世界。

 
 

(✳︎)ニーチェ「ツァラトゥストラかく語りき」より