mere・単なる

 

さとう三千魚

 
 

海浜公園への道路は封鎖されていた

港横の
駐車場も

立入禁止だった

行き場のない人たち
行き止まりの浜辺

にいる

佇んで

海は

うねってた
光ってた

海から帰ると
女は

シリと話している

シリ
シリ

マリーゴールド探して

シリ

あいみょんのマリーゴールド探して

あいみょんの
あいみょんの

マリーゴールド

女が
囁いて

いる

海はうねっていた
人々は佇んでいた

 

 

*タイトルは、twitterの「楽しい英単語」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

敦盛どうぶつの森

 

工藤冬里

 
 

春分てあるの知らなかった。直実が新聞紙を全面に拡げてゴキブリをとる要領で近づき、さっとくるんだら逃げなかった。押し入れに仕舞われる時、新聞紙から少し青がはみ出しているのが見えた。世の中にはまだ知らないこういうこともあるんだぜと僕は直家に得意になって教えた。まだいるかなと思い自分でも家の中を探してみると玄関の上框の隅にレンタル水のサーバーくらいの空気の青い部分があり、それが春分よ、と言われた。捕まえようとするのだが、変形しては海月のようにするすると抜けて漂って行ってしまうので、畑の方に出てみた。色が空とが合わさるので探すのは難しかったが、陰になった地面にいたので今度は捕まえたらわりとゼリー状で、口をつけてみたら味はしなかった。押し入れに丸められたやつはいなくなっていたので、今度は直家の十六まで使っていた六畳間に入れると、急に、なんで捕まえるの、と声がするので、えーっ、しゃべるんだ、と言うと、どことなく顔にも見えるような像容となり、あなたわたしのこと好きでしょ、さっきもここら辺をぎゅーっとしてちゅっちゅっとかして(笑)などと言いながら消えていこうとする。きみみたいなのは沢山いるの?、と訊くと、そうだよ、メールとかも見るんだよ、アドレスはアビルジーンatumori何とか、と言う。自分のiphoneが手元になかったので直実のアンドロイドに入力しようとするが、abirug..?と確認すると、うーん字で書くとそういうことになるわねえ、などとゆっくりいいながら春分はそれでも消えていこうとする

 
 

 

 

 
#poetry #rock musician

自転車物語

 

みわ はるか

 
 

まろさんの背中はこんなにも大きかったんだなと初めて知った。
その背中を一生懸命に追うわたし。
上り坂が多くてわたしはすぐに息が切れてしまう。
ダイヤルを回して軽く足が運べる設定にしても限界がある。
中学生の時は駅伝大会で区間賞をとるレベルだったんだけどなぁと首をかしげながら時がたつことの残酷さに舌打ちしたくなった。
東屋が遠くに見えた。
あそこまでもう一息頑張ろうとぐっと足に力を入れる。
まろさんはわたしとの距離が空いてしまったことにようやく気付くとブレーキをかけこちらを振り返った。
咲いたばかりの桜の花を見るような柔らかい笑顔でいつまでもいつまでも待っていてくれた。

この春わたしはちょっぴり値がはる折り畳み式の雪のように白い自転車を買った。
まろさんが以前から持っていた炭のように黒いそれを真似て。

以前使っていた普通のママチャリを買ったのは高校入学時だ。
それを何度かのパンクを乗り越え大学3年生まで使った。
しかし残念ながら大学4年生の時、数ヵ月使わず学内の駐輪場に置いていたら当然のことながら撤去されてしまった。
「はっ」と気付いた時には後の祭りで、愛着あるわたしのパートナーはさよならを言う機会もなくいなくなってしまった。
落ち込みに落ち込んだ。
かごは錆びついてボロボロ、カラカラとペダルをこぐだびに聞こえてくる奇妙な音、学校から配られた校章の入ったステッカー。
全部が思い出だった。
あの自転車とともに大学の卒業式を迎えることがいつのまにか小さなゴールになっていた分ひどくがっくりした。
新しい自転車を買うことも考えだがなんとなく買わずじまいで卒業証書を受け取る日を迎えた。
それ以後自分では購入していなかったのでおよそ7年ぶりくらいに新しいパートナーと出会うことになったのだった。

折り畳みであることがわたしの世界を広げてくれた。
日本では公共交通機関を使用する際は袋にいれなければならない。
専用の袋も同時に購入したのですいすいと電車やバスに乗ることができた。
着いた先で折りたたんだ時とは逆の手順で組み立てる。
ものの30秒で完成してしまう。
そこからは自由だ。
その土地の行きたい方向へペダルをむける。
車では通れない細い小道も問題ない。
しだれ桜はほとんど葉桜になってしまっていたけれど八重桜は見頃だった。
黒色のジャージできちんと後ろ髪をポニーテールにしてジョギングをしている若い女の子たち。
少しくすんだピンク色の作業着につばの広い帽子をかぶったおばあちゃんが丸太のような木の上に腰をおろしている。
畑作業の途中だろうか、ずっと遠くを見ていた。
その目の先にはイワシ雲がたなびいていて深い緑の山、もっと標高の高い山には雪がしっかり残っていた。
パンが焼けるいい匂いがしてきたのでその匂いを追ってみた。
白い工場からそれは出ていて、中を窓越しに覗いてみても作業場しか見えなかった。
中に思い切って入ってみると数人の人影とともに事務所らしきものを発見した。
尋ねるとここはパンの製造だけで卸しているのもスーパーのみ、専用の店舗は持っていないのよと丁寧に教えてくれた。
幾分がっかりはしたもののパンの焼ける香りはいつでも追ってみたくなる魅力がある。
その香りがなくなる距離に達するまでずっとかぎ続けていた。
1時間程こぎ続けるとさすがに足も心も限界だった。
家にむかってこぎ続けていたのだけれどまだ30分くらいある。
まろさんは最寄りの駅から電車で帰ることを提案してくれた。
それが折り畳みのいいところなのだと。
あっという間に家の近くの駅まで来た。
改札を通るとまた組み立てて乗るだけだ。
まろさんは今度は横並びで走ってくれた。
まろさんが乗ると炭のように黒い自転車はとても小さく見える。
それがなんだかたまに滑稽に見えることがあるけれどそれもまたいい。
玄関に到着するころには付けていたヘルメットは汗でじんわり湿っていた。

世界恐慌が1929年、それからおおよそ100年後の現在世界はまた変革期を迎えているように思います。
外出や公共交通機関を使用することを躊躇う世の中になってしまいました。
見えない敵と戦うというよりはおそらくこれから先共存していかなければならない日々が続く気がします。
いつか、今はまだ無責任ないつかかもしれないけれど、誰か大切な人と外に出られる日がみんなに来ますように。

最後に、今自転車の需要が増えているそうで、購入した町の小さな自転車屋のおじさんがにんまり顔だったのが忘れられない。

 

 

 

悪い人

 

塔島ひろみ

 
 

屋根が傾いたアパートの前を
老人が犬を連れて通りかかる
その後ろから 悪い人がやってきた
路地を抜けるとそこはもう川だ
老人と犬は土手上へ続く階段を上る
悪い人は上がらず、左に折れ
赤いツツジが咲く狭い歩道を少し入ったところで止まり、チャックを下ろした
よく晴れた祝日 江戸川堤のサイクリングロードは人でいっぱい
ジョギングする人、自転車、スケボー、みなまるで悪いことをする人のように
顔を大きなマスクで覆っている
誰が誰だかわからなかった
あわててポケットからマスクを出して付け(犬も)、群に混じると
もう、老人も犬も、どれがそれだかわからない
悪い人は土手に向って放尿した
雑草が茫々と生え茂る斜面に湯気が立ち上り、しぶきを浴びたひなげしが くすぐったそうに顔を振った
それを見て太陽がキラキラと笑っている
用が終わると悪い人は性器を汚ないズボンにしまったが
悪い顔は丸出しのまま タバコをくわえる
悪いことを重ねて辿り着いたどん詰まりの東京の土手下で
天に向け煙を吐きながら
次にどんな悪いことをするのか、悪い頭で考えるのだ
空は鮮やかな青色
鼻を塞いだ土手上の悪くない人たちには届かない4月の草草のにおいを嗅ぎながら
悪い人とひなげしと太陽
そこに 緊急事態宣言は発令されていなかった

 

(4月某日、北小岩4丁目で)