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小関千恵

 
 

 

最初に
光を写した

塵や屑が埋もれている草叢に
光が差していた

塀を外し
光を庭にして
大好きな生き物と触れ合う生活
光という永遠の中で
限りあるもの同士が
美しい音を立てながら
豊かに関わる日々

そんな喜びを想像した

塀が無いと、
石が飛んでくるのだろうか
それも、生き物との関わり

人々の恐れの余波の先、
想像を超えるところで
砕かれていくものがある

石を投げる人の気持ちは分からないと思っていたけれど
きっとわたしも
石を投げていたことがある
閉じ込められた箱の見えない壁に向かって
幾度も
何を傷つけていたのかはあまり分かっていない

離れあって 浮かび上がる

フレーム
空白空0フレーム
空白空白空白00フレーム

瞳の中
瞳の中の瞳の中
瞳の中の瞳の中の瞳の中の・・・
そんな無限には
最初の瞳
自分の瞳があることを
忘れないようにしていたい

やぶれた道の
やぶれた隙間にこころを隠しながら

無関心の空へ
人に贈る以外の
高鳴りで

はじかれ

みとめあい

ひずんで
おちる

無限数のみちの ひとすじ

心の奥から生えていく

空へ
差していく

光が家だった

風を着て

光の家に
住んでいた

 

 

 

Your room is out of order.
君の部屋は乱雑だね。 *

 

さとう三千魚

 
 

morning

the typhoon has gone
west mountain stood in green

was under the blue sky

this man was also under the blue sky

the ground was wet

I can clearly see the west mountains
is it an illusion

beyond the tunnel of the collapse
this man leaves

the journey
the traveler

beyond death

the woman went out

I am with my dog
boat sold
find a substance in words

the laundry is over

Your room is out of order *

 

 

大風は去った
西の山は緑色に立っていた

青空の下に
いた

青空の下にこの男もいた

地面は濡れていた

はっきりと西の山が見える
幻影なのか

大崩れのトンネルの先に
旅立つ

旅は
旅人は

死の向こうにある

女は出かけた

犬といる
舟は売った
言葉に物質をみる

洗濯は終わった

君の部屋は乱雑だね *

 

 

*twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

其日本及日本人

 

工藤冬里

 
 

私たちは全員外国人なので
曲は努力しなくても夢に出てくる
努力しなくても自然に外国人には成れるので
タオルをマイケルの肌のように白くする
私は街の人をフィルムカメラで順番に撮っている
「外国人」という写真集を出すのが私の夢だ
その夢に
曲は自然に出て来るのだ

 

 

 

#poetry #rock musician

眠れる花

 

村岡由梨

 
 

ある日、私は、
取っ手のないドアの向こう側で
踏み台を蹴り飛ばして首を吊った。
娘たちが幼い時、戸棚のお菓子を取ろうと
背伸びをして使っていた踏み台だ。

もう二度と、あなたたちを残して逝かない、
と固く約束したのに。

せめて、あなたたちにきれいな詩を遺そうと、
言葉を書き留めたはずのノートは白紙のまま。

命は有限なのに、
無限に続くと信じて生きていたのはなぜだろう。
この世に永遠に続くものなんて無いのにね。
組み立てては崩してしまうブロックのおもちゃみたいに、
何度も「家族」を組み立てては壊してきた私たち。

いつの間にか女性らしい丸みをおびた体を
セーラー服で隠して、
「家を出る。もう帰って来ない。」
と言って、眠は
母親である私を振り返ることもなく、出て行った。
赤い絵の具を使って
大好きな猫のサクラの絵をひたむきに描いていた眠。
小刻みに肩を震わせて、
決して泣き顔は見せまいと
サクラの背中に顔を埋めていた眠。
サクラはザラザラの舌を伸ばして
一生懸命、眠の悲しみを食べていた。

蛍光色の段ボールのフタをこじ開けて、
これが最後だと信じて、盗みをはたらいた。
いつでもこれが最後だと信じて
何度も何度も盗んで
何度も何度もやめようとした。
けれど私はズルズルと罪を重ねて、
「私には生きてる価値がない」
そう言って、母を散々困らせた。
母は悲しそうな顔をして、何も言わなかった。
そして、今
「わたしなんて、どうでもいい人間」
「どうして私を生んだの」
と大粒の涙を流して、私を責める花がいる。
花は盗まない。花は嘘をつかない。
けれど、わからない。
私なんかが一体どんな顔をして、
どんな言葉を花にかければいいのだろう。

私は眠で、眠は私。私は花で、花は私。
あの日、取っ手のないドアの向こう側で首を吊ったのは、
私だったか、眠だったか、花だったのか。

森の奥深くの静寂な湖に
紫色のピューマになった私たちの死体が浮かんでいる。
誰が訪れるということもなく
傍らには、4枚の花弁に引き裂かれた私達の花が
ひっそりと咲いていた。

夕暮れ時の、不吉な色の空の下
霧に包まれた林間学校から抜け出して、
もうここには戻りたくないと
踵を返して走り去る、小学生の私。
2人の娘を生んだはずの生殖器が
真っ赤な血を吐き出しながら罵詈雑言を叫んでいる。
涙が後から後から流れてきて
いっそ一緒に死のうか、と娘に言おうとして、やめた。
最後まで駄目な母親でごめんなさい。
せめて真っ赤に生きた痕跡を残したかった。

夜になって海辺に着き、
黒い水平線に吸い込まれるように
(しっかりと手を繋いで)砂を蹴って進む。
もうこの世界には、居場所も逃げ場所もない。
それでも私(たち)がこの世界から欠けたことに、
いつか誰かが気付いてくれるのなら。