わしかてずっと一緒におりたかったわ

 

工藤冬里

 
 

社会学者がサカナクションの新宝島を 唄った
その前は真心ブラザーズの拝啓ジョンレノンだった
それから知らない女の子がボニーピンクのヘブンズキッチンを 唄った
僕はマスクをしていた
同じ女の子が細野晴臣の恋は桃色を 唄った
ポンコピピンのマスターが誰がために戦うというサイボーグ009のアニソンを唄い上げた
死の荒野というところを極限まで引き伸ばした。
社会学者が蘇州夜曲を唄った
ポンコピピンのミホさんが椎名林檎ヴァージョンの木綿のハンカチーフを 唄った
知らない女の子がエゴラッピンの嘴にチェリーを 唄った
ポンコピピンのマスターが愛の讃歌を唄った
社会学者が頻繁にキーを変えながら平沢進の白虎野を唄った
ミホさんが椎名林檎の茜さす帰路照らされどを唄った
僕が歌ったのはこんな歌だった
月夜のボタン
月がきれいなので
虫を食べることにした
抵抗して弾けて飛んだボタンは月になった

光になれば月は見えず
虫のように真っ白になって歩いていた
月を見るためには虫を食べなければならな

変わらなければならない
月になってはいけない
今夜のきみは空のメダルのようで コートの中はひとの形はしているが 凍結されたカードのように空っぽだ 月を見ず 花を見ず メダルのようなボタンになって 拾われぬまま
照らされず 虫を食べるようになることなど思いもかけ ないのだ ボタンの血を飲み月の肉を食べることがそ んなにいやなら 2トントラックがバックするから 心をひねりつぶせばいい�花を見ず 強姦され�月を見ず 強姦され ぺしゃんこになった二次元の光 ひとはいつか虫を食べるようになると ぼくは今夜は思っているんだ
それからポンコピピンのマスターが美空ひばりの乱れ髪を唄った
そのあと社会学者が椎名林檎の罪と罰を唄った
ミホさんが平松愛理の部屋とTシャツと私を 唄った
知らない女の子が相対性理論の地獄先生を 唄った
ポンコピピンのマスターが新造人間キャシャーンを 唄った
社会学者がベルバラの薔薇は美しく散るを唄った
ミホさんがCHARAの優しい気持ちを 唄った
知らない女の子がとんちんかんちん一休さんを 唄った
社会学者がミシェルガンエレファントのバードメンを 唄った
ミホさんがタイムマシンにお願いを唄った
ポンコピピンのマスターがオーバーザレインボーを唄った
知らない女の子とポンコピピンのマスターが が初めてのチュウを 唄った
社会学者と知らないヒロシとミユキの男が女のラブゲームを唄った
知らない女の子は永井真理子のミラクルガールを唄った
社会学者が三国志ラブテーマを 唄った
知らない男がブルーハーツの1000のバイオリンを 唄った
ミホさんが歌舞伎町の女王を唄った
ポンコピピンのマスターが獣は裸になりたがるを歌った
社会学者がイエモンのJAMを 唄った
外は冷たい風
街は矛盾の雨

 

 

 

#poetry #rock musician

 

塔島ひろみ

 
 

今朝方、部屋を焼いた
人間扱いされなくて仕事をやめ
お金がなくなり
飼い猫が死に
独りぼっちの女はタンスに猫の死体と広告紙を入れ
油を撒いて火をつけた
つかまるために、誰かに見られ、飼われるために
部屋を焼いた
そしてその、行列に並んだ
長い列はゆっくり進み、入口で一人一人検査を受け、合格者だけが中に入る
⬜︎私はロボットではありません
それは人間を判別する試験である
ボックスにチェックし図中の「消火栓」を示すと女は「人間」と認められ
他の人間たちに続いて、檻の中に入っていく
門が閉められ太い閂がかけられた

パンダが笹を食べていた
行列はのろりのろり進みながら子どもパンダの写真を何枚も撮り
サル山に移動し、そこでのんびり猿たちを眺める
秋の日差しはほのぼのと降り注ぎ、赤ちゃんをしっかり抱く母猿を見る人間たちはみな優しい表情だ
象を見て、キリンを見て、白クマを見て、少し汗をかき売店でソフトクリームを買ってベンチで食べ
ゴリラを見て、トラを見て、カバを見て、コンドルを見て、少し、悲しい気持ちになって
日が暮れ、お土産を買って家に帰る
翌日はまたつまらない仕事が待っているけど
翌日はつまらない仕事をし、翌々日もまたつまらない仕事をし、その次の日も次の日もつまらない仕事を続けたあげく、
仕事をしないではいられなくなる。ときどき弱いものを殴ったり、なでたりしながら。
それが「人間」という種類のロボットです。
シマフクロウが子どもに説明板を読んできかせる

門は閉まっていてびくともしない
⬜︎私は人間ではありません
チェックを入れる
☑私は人間ではありません
錠が解け、女は檻から放たれた

外では、檻に入れない人間でないものたちが、ワイワイ集まって、大道芸を見物していた
一本綱に片足立ちのパンダの着ぐるみを着た人間でないものが、笹を食べようとしてバランスを崩し、綱から落ちた
拍手と笑い 猫やハト、カラスもやってきて輪に加わる
女は、離れたところでそれを見ていた
見上げると空は雲におおわれ太陽の位置さえわからなかったが
鳥が飛んでいた 迷うことなくどこかへ向って飛んでいた
出頭する前にせめてパンダでも見ておきたくてここへ来た女は
動物園をあとにし
警察とは逆の方角へ向う

ここもまた檻の中かもしれなかったが

 

(10月某日、上野動物園で)