The noise grew fainter and fainter, till it was heard no more.
その物音はだんだんかすかになっていき、ついにはもう聞こえなくなった。 *

 

さとう三千魚

 
 

I was listening to Philip Glass’s “Metamorphosis”

in the middle of the night
I was listening

soon
it’s 23:00

let’s sleep

there was a road in the forest and white lilies were in bloom.
it smelled like a lily

let’s sleep
let’s sleep

in “Metamorphosis”

The noise grew fainter and fainter, till it was heard no more *

 
 

フィリップ・グラスの”Metamorphosis”を聴いてた

夜中に
聴いてた

もうすぐ
23時だ

眠ろう

森のなかには道があり百合の白い花が咲いていた
百合の香りがしていた

眠ろう
眠ろう

“Metamorphosis”のなかに

その物音はだんだんかすかになっていき、ついにはもう聞こえなくなった *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

荻窪Goodman1984-1986を編集する園田佐登志

 

工藤冬里

 
 

付録でもんだいなのは、このアルシーヴ化のなかの、アルコン的、(言い換えれば公文書管理的)部分、つまり、前デジタル期におけるテクストを集め分類する、その権威主体が裂開しているということである。そこから立ち上るゆうれいが同じものではないということが、アルシーブ化に<法>が介入する鮮やかさに濁りを与えているのである。パラレル通信に限って言えば、園田は動機を問題にし、小山はポストモダン下のその時点で出来る範囲の観照を行い、大里はただ音楽を聴いている。ヨブの三人の友のように彼らは正しく、そしてヨブは居ない。

 

 

 

#poetry #rock musician

30才

 

みわ はるか

 
 

今年度、とうとう30才になってしまった。
何者でもなくここまで来てしまったわたし、いいのだろうかと頭をかかえる。
「しまった、しまった」と後悔することばかりだけれどいいだろうか。
なりたかった30才になれただろうか(そもそも30才になりたかったのかどうか)。
来てしまったものを追い返すことができない今、仕方なく受け入れる。
町のアンケートの年齢記入欄に、そっと(30代~)の部分に小さく丸をつけた。
ふっーと大きなため息がもれた。

先日、自動車免許証の更新に行った。
かくかくしかじかあって、18才で免許をとって以来初めてのゴールドカードだ。
ゴールドカードになると次の更新まで5年あるという。
身分証明書としてよく使われる免許証、そこに写っている自分の顔・・・・・・・、長い付き合いになるということ。
これは大変と、まだ毛布にくるまっていたいと思わせるような寒い朝、いつもより早く起床した。
念入りに化粧水を塗って乳液も細部まで慎重に。
軽くドライヤーで髪に空気を入れ、ヘアアイロンで髪先まで丁寧に整える。
朝食はいつも通りバナナ、ヨーグルト、チーズと済ませる。
温かいほうじ茶を流し込みお腹を満たす。
これでもかと降り続ける雨をげんなり見つつ、化粧を始める。
昨日のニュースをテレビで確認しつつ、念入りにアイブローをひいた。
最近おろそかにしがちなチークや口紅もさらっと馴染むようにつける。
5年間付き合える顔になんとかなったかなぁと、何度も鏡の中の自分を食い入るように見つめる。
朝一の講習のためあっという間に家を出る時間となった。
上だけスーツに着替え、下は暖かいパンツスタイル。
上着を着るので大丈夫、上着を脱ぐのは写真撮るときだけと自分を納得させ家を出る。
さっきよりひどくなっている雨には舌打ちしたい気分になった。

10分前に会場に着いたのにもう人でいっぱいだった。
急いで手続きを済ませる。
コンタクトを代えたばかりというのもあり目の検査はばっちりだ。
そしていよいよ写真撮影。
急いで上着を脱いで上だけスーツスタイルになる。
撮影者や後に並んでいる人たちの「早くしてくれ」という心の声にも負けず、鏡の前で最終セットにかかる。
うん、悪くない、いいのではないかとうなずき、さっと撮影カメラの前に腰を下ろす。
一瞬だった。
「はい、次の人~」
まるで回転ずしのようにその場を離れ次の講義室へと誘導された。
ありがたいお話を30分聞き、講習は無事に終わった。
そしていよいよ、これから5年間もお世話になる新しい免許証の交付が始まった。
20番だったのでドキドキしつつも身支度を済ませてお行儀よく待っていた。
20番といってもここでも回転ずしの様にスピーディーな対応だったため、あっという間にわたしの手にはNEW免許証が収まっていた。
・・・・・・・・・・・・、可もなく不可もなくといったところだろうか。
あえていうなら、口紅をひいておいてよかったな、少しは映えたなという感じ。
死んだ魚のような顔をしていた前の免許証からしたらずっといいなと自分を納得させた。
次の免許証更新日を見た。
ふぅー、その時はもう35才かぁ。
どんな人生をおくっているんだろう。
考えたらなんだかぞっとした。
首を大きく左右に振って今は考えないことにした。
外に出ると雨はあがっていて、危うく傘を持ち帰るのを忘れるところだった。
大きな水溜まりが至る所にできていた。

元々ある貧血がひどくなった(寝込むことも増えた)。
離れて暮らす兄弟にこちらで有名な肉のステーキ(わたしは食べたことない)を送った。
ゴミの分別が心底めんどくさいと思い始めた。
SNSで地元に残っている知り合いや友人のアカウントをかかさず見るようになった。
新しく接する人と関係を築くのが億劫になった。
犬を今まで以上に愛でるようになった。
遊園地にある廻るブランコに10回ぐらい乗りたい。
城崎温泉、尾道、房総半島、しまなみ海道へ行ってみたい。
誰かに必要とされたい。
ちゃんとした「何者」かになりたい。

あぁ、30才、きれいな数字だ。

 

 

 

陽春白雪

 

工藤冬里

 
 

例えば春に、遠くの雪山をスマホで撮ると、頭で考えているより小さくてがっかりすることがありませんか? 遠近法を無視したり変えたりするのが絵画史であったと言えます。例えばソ連の素朴画家の「わが息子」という絵は息子が山より大きいし、松山の三津浜駅の「三津浜図」は遠く富士山まで俯瞰していて、これらの遠近法は地球が平面であるのと同じくらい正しい。
さて祖父の描いた戦前のモンパルナスです。彼の場合、遠近法はそのままに、強調したい丘のみを物理的に他より厚塗り(二センチくらい)するわけです。ですから絵というよりもはや立体に近い。ルオーは絵の具を削り落としてはまた塗るという作業を繰り返したそうですが、祖父の場合はケントリッジか石田尚志かというくらい途中経過も全て残しながら層を堆積させていったのです。それが僕の最近の、ボイスメモをGarageBandで重ねた「練習!パフォーマンス」という声の作品の情報処理の不器用さとふと似ていると思ったのです。

 

 

 

 

#poetry #rock musician

Turn off the radio.
ラジオを消しなさい。 *

 

さとう三千魚

 
 

I’ve been walking

morning
along the river

I walked to the estuary

I met stray cats

the sun was rising high above the peninsula

on the west mountains
there was a big white cloud

for tangerines on the windowsill

yet
white-eyes have not come

to the sign
because they fly away

be quiet
waiting

Turn off the radio *

 
 

歩いてきた


川沿いを

河口まで歩いてきた

ノラたちに
会った

半島の上に朝日は高く昇っていた

西の山の上に
白い大きな雲がいた

窓辺の蜜柑に

まだ
メジロたちはきていない

気配に
飛び去ってしまうから

静かに
待っている

ラジオを消しなさい *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

 

塔島ひろみ

 
 

じゃがいもの窪みが黒くなってて、包丁のヘリで掘っても掘ってもどこまでも黒くて結局向こう側に到達しちゃって、なんだこのいもダメじゃん、てことがよくある。この前はナスでも同じことがあり途中で青虫の死体みたいのが出てきたので捨てた。

そのいもの窪みと似た傷が手の甲にある老人が、公園で子供に傷を見せていた
戦争で、ラバウルという南の島で、弾が当たって、それがまだ手に入っている、とウソを言って見せている 
子供たちは「やばい」と言いながら熱心に「弾の入った手」を見つめる みんな100円ずつ払っている
「さわらして」とひとりが言った 
「じゃああと100円」子供たちは財布から小銭をつまみだし、老人に払う
「イタタタタタ!」触られたとたん老人は悲鳴をあげる
「まだ痛いの?」
「手の中でタマが少しずつ溶けているんだな、それで痛いから優しくさわろうね」
こどもたちはこわごわなでるように傷をさわり、それから念入りに手を洗って遊具に戻った
老人は集めた小銭を首からぶら下げた小袋に入れ、次の公園に行き、えものを探す

公園では私がひとりで鉄棒で遊んでいた
声をかけられ100円払うと、垢だらけのがさついた手が差し出された
中指と薬指の間がおぞましく窪み、奥まで黒く、中はどうなっているのだろう。掘ってみたい。青虫の死体が入っているのかしら。切り刻んでみたい。捨ててみたい。
もう100円払って触らしてもらう 硬くなっている所を押すと、老人は飛びあがり、泡を吹いてベンチから落ちた その泡だらけの口にもう100円、もう100円と入れていく
もっと触らせてよ、暴かせてよ、男にまたがり、顔面をなぐり、抱きしめる
男は臭くて、私は泣いていて、男は優しかったが、傷の正体は最後まで見せてくれない

その手が乾いたコッペパンを持って、口のところへ運んでいった 口が開きカサカサのコッペパンを飲みこんでいる 唾液が出て乾いたコッペパンが湿った 口の上には髭があり、髭の先にコッペパンのカスがつく 口の下方に首があって喉仏がびくんと大きく動き、コッペパンは老人の体内に深く入り、老人になった
髭についたパンカスはコッペパンのままなのに
手の傷も老人にならず傷のままなのに

スーパーで、大きなグレープフルーツをかごに入れた老いた女が、次に苺を選んでかごに入れ、ああ、何か違うとカートにもたれて考える
そして自分はいまグループホームに住んでいて、食事はそこで配されることを思い出した
女の手の甲には、じゃがいものウロのような、黒く深い傷がある いつか見たことがある傷がある
左手でさわるとむずむずし、押すと痛い
ああなんだ、これは私の傷だ、と女は気づく 
かごには大きなグレープフルーツと真っ赤な苺が入っていた
傷を左手で包み、大事に隠しながら、女はカートを押した ぐいぐいと押した
レジへ並ぶ 
今日はこのフルーツを食べようと思う   

犬と老人 夕焼けのベンチ
犬が老人の右手を舐める
ああ気持ちいい ああ気持ちいい ああ気持ちいい
傷は深くやさしく 老人の体の奥へ広がって
少しずつ老人になっていく

ベンチには穏やかに腐りかけた老人が ポツンとじゃがいものように座っている

もう子供たちは寄り付かない

 

( 2月某日 公園で )

 

 

 

The mountain is about 1,000 meters above sea level.
その山は海抜約1000メートルだ。 *

 

さとう三千魚

 
 

from morning
it was raining

it was raining hard

on the windowsill
neither white-eye nor bulbul came

I couldn’t see the west mountains
rain clouds fell and wrapped around the port town

is the west mountains about 500 meters above sea level
there seems to be a big hawk

someday
photographers had come to shoot in “Collapse”

the big hawk will fly

will fly high
will turn

The mountain is about 1,000 meters above sea level *

 
 

朝から
雨だった

強く降っていた

窓辺に
メジロも

ヒヨドリも来なかった

西の山は見えなかった
雨雲が降りて港町をつつんでいた

西の山は海抜500メートルくらいか
大鷹がいるらしい

いつか
カメラマンたちが

大崩れに撮影に来ていたことがあった

大鷹は
飛ぶだろう

高く飛ぶだろう
旋回するだろう

その山は海抜約1000メートルだ *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life